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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第10章:季節外れの萌芽
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139.場外からの矢

~ 阿部Side ~


教室に戻る途中、先程の藤白さんの様子に疑問を持った僕は、そっと隣の謡子ちゃんに聞いてみました。


「しかし、この状況でなぜ一会君が藤白さん以外を好きかもしれないなんて思考に至るのでしょうか。

誰が見ても相思相愛だと思うんですけど」

「それはほら。女の子って態度だけじゃ、安心出来ないですから。

ちゃんと口で言ってくれないと、不安に、なります」


チラリと上目遣いで見られた。

それはつまり僕達もそうなんだってことですよね。


「僕はその、謡子ちゃんの事が、大好き、ですよ」

「はい、私も大好きです。

ふふっ。やっぱり分かっていても、何度でも言って欲しいです」


改めて言うのは恥ずかしいけど、嬉しそうに笑う謡子ちゃんを見れば頑張った甲斐があると言うものです。

ただこの様子からして別に謡子ちゃんが不安に思っていた訳ではなさそうです。

これは嵌められたというより、可愛いおねだりをされたんでしょうね。

ここが学園じゃなければ抱き締めてしまっていたかもしれません。


「はぁ。今日も熱いな」

「ですね。ちょっと羨ましい」


後ろから庸一君達の声が聞こえてきますが、そういう2人はどうなんでしょう。

端から見てると彼らもお似合いだと思うのですが。


「それより問題は村基の事だろう」

「そうでした。と言っても一会君に話す気が無ければ出来ることは限られますね」


黒部先輩の言葉で我に返った僕たちですが、ひとまず様子を見るしか出来ません。

明後日から期末試験も始まりますし、その勉強もしないと行けませんし。

それから数日は試験を受けつつ一会君の様子を窺っていたのですが、例の発作?みたいなのが起きた様子はありません。

藤白さんも見ていないそうなので、そんなに頻繁に起きる訳では無いと言うことなのでしょう。

そうして試験も無事に最後の科目が終わった所で事件は起きました。


「おい村人A。お前にお客さんだぞ」

「ん?誰だろう」

「知らんが女子だ。女を待たせるな」

「そっか。ありがとう」


クラスメイトに声を掛けられて出ていく一会君。

どうやら女子からの呼び出しのようですが誰でしょうか。

謡子ちゃんや青葉さんならわざわざ呼び出して貰わなくても携帯で連絡すれば済みます。

気になった僕たちは一会君の後を追うことにしました。

廊下に出てみれば一会君と並んで歩く女子生徒の姿が見えます。


「あ、あの人多分、先日一会くんと喫茶店に来た人です」


いつの間にか隣に来ていた藤白さんがそう呟きます。

なるほど。後ろ姿だけでは確証は無かったですが、僕の情報網にもあるあの人ですか。

こっそり後をつけていけば、たどり着いたのは部室棟の1室。

試験期間なこともあって棟内にはほとんど人影はありません。

2人は揃って部屋の中に入るのかと思えば入ったのは一会君だけでした。

女子の方は一会君を見送った後、その場を立ち去りこちらへとやってきました。


「げ、姫様」

「『げ』って」

「こんにちは」


僕達、正確には藤白さんを見て顔をしかめてます。

それはつまり藤白さんには見られたくなかったと言ったところでしょうか。

なら教室から呼び出すなと言いたい所ですが。

ともかくその女子生徒はばっと手を広げて通せんぼの構えで言い放ちました。


「あ、あの子の邪魔はさせないわよ」


これは本気でガチな告白みたいです。

芸術祭の一会君を見て、それでもなお諦めきれないって言うのは相当惚れ込んでないと無理ですからね。

ただ問題があるとすれば、それは隣にいる藤白さんです。

特別怒るでもなくいつも通りの笑顔なんですよ。


「やっぱり告白なんですね」


そしていつも通りの口調で話すのですが、隣で聞いてる僕の方がちょっと怖いです。

アルカイックスマイルとかでは無いのですが。

それは向こうの女子も感じているようです。


「……なんでそんなに落ち着いてるのよ」

「別に慌てる必要はないですよね?」


2人の温度差が激しいですね。

普通に考えれば藤白さんは好きな人が別の人から告白されているんだから嫉妬したり焦ったりしてもおかしくないはず。

芸術祭の前の藤白さんの様子からして嫉妬とは無縁って訳じゃないはずなんですけど。


「結果が気にならないの?

それとも正妻の余裕って所かしら。

でもあなた達がまだ付き合っていないのは彼本人から聞いたわよ」

「ええ、確かに付き合ってはいないです」

「ならその余裕は何?」

「さぁ。それより場所を移しませんか?

ここで話していてはふたりの邪魔になるかもしれませんし」

「……そうね」


そう言ってあっさり踵を返す藤白さん。

僕とその女子は藤白さんの後を付いて行きました。

向かう先は方向からして食堂ですね。


「さっきの話ですけど」

「?」

「結果が気にならない訳じゃないんです。

ただちょっと安心してしまって」

「はぁ!?」


食堂の適当な空いてる椅子に座りながら話す藤白さんの言葉に驚きの声を返しているけど、僕もそれには同意です。

安心するような要素なんてどこにもないと思うんですけど。

仮に万が一、これで一会君がその告白してきた子と付き合うとなったら今の関係は崩壊する訳ですし。


「だって本気で一会くんを想っている人なら私程度の障害は乗り越えられるって事ですよね。

なら私は一会くんの傍に居ても問題なかったって事ですから」

「??」


分からないか。まあ分からないだろうな。

盗った盗られたくらいの感覚で男女関係を見ていては藤白さんの気持ちは理解出来ないでしょう。

というかこれ。一会君に問題あると思ってましたけど、藤白さんにも問題ありそうですね。


プルルルルっ

「!?」


携帯が鳴ってるのは僕らじゃないですね。

ということは、どうやら結果が出たようです。



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