137.家へのこだわり
うーむ、困った。
何というか気まずい雰囲気で、よし勉強を再開しようとかいう感じではない。
かと言って黙ってたらそれはそれで空気が重い。
ここは何か話題を変えて気分転換を図るしかないな。
なにか適当な話題は……あ。
「そういえば姫乃の家もこの近くなんだよな」
「え、あ、うん。えっとね、あそこの赤っぽいマンション」
そう言って姫乃が窓から指差したのは通り1つ違いの赤茶色の壁のマンションだった。
俺の部屋は11階なので、ギリギリそのマンションの屋根が見えるんだ。
にしても近いだろうなとは思ってたけど本当に目と鼻の先だな。
それなのに今までスーパーくらいでしか鉢合わせしてなかったのは朝は基本的に俺の方が早いし、夜はお互いにバイトをしてるからか。
「ちなみに姫乃があそこのマンションに決めた理由とかってあるのか?」
「1番は立地かな。駅とスーパーが近くて治安も悪くないところっていうのが最低条件だったから」
「なるほど。その辺りは大体俺と同じか」
「一会くんだったら他にどんな条件付けるの?」
「そのマンションの最上階」
「高層階が良いって言うなら分かるけど、一番上が良いんだ」
「だって時々聞くだろ?上の階の奴がドタバタして煩いことがあるって」
良くある騒音被害の内、隣の部屋が煩いって例もあるけど真上の部屋がってのも良くある。
他にも上に部屋があると、そっちで水漏れなんかを起こした場合に下の階まで水浸しになることもあったりな。
逆に火事なんかだと下から上に燃え広がるし、地震が起きた時も高い階に居た方が危険度は増すのでどっちが良いかは人それぞれだろう。
「あと部屋を決める決め手って言ったら風呂トイレ別かどうかか?」
「だね。私は断然別がいいな」
「俺はどっちでも良いけど、今ユニットバスの部屋に住んでみて分かったのはこっちの方がトイレ掃除が楽なんだよな」
なにせシャワーで簡単にお湯でも水でも掛けられるし、周囲が濡れるのも気にしなくて良い。
ちょっと汚れてきたなと思ったらすぐに掃除できるのも良い。
対して風呂トイレ別だとそうはいかない。
多分やるとしたら週末に「よし今日は掃除の日だ」みたいに気合を入れてやることになるだろう。
ただそうなると段々めんどくさくなってサボりだす未来が予想できる。
「後はキッチンには二口コンロは欲しいよね。出来れば魚焼きグリル付きのが」
「冷蔵庫もケチって小さいのを買うと大変だから気持ち大きめのが良いよな」
「そうそう。オーブンなんかもあれば休みの日にクッキーとか焼いたりしてね」
そうして何故か俺達はベランダで育てるならハーブが良いとか、オートロックマンションも意外と信用できないよねとか、家族で住むなら自分の部屋は欲しいかな等々、家談義で盛り上がってしまった。
パンツ騒動は無事に忘れられたから良かったけど勉強はそんなに捗らなかったな。
「……あーその、なんだ。お前ら同棲でも始めるのか?」
週明けの昼休みに勉強会はどうだったと聞かれたので答えたら黒部先輩から微妙なツッコミを頂いた。
というか何でそんな話になったんだろう。
「そんな予定は今の所まったく無いですけど」
「ええ。当たり前じゃないですか」
「はぁ~~」
俺達の冷静な返事になぜかため息を返されてしまった。
なにかそんなに変だっただろうか。
2人そろって首を傾げてると、イラっとした感じの黒部先輩がビシッと俺を指差した。
「というかだ。折角2人きりになって、しかも自宅に招いたのだろう!
姫様を押し倒して迫るくらいの男気を見せたらどうなんだ」
「いやそれ男気っていうのかな」
「一歩間違えたら犯罪ですけど、ある意味肉食系と言えるのでしょうか」
「ちなみにもし姫乃がそれを誰かにやられたらどうする?」
「顔面グーパンで怯ませて男性の大事なところを思いっきり蹴り上げます」
あ、これ本気でやるな。
ということはもしあの時、魔が差して手を出そうものならそうなっていたのか。
他人事ならともかく、自分がそうならないように気を付けないとな。
「まあ、そもそもそんなことをする人の家に上がり込むことも無いですけどね」
「だろうな。
それに先輩。別に俺達付き合ってる訳じゃないですから」
「そうだ。まさに問題はそこだ!
お前達、お互い憎からず想い合っているのだろう?
ならさっさと付き合っ……て、どうした?おい、村基」
「一会くん?」
まただ。今回のは特に激しく胸を貫くような痛みに一瞬意識を持っていかれた。
流石に話してる途中だったこともあり気付かれたか。
姫乃を始め、その場にいた皆が心配そうに俺を見ている。
ただそうは言っても俺自身これと言って説明できる訳でも無いんだよな。