132.閑話~魔神を倒すために~
月日は流れ、俺とシロノは幾つもの国を巡り、その度に協力者を増やしたり事件を解決したり、そして魔神復活を企む組織の活動を妨害してきた。
しかし個人で組織に対抗するのは無理があったのだろう。
先日、魔神復活に必要な最後の儀式が行われてしまった。
俺達はギリギリその情報を入手して現場に踏み込んだが時すでに遅し。
儀式そのものを止めることは出来なかった。
「これはもう、今からじゃ止めることは無理か」
「そうね。頑張っても多少遅らせることが出来るだけ。
早ければあと1月、遅くても3か月後には魔神は復活してしまうわ。
ただの人でしかない私達では魔神に勝ち目はない」
チェックメイトだ。
例え遠くに逃げたとしても復活した魔神がその復活を邪魔しようとしていた俺達を無視してくれると考えるのは楽観視し過ぎだろう。
だから俺達の命は持って数か月と言える。
「ねぇキヒト。もう手遅れならさ。
いっそ残りの時間はどこか静かな所に家でも買って、それでふたりで愛し合って生きていくのはどうかな」
どこか疲れたような諦めたようなシロノの提案は、正直魅力的な提案ではあった。
俺だってシロノの事は心底惚れているし、シロノだって俺の事を愛してくれているのは知っている。
シロノに隠れて一人でうっかり見てしまったシロノの裸体を思い出しながら自慰行為に耽った回数は両手じゃ数えきれないし、同じ宿に泊まった時など手を出さないようにするので必死だった。
ただ今までは魔神復活を阻止するまでは我慢しようと話し合って決めていた。
快楽に逃げてしまったら、きっとそんな危険な事は誰かに任せてしまおうと逃げたくなるからと。
だけど、もう魔神復活は止まらない。
ならもう良いのか。……いや。
「それでも俺は、愛したお前には1年後も10年後も幸せでいて欲しい」
「でももう手なんて……」
「手ならある。先々月見つけた女神の神殿だ。
そこに祀られていたのはかつて魔神を封印する時に勇者に力を授けた女神だったはずだ。
なら今回だって魔神を倒すために力を貸してくれるかもしれない」
以前行った時は特に何もない普通の神殿だった。
だから今行っても女神に俺達の声が届くなんて可能性はないのかもしれない。
俺は英雄でも勇者でもない、どこにでもいるような村人だしな。
シロノなら由緒正しい血筋であってもおかしくないけど、そもそも女神が居るのかも分からない。
それでも行かずに諦めるなんてことはしたくない。
そうして辿り着いた神殿で、俺達はある意味賭けに勝った。
『心に強き光を宿す者たちよ。よくぞ来てくださいました』
祈りを捧げる俺達の脳内に女神の声が届いたのだ。
『今のあなたではかの魔神に傷をつけることすら出来ないでしょう。
ですので少年よ。あなたの心に宿る最も強き想いを武器に変えて差し上げましょう』
そして少女よ。あなたには魔神を封印する術を授けます。それを使ってあなたの信じる最も強き器に魔神を封じるのです。
これにより例えその器が壊れたとしても魔神の力を削ぐことが可能です。
そうなれば聖杯などの法具に永遠に再封印することも可能になるはずです』
その言葉と共に俺達は光に包まれ、数秒して収まってみれば俺の手には1本の真っ赤な剣が握られていた。
シロノの方には見た目の変化はないみたいだけど、何となく魔神封印の為の術が分かるそうだ。
そうして俺達は1か月後、ほとんど相打ちに近い形ではあったが魔神を撃退し、封印することに成功した。
ただ。
その時になってようやく俺達はあの時の女神が何をしたのかを理解した。
同時にもうどうしようもなく取り返しのつかない状態になってしまったことも理解してしまった。
そして。
傷を癒しながら半年かけて国へ帰った俺達を待ち構えていたのは腐敗しきった王国だった。
魔神と対峙した時、奴が「人間の欲望は際限が無いから面白い」なんて言っていたし、もしかしたら復活した時になにかやっていたのかもしれない。
ただ言えるのは、もう手遅れだって事だろう。
……
…………
………………
俺はゆっくりと目を開けて夢が覚めたのを確認した。
ここ数か月、なぜかあの時の夢ばかり見ている気がする。
たしかあの後、俺達は王国に捕らえられて俺は死刑になるんだったな。
あの女神が言っていたシロノが信じる最も強き器っていうのはキヒトの肉体の事で、そしてキヒトの中にあった想いは……あの剣は魔神と刺し違えるように粉々に砕けてしまった。砕けてなお魔神の魂を縛る鎖の役割を果たしていたんだから凄いよな。