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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第9章:芸術の秋。色づく秋。
127/208

127.そして夢は醒めてしまった……

そう言えばあの魔法使いは12時になると魔法が切れるとか言ってました。

それに気が付いたシンデレラは現実へと引き戻されました。


「私の王子様。12時になると私の魔法は解けてしまうの。

だからごめんなさい。さようなら」

「待ってくれ」


そう言って立ち去ろうとしたシンデレラの手を慌てて掴む王子。

驚いて振り返ったシンデレラはその真剣な眼差しを正面から見つめてしまったのです。


「だめよ。今は魔法が掛かって綺麗なドレスを着ている私だけど、本当は下町のただのみすぼらしい娘なの!」

「それがどうした。

俺が求めているのは着飾ったお姫様なんかじゃない。

そのままの君がいいんだ。だからそばに居てくれ!」

「!!」


告げられたその言葉に、シンデレラの心は鷲掴みにされてしまったらしく、ここは振り切って舞台袖にはける場面だとか、これは全部演技なんだだとかいう意識は無くなってしまい、ただただ目の前の王子だけを見つめていました。

そしてそっと引き寄せられる力に導かれて、気が付けば彼の腕の中に包まれてしまいました。


「それにほら。こうしていれば服なんて気にならなくなるだろう」

「そうね、ええ本当に」


そして鐘が鳴り終わりました。

シュバッと早着替えの要領で衣装が切り替わりました。

仮面も外されて素顔が曝け出されました。

ついでに背景も武闘会場から下町の路地になっています。

でもこの包み込まれる暖かさは変わりません。

なのに、彼の胸から顔を上げてみたシンデレラの目に映ったのは王子ではなく。


「え、どうして?」

「おっ。目が覚めたのか?ならままごとは終わりだな」


子供の頃によく遊んでいた少年が大人になった姿でそこに立っていました。

いつものちょっと小憎らしい笑顔が私を見つめています。

そう衣装が変わったのはシンデレラだけでなく王子もだったのです。

それを見て困惑するシンデレラ。


「え……え?」

「何か変なものでも食べたのか幻覚を見てたみたいだな」


笑顔の奥に心配げな様子を忍ばせた目がシンデレラを見つめます。

そして青年の言葉に思い当たるものがありました。


「幻覚?もしかしてあのキノコが毒入りだったのね。

え、じゃあ今までのは全部夢?」

「そうでもないさ。少なくともこのぬくもりは本物だ」

「あ……そうね。うん」


そうです。

シンデレラはお姫様じゃなくなってしまったけど。

彼女を抱き締める男性も王子なんかではなかったけど。

でもこのぬくもりこそがシンデレラが欲しかったものです。


「ねえ。これからもずっとあなたのぬくもりを私にくれますか?」

「喜んで。君が望んでくれるなら俺が死ぬまでずっとな」

「それじゃあダメです。私より先に死ぬなんて許しません。

だからずっとずっと一緒に生きてください」

「まったく。俺のお姫様は贅沢だな」


そう言って小さく笑った彼は、改めてシンデレラの事をぎゅっと抱きしめて、そしてシンデレラからも彼の事を抱きしめ返したのでした。

こうしてお姫様では無くなってしまったシンデレラは、幼い頃からの友人の男性と末永く幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。


…………


『以上を持ちまして1年C組の演劇【シンデレラと私の王子様】を終了致します。

ご観覧ありがとうございました』


…………


終わりのナレーションが流れ、劇が終わりました。

なので私達も撤収する必要があるのですが。うーんどうしましょう。


「おつかれ~。いやぁ最高の演技だっ……あ~、えっとぉ」


背中に回されていた手が頭に移動して私の髪を優しく撫でてくれます。

ちょっぴりくすぐったいような、それでいて抱きしめられているのはまた違った温もりを感じます。


「もしも~し。お二人さん。もう終わりだよ~。

そう言うのは目に毒だから後は人目につかない場所でやってね」


仕方ないですね。

名残惜しいですが、そっと彼の腕の中から抜け出しました。

それに多分一会くんのこれは劇の興奮でハイになってるだけで、さっきのセリフだって台本であって彼の本音でも何でもないはずです。

改めて見つめた彼の目は、いつも通りの優しさを湛えていますし。

そして振り返ってみればクラスメイト達の生温かい視線が突き刺さります。

あ、一部は一会くんに殺意を伴って向けられてますね。


「てめぇ、村基!どさくさに紛れて姫様の髪の匂いをクンクンするとはどういう了見だ!」

「いや、してないけど!?」

「うっせぇ!そもそも後半全然台本通りじゃないだろ。

姫様が走り去った後に俺達で誰が王子として姫様を迎え入れるか勝負する予定だったのに」


え?それってもしかしてさっきのは台本の言葉ではなかったということ?

もう一度見た彼の目はいつも通りで、もし今のままさっきのセリフを言われたら私は……

ただ改めて見た一会くんは何故か不思議そうな顔をしながら自分の手を見つめていました。



実際本物の王子様に見初められて突然お妃さまにされるのとどっちが幸せでしょうね。

また夢はないですが、魔法を掛けられて変身して舞踏会に乗り込んだって内容よりもこっちの夢オチ(日中に取って来た山菜やキノコに毒があって幻覚を見ていた)みたいな内容の方が現実味はあるんじゃないでしょうか。


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