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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第9章:芸術の秋。色づく秋。
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126.魔法を掛けられたシンデレラ

一方その頃、遠くお城の方から煌びやかな演奏はシンデレラの家まで聞こえてきました。

それを聞いてため息をつくシンデレラ。


「私も王子様とは言わないけど、素敵な男性と結婚して幸せな家庭を築きたいな。

そんなささやかな夢くらい、見ても良いよね」

「あなたのその夢、私が叶えて差し上げましょう」


シンデレラの呟きに何処からともなく応える声が聞こえた。

慌てて振り返った先に居たのは夜色のコートを着た魔法使いでした。


「だ、誰ですかあなた。なんて怪しい格好で。

しかも住居不法侵入ですよ!」


驚きながらも至極真っ当な問い掛けをするシンデレラでした。

それを無視して朗らかに笑う魔法使い。実に怪しい光景です。


「あなたの望みが叶うように魔法を掛けて上げます。

ただその前にお腹が空いているでしょう?

腹が減っては戦は出来ぬと言いますしこちらを召し上がりなさい」


そう言って何処からともなく差し出したのはまだ湯気の立つグラタンでした。

怪しい男が取り出した料理です。

毒入りだと言われたら信じてしまうでしょう。


(ぐぅ~)


しかし実際お腹がペコペコなシンデレラは美味しそうな香りに負けてそれを受け取ってしまうのでした。


「仕方ないですね。食べ物に罪はありませんから」


そう言いつつ食べたグラタンは、小さい頃にお母さんが作ってくれたのと同じ味でした。


「ああ、懐かしいわ。

あの頃は良かったな。お父さんもお母さんも元気で。

近所の男の子とかけっこしたりチャンバラしたり……そう言えば王子様とお姫様ごっこもしてたっけ」


懐かしい思い出に浸るシンデレラに、魔法使いはもうひとつあるものを差し出しました。


「さあシンデレラ。デザートにこちらをどうぞ」


出てきたのは手のひらサイズのキノコ。

ただし石突きの部分はクッキー、傘の部分はチョコレートで出来ていましたが。

それを見たシンデレラが一言。


「私、タケノコ派なんだけど」

「いや今それはいいから」

「仕方ないですね」


文句を言いつつパクリと食べてしまいました。

するとどうでしょう。

なぜか意識がぼんやりしてきます。


「ではシンデレラ。よい夢を。

その夢は気が付いてからだから、そう。12時に終わってしまうから気を付けるんだよ」


そう語りかけた魔法使いは何処かへ去っていきました。


(暗転する舞台。続いて鳴り響くワルツ)


再び舞踏会場。

宴もたけなわ、見渡せば何組もカップルが誕生しており、そして王子の周りにも既に何人もの女性が寄り添っています。

やはり仮面を着けていても王子様オーラは健在だったと言うことでしょう。

余談ですがシンデレラの継母達の姿は……あ、居ました。壁際で悔しそうに地団駄踏んでます。

ハンカチを持っていたら間違いなくムキィって噛みついてますね。

ただ、シンデレラはまだ会場には来ていないようです。

今向かっている最中でしょうか。

そしてもし到着したとして、この状況を打破して王子様に近付くことは出来るのでしょうか。


(再び暗転する舞台)

(明かりが付くと先程まで居た人達は居なくなり王子だけがその場に立っていました)

(そこへドレス姿で現れるシンデレラ)


「ああ、私の王子様」

「ん?君は」

「王子様、どうか私と踊っては頂けないでしょうか」


言いながらシンデレラは右手の剣を掲げました。

……剣を?

なぜ舞踏会で剣?

そこでふと背後の壁を見ました。

そこには大きく『武闘会場』と書かれていたのです。

まさかの『ぶとうかい』違い!?

しかし王子もシンデレラに合わせて剣を掲げました。


「私の姫。あなたの申し出、喜んでお受けしましょう」


ああ、王子が受けてしまいました。

今から間違えましたなんて言えません。

ならば思っていたのとは違いますが勝ち取るまでです。

そして始まる剣舞。

王子もシンデレラも、まさに踊るようにステップを踏み剣を振ります。


「ふっ、はっ!」

「やっ、せいっ」


まるで示し合わせたように迷いも淀みもなく剣舞が続きます。

この美しき舞に観客が居ないとはなんと勿体無いことか。

……いえ、どうやら無粋な乱入者なら居たようです。


「おいそこの女!

お前がシンデレラだな!」


突然現れた荒くれ者10人がシンデレラと王子を取り囲みました。

対するシンデレラはむっとしながらも舞を止めて振り向きます。

振り向くんです。あのぉ、舞うの止めて下さ~い。


「ちっ、仕方ありませんね。

折角の王子様との時間を邪魔をして。

これで大したことない理由だったら覚悟しなさい!」

「ちょっ、あぶねぇから剣をこっちに向けるな。

なんて女だ。聞いてた話と全然ちがうぞ」

「聞いていた?」


どうやら男達は誰かに依頼されて来たようです。


「いいか、俺達はお前の継母が拵えた借金の形にお前を貰いに来たんだよ」

「借金?そんなの聞いたことがありません」

「何でも今夜は舞踏会があったんだってな。

ドレスを作るための布が何処から出てきたと思う?」

「まさか……」

「そのまさかさ。

あの女は自分の娘を代金として差し出したんだよ。

証文はこれだ!」


取り出された証文には確かに『娘を代金として差し出す』と書かれています。

自分の娘をたかだかドレスの代金にしてしまうなんてなんて馬鹿な女なのでしょうか。


「仰りたいことは分かりました」

「なら」

「だからと言って、はいそうですかと売られる気はありません」


そう言って改めて剣を構え直すシンデレラでした。

男達はそれを見てニヤリと笑います。


「女ひとりで俺達10人に勝てると思っているのか」


その問いかけに答えたのはシンデレラではなく、隣で事の成り行きを見守っていた王子でした。


「シンデレラひとりでも余裕だとは思うが、ここは私も参戦させて貰おう」

「王子様は関係無いことです。危険ですから離れて居てください」

「馬鹿を言うな。

私は愛する女の為に戦えない臆病者になった覚えはない」

「王子様!」


突然始まるメロドラマに頭を掻き毟る男達。


「くそが!

お前ら、構わねえから畳んじまえ!」

「「おうっ」」


懐からナイフを取り出して襲い掛かる男達は、しかしあっという間に撃退されてしまったのでした。


「……弱いですね」

「尺の関係で時間取れなかったんだよ」


王子、そういう発言は禁止です。

ともかく叩きのめされた借金取り達はぼろぼろになりながらも立ち上がりました。


「くそっ、こんなことをしても借金は消えないんだからな!」

「あ、それなんだけどさ。

あの女の娘はもうひとり居るんだ。

そいつを代わりに連れていけば良いんじゃないか?

証文には娘を、としか書いて無い訳だし」

「いや、確かにそうだが、そっちのはあまり高く売れそうに無くてな」

「ならついでに母親も連れていけば良い。

既に叩き売り価格だろうけどそれが良いって奴もいるだろ。

それともお前達を殺して支払われる筈だった給料も上乗せするか?」

「ちっ、分かったよ。

おいお前ら。このまま舞踏会から帰って来るところを回収するぞ」

「へいっ」


そうして男達は去っていきました。

後にはシンデレラと王子だけです。


「なんか、凄い事になっちゃいましたね」

「自業自得だ。君が気に病む必要はない」

「そうなんですけど、これで私は独りぼっちになってしまうわ」

「それなら……」


王子が何か言いかけた時、時計塔の鐘が鳴り響いた。

普段は安眠妨害の為に夜は鳴らさないのですが、今日はお城のパーティーの終幕を知らせる為に特別に鳴らしているのでした。


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