125.はじまりはじまり
とある王都の下町。
今夜はお城で舞踏会があるそうでまだ昼間だというのに街はその話題で盛り上がっていました。
そんななか、せっせと裁縫に励む少女が居りました。
「今夜中にドレスを仕上げろって言われても困るんですけどね」
そう小さく愚痴をこぼしつつも手を止めない少女の名はシンデレラ。
子供の頃は優しい両親の元、近所の子供たちと楽しく遊ぶ普通の少女でしたが、早くに母を亡くし、父が再婚相手だと連れてきた女性はシンデレラよりも年上の連れ子共々、父の前では猫を被りつつシンデレラをいびっていました。
そしてその父が亡くなった今では父が残してくれた遺産で生活しつつ、シンデレラに針仕事などをさせて生計を立てているのでした。
「シンデレラ。シンデレラ!
私達が今夜着ていくドレスは出来たのかしら!?」
「愚図なお前でも針仕事だけは出来るんだからサボってないで早くしなさいよ」
そう金切り声を上げながら登場したのは継母と義姉でした。
ふたりともこれでもかと厚化粧をして、既に顔の原形が分かりません。
ただその姿に疑問を持ったシンデレラは訊ねずにはいられませんでした。
「あの、お継母様。もしかしてお継母様も舞踏会に出られるのですか?」
「もちろんです。その為にドレスを用意させているのではないですか」
「年齢的に無理があるような……」
「何か!?」
「いえ。それよりこれほど高価な布をどうやって手に入れたのですか?
お父様の遺産を全部使っても買えるか難しい処だともうのですが」
「ふんっ。何かあるとすぐお金の話を持ち出して卑しい子ね。
あなたは何も心配せず言われたことをして居ればいいんです」
「そうよ。今夜私が王子様に見初められればもうあなたなんて用なしなんだからね」
「はぁ」
もう何を言っても仕方が無いとため息しか出ないシンデレラでした。
これはもう早くドレスを渡して出掛けてもらう方が平和でしょう。
「お二人とも。ドレスならそちらに。布の量が少なかったので露出多めですが我慢してくださいね」
そう言って指差した先にあったのは、チアガールばりに丈の短いノースリーブのワンピースドレスでした。
それを見た2人は驚きで口を大きく開けました。
「まあなんてものを」
「これなら私のお色気で王子もいちころね!」
驚いたのは同じでも意味は違ったようです。
この時代、女性がみだりに肌を晒すのは娼婦や遊女だけです。
多少足が見える程度のスカートはあっても膝だしなんて以ての外。
腕を晒すのだってあり得ません。
そんなことはシンデレラだって百も承知でしたが、そういう事に疎い姉なら大丈夫だろうという打算もありました。
「そうね。お姉様ならそのドレスを着ればきっと良い男性が見つかりますよ。
お継母様だってそれを着ればまだまだ行けますって」
「そ、そうかしら」
「頑張りましょう、お母様」
シンデレラの言葉に簡単にその気になる継母たちは日暮れと共にドレスを着て家を出て行きました。
(暗転する舞台。続いて鳴り響くワルツ)
お城の広間では大勢の男女がその顔に仮面を着けて集まっていました。
「入口で渡されましたけど、この仮面は一体なんなのかしら。これじゃあ誰が王子様か分からないわ」
「何でも一目で王子だと分かったら女性が全員王子に殺到してしまうので、こうしてお互いに仮面を着けることで分からなくしているみたいね」
「言い換えればここでは身分関係なくアタックしていいって事よね」
ギラリと目を光らせて獲物を狙う女性陣に、しかし男性陣も負けてはいられません。
「今日は王子の恋人探しがメインだが、別に俺達だって彼女を作っちゃいけないって事は無い」
「最近はあの無自覚に見せ付けてくるバカップルがうらやまけしからんのだ」
「そうだそうだ!青春は俺達のものだ!!」
そこはそう。舞踏会という名の恋活パーティー会場だったのです。
ただ問題は、一言にダンスと言っても人それぞれだということでしょうか。
優雅に社交ダンスを踊る隣でワルツを踊るペアが居たり、はたまたロボットダンスやパラパラまで。
まあ踊っている本人達は楽しそうなので問題はないのでしょう。
ともあれ舞踏会は大きな問題もなく進行していくのでした。




