123.前日の攻防戦?
遂に芸術祭も明日に控えた今日は、朝から不思議とピリピリした空気が学園に漂っていました。
まあその原因は私に殺到してきた男子の姿で分かってしまったんですけど。
「「お願いします!」」
そう言って一斉に手を差し出す男子えっと12名。
一瞬何の事かと思ったのですが、どうやら芸術祭の自由時間に一緒に回りませんかというお誘いのようです。
そういうのはもっと早く声を掛けるものじゃないかなと思うんですが。
「あの、どうしてこんな前日になったんですか?」
「それがその、誰が声かけるかで色々揉めて」
「そうそう。抜け駆け禁止」
「話し合いの結果、全員で一斉に申し込もうと言うことでこうなりました」
「はぁ」
理由は分かりました。
だからと言って差し出された手を取るかは別問題ですけど。
ただその後で気になる発言が聞こえてきました。
「実を言えばチャンスがあればってずっと狙ってたんだけど、最近姫様が一人になることってほとんど無いから」
「あってもいざ声掛けようかなってタイミングで村人Aに呼ばれて作業振られたりな」
「村人Aは俺達の数倍作業をこなしてるから頼まれたら断りにくいんだよな。ってお前もか」
最近男子に声掛けられてないなって思ってたけど、もしかしてそれとなく一会くんがガードしてくれてたんでしょうか。
私の前では全然そんな素振りを見せてなかったんですけど。
「姫乃、ちょっと来てくれ」
「はーい」
「「くっ、またか!」」
そして今もこのタイミングで一会くんが私を呼んだので、男子をその場に残してトコトコと一会くんの元に向かいました。
後ろから男子の舌打ちが聞こえてきた気がしますが無視しましょう。
もしかしてやっぱり一会くん。私が男子に囲まれてるのを見て呼んだんでしょうか。
「何かありましたか?」
「ああ。ちょっとこれ着けてみてくれ」
男子に囲まれてた事には一切触れないので一会くんの真意は分からりませんでした。
兎も角、一会くんが差し出してきたのは明日着ける仮面です。
シンデレラで仮面をいつ着けるのか謎ですが用意してあるってことは使うのでしょう。
ともかく受け取った仮面を装着してみます。
「違和感とか視界が遮られたりするか?」
「いえ、大丈夫です」
「よし後は。ほっ」
そう言いながら一会くんはサッと私の顔から仮面を外しました。
「よし、髪に引っ掛かることもないな。
姫乃の髪は癖の無い綺麗なストレートで助かる。
やっぱ日頃からケアしてる賜物かな」
仮面を持って無い方の手を私のうなじに伸ばして撫でるように髪の感触を確認されました。
「ふぁっ、一会くんくすぐったいです」
「おっとすまんすまん」
「「グハッ」」
ん?なにやら誰かが吐血したようなリアクションを取ったみたいですね。
何かあったんでしょうか。
ちなみに今日は授業は午前中だけで、午後は丸々芸術祭の準備時間です。
そうなるとまだ準備が終わってないクラスから人が集まってきて一会くんを囲み始めました。
「村基君。うちの屋台がまだ完成してないの。手伝って」
「駄目よ。村基君は私達の所の小物作りを手伝うの」
「小物くらい自分達で何とかしなさいよ。ねぇうちのクラスを手伝ってよ」
「あんたは楽したいだけでしょ?こっちはそんなんじゃないんだから!」
別のクラスかと思えば上級生も混じってますね。
あ、あの人、この前一会くんと一緒に喫茶店に来た人です。
ちなみに男子も一会くんの所に来てるのですが、あの女子のパワーに近づくことも出来ないみたいですね。
あ、業を煮やした女子が一会くんの腕を掴みました。
それを見て別の女子も反対の腕を取ります。
これはまさか、かの有名な大岡裁判の始まりですか!?
なんて暢気に見てないで助け出しましょうか。
「一会くん」
「ん?ああ。台本の合わせだな。
そういう訳なんですみません。
俺も明日の為に練習しないといけないんで」
私が声を掛けると、示し合わせていたかのように頷き、周りの女子に一言断ってからするりと掴まれた腕を外し囲みを抜け出しました。
そのまま一会くんは流れるように私の横に立つとまるでそれが当然であるかのように手を持ち上げてぽんと私の頭に置きました。
「えっと?」
「読み合わせするんだろ?場所を移すぞ」
「あ、はい」
「「はぁ~~」」
一会くんってばもしかして私の頭の上に手を置くのが癖になってしまったんでしょうか。
あの日以来、ことある毎に私の頭を撫でてくれるのですが。
私も何も言わずにそのままにしていたのが良くなかったのかもしれません。
でもこうして頭に手を置かれると心が温かくなるので仕方ないのです。
「ねえ、あれってほんとに付き合ってないの?」
「本人達的にはまだらしいよ」
「いやもう、距離感とかおかしいから」
何かうしろから聞こえた気もしますが。
それより私は一会くんの服をちょいちょいっと引っ張って合図を送ります。
そうしないといつまで経っても頭の上に手が乗ったままですからね。
あ、でもいつもながらこの手が離れていくときの喪失感は淋しいものがあります。