120.戦い終わって
試合を終えてみんなの所に戻った私でしたが……困りました。
さっきの会話、聞こえちゃってますよね?
そう思って恐る恐る皆の顔を見たのですが、みんな呆然としてました。
これは私達の会話を聞いて呆れてるのとは違いそうですけど。
「あの、皆さん?」
「……ハッ。ひ、姫様!」
私が声を掛けるとまるで夢から覚めたようにハッとしてこちらを見るみんな。
一体どうなってるんでしょう。
と思ったところで突然周囲から大きな拍手が送られてきました。
「すげえ格好良かった!!」
「今日ってランカー同士のガチバトルイベントの日だったの!?
事前に教えろよスタッフ~」
「いやマジ感動した」
「でもあれってゴム剣で戦ってたんだよな。
鍔迫り合いとかも鬼気迫った感じだし、見てるこっちがヒヤヒヤしたよ」
「ホントホント。男子の方、何度『あ、これ死んだな』って思ったか分かんねえもん」
さっきまで別のフィールドで遊んでいた人達もいつの間にか私達の戦いを観戦していたみたいです。
拍手を送りながら口々に賞賛を送ってくれるので私は慌てて方々に頭を下げました。
ただやっぱり気になるのは。
「あの、試合中の私達の会話って聞こえてました?」
「え、ううん。最初の一言目だけは聞こえたけど、その後は誰かがミュートモードに切り替えたみたいで何か話してるんだろうなとは分かったけど、観客席までは聞こえなくなってたよ」
「ほっ」
「え、なになに。愛の言葉でも叫んでたの?」
「いやそんな訳無いじゃないですか」
よかった。どうやら誰かが気を利かせてフィールド内の音声を外に漏らさない様にしてくれたみたいです。
何というか勢いに任せて色々言ってしまった気がしますからね。
あれが聞かれてたかと思うと明日から学園に行けなくなるところでした。
男子の方も何やら興奮した様子で一会くんを囲んでいますが、漏れ聞こえてくる内容からして向こうにも会話の内容は聞こえてなかったみたいです。
「と、それより移動しましょうか」
「あ~そうね。ちょっと注目を集めすぎたし、また今度遊びに来ましょうか」
さすがに全員から注目を集めた今の状態で続けて遊ぶ気にもなれなかった私達は男子たちに一声かけてからその場を後にしました。
そして近場の喫茶店で一息つくことになりました。
「いやぁ、しっかし改めてさっきの戦いは凄かったね」
「うんうん。まさに手に汗握る戦いってやつ?」
「姫様って運動神経良いとは思ってたけど、ここまで凄いなんて。
もしかして子供の頃に剣道とか習ってたの?」
「いえ、そういうのは全然。それに剣道を習ってたら逆にさっきみたいな動きは出来なかったと思いますよ?」
「確かにねぇ。型に嵌らない動きっていうの?まさに実戦剣術って感じだったもんね」
実際には夢の内容の見様見真似でやってただけなので、実戦で通用するかと言われたらどうなんでしょうね。
ただ自分でも思った以上に動けたなって気はしてます。
こんなに全力で動いたのはいつぶりでしょうね。
全身に疲労感はありますが、妙にすっきりした感じもありますし。
「んふふ~」
「?」
なぜか向かいに座ってる子が私の顔を覗き込んで嬉しそうにしてます。
何かあったでしょうか。
「えと、なにか?」
「姫様だいぶスッキリした顔してますね」
「え、そうですか?」
「あ~確かに。なにか憑き物が落ちたような感じって言えば良いのかな」
「やっぱり村人Aと何かあったんですね!」
「いえ何もないですよ。ただちょっと……」
「ちょっと?」
「最近一会くんの周りに女子が多いなって思っていただけで」
「「……」」
私の呟きを聞いた皆はなぜか無言で顔を見合わせて、そして次の瞬間黄色い悲鳴を上げ始めました。
「キャー何それ何それ」
「やっぱり!やっぱりそういう事だよねこれ」
「それしかないっしょ。しかも姫様も自覚してないっぽいのがイイ」
「なに?さっきのでARは終わったと思ってたのに今度は恋愛小説のなかに紛れ込んでしまったの!?」
「そしてそこから始まる身分違いの恋♪」
よく分からないのですが、少なくとも私の事で盛り上がっているって事だけは分かります。
身分違いの恋?誰がって私?でも身分違いと言われて思い当たる人が居ないですけど。
別にどこかの国の王子様に恋した記憶なんてないですし。
「え、いや。みんな?」
「いや皆まで言わなくても良いの。むしろ姫様は今のままで」
「そうそう。って、ねえ。今度の芸術祭はやっぱり姫様を中心にした恋愛もので行きましょう」
「そうね!それにさっきの剣戟シーン。あれも絶対盛り上がるわよ」
「私今すぐ皆に連絡回すね!いや~面白くなってきた」