12.変な人
それは学園の入学式の日。
高校進学と共に故郷を離れて一人暮らしを始めた私は、真新しい制服を着てまだ慣れない校舎の敷地を歩いていました。
まあ慣れないと言っても入試の時に来ているので迷う事はありませんけど。
正門を通ったところに大きく案内の地図も出ていましたし誰も迷うことはないでしょう。
と、思っていたのですが、ふと廊下を歩いていた私は窓の外の中庭と思われる場所でおろおろと困っている人を見つけました。
制服の新しさ。そしてリボンの色から見て私と同じ新入生のようです。
しかしなぜ中庭を歩いているのでしょうか。
正門から校舎入口までは確かに距離がありましたがほぼ一本道です。
案内役の先輩もちらほら居ましたし間違えようが無いと思うのですけど。
(……まあその先輩たちに突然ナンパまがいの声掛けをされるとは思いませんでしたが)
幸いすぐに先生がやって来て先輩たちを引き離してくれたから何ともありませんでしたが、こんな先輩が大勢いるのなら学園生活は大丈夫かと心配になりますね。
と、色々考えていたらいつの間にかその女生徒の下へ一人の男子が駆け寄って行きました。
そしてそのまま親し気に声を掛けていました。
「おはよ。ねえ君も新入生だよね?」
「あ、おはようございます。
はい、えっと。そうです。今日からこの学園に通うことになりました」
「そっかそっか。じゃあこういう時に言うセリフはあれだよな。
『ようこそ英伝学園へ』」
元気にそう言って芝居のように礼をする男子。
かと思えばすぐに姿勢を崩して笑った。
「と言っても実は俺も新入生なんだ。という訳で一緒に行こう」
「え、でも、その……」
「地図によるとこの先に職員用の入口があるみたいなんだ。
その横には職員用の駐車場もあるらしいな。
まだ時間に余裕があるし折角だからここの先生たちがどんな車で来てるのか見て来ようぜ」
「ええ~~」
女生徒は困惑しながらも男子の勢いに飲まれてそのまま中庭を通り抜けて行ってしまいました。
ま、まあ悪い人では無さそうでしたし、大丈夫ですよね。
そう思って私は指定された教室へと向かいました。
それに彼女達を見ていたのは私だけでは無かったようです。
なにせ離れたところからこんな会話が聞こえて来ていましたから。
「おい、コースを外れた新入生が居るぞ」
「なに!?案内役は何をやってたんだ!!」
「それが何かやらかしたらしくて生徒指導の岡本先生にしょっ引かれたってよ」
「マジで使えないな。ってあれ誰だ?」
「ネクタイが赤だから新入生だな。
にしても……ははっ。『ようこそ英伝学園へ』って堂に入ってるな」
「ああ。村に入って最初に出会う村人のセリフっぽい。
それにその後のちょっと強引だけど自然な誘導も見事だ。
やるじゃないか!」
「ただ全部を任せたら俺達も先生に怒られる。教師用の玄関に先回りするぞ」
「おうっ」
そうしてバタバタと離れていく足音。
その後、女生徒の方は別クラスだったようでその日に会う事はありませんでしたが、男子の方はまるで何事も無かったように教室へと入ってきました。
その男子こそが私の隣の席の人で、後に村人Aと呼ばれることになる村基くんでした。
それにしても初対面で全く物怖じせずに話し掛けられるのは凄いなと感心してしまいました。
(こっちが警戒して近づけば相手も警戒するだろ?逆もそうさ)
うーん、頭で分かっていても行動に移せるかどうかは別問題ですよね。




