119.やっぱりリアルでボコらないと
皆と入れ替わりでフィールドに上がります。
ARらしく戦場を選んだり出来るので折角だから決闘に相応しい場所をと思ってメニューを見ていた時に、ふと見つけてしまいました。
【リアルバトルモード】
説明を読めば、さっきと違って両者同じフィールドでプレイして、手にはARで投影しただけの武器じゃなくてスポーツチャンバラで使う叩かれても居たくないゴム製の剣を持って戦うそうです。
その剣以外での攻撃は即反則負け。相手が倒れた時の追撃禁止など、間違っても喧嘩や殺し合いにならない様にと幾つも禁足事項が記載されています。
また何かあった時にすぐに割って入れるように審判も付いてくれるそうです。
「……面白そうですね」
ちょうどARでの戦いでは手ごたえが無くて微妙だと思っていた所です。
映像としては派手で面白いんですけどね。
でもやっぱり夢の中の方の戦いに比べるとほんとゲームって感じで緊張感が持てませんでしたから。
私は早速一会くんにリアルバトルモードでの決闘を申し込みました。
一会くんは向こうで少し驚いた顔をしてましたが、すぐに了承してきました。
ふふっ。どうやら向こうもやる気みたいですね。
なら手加減はいらないという事です。
向こうに居たメンバーがこっちのフィールドに移動してきてました。
やってきた一会くん達が軽く手を挙げながら挨拶してきました。
「よっ。急に戦いを申し込んでしまったけど、大丈夫だったか?」
「はい。驚きはしましたけど、みんな楽しんでますし。
それより、今日は男子だけなんですね」
「ん?ああ。なんか話したい事もあるらしくて、その前にひと汗流そうぜって事で遊びに来てたんだよ」
「そうでしたか」
暗に先日の先輩方は居ないんですねと言ったのですがスルーされました。
私には説明も言い訳もする気はないってことですか。そうですか。
何か思い出すともやもやが再燃してきました。
「それより一会くんは向こうサイドですよ。早く準備してください」
「お、おう」
慌てて移動する一会くんを見送りながら私は手に持ったゴム剣を何度か素振りして状態を確かめました。
うん、よし。
軽すぎるのは気になりますが、さっきみたいに何も持っていないよりは断然マシです。
背景は決闘に相応しい場所ということでコロシアムにしました。
「姫様~やっちゃえ~~」
「村人A。姫様にケガさせたら分かってるんだろうなぁ」
「姫様、村人Aなんかボコボコにしてやって良いですからね!」
双方から声援が飛んできますが、男子チームもなぜか私の応援をしてくれてます。
一会くんは気にした様子はないですけど。
「えーそれではこれよりリアルバトルモードによる決闘を開始します。
双方共にゲーマーシップに則って正々堂々と勝負するように。
違反行為が見つかれば即試合終了、最悪の場合、罰金や刑事罰に繋がりますので決して行わないでください。
それでは、カウントに入ります。
カウント中は動いても構いませんが攻撃はノーカウントです」
そう言って審判役の人が離れるとカウント10の文字が表示されました。
観客のみんなも声を揃えてカウントダウンしてくれます。
「「……3、2、1」」
「ハッ!」
カッ
残りカウント1の所で飛び出した私は、そのまま棒立ち状態の一会くんへと切り掛かりました。
先手必勝で不意を突けたかと思ったのですが、思ったより余裕で受け止められました。
それなら。
カカカンッ!
続く3連撃。これも余裕で止めるんですね。
さっきのオーガみたいな敵だったらこれで倒せてたんですけど。
どうやら一会くんのジョブは剣聖か何かと言った感じでしょうか。
このまま剣だけで押しても有効打は難しいかもしれません。
「ならこれで!」
「くっ」
左手をパーにして一会くんの眼前に突き出してフォースシールドを展開。
ダメージにはなりませんが目隠しにはなるでしょう?
若干怯んだところで胴へ全力の一撃をお見舞いしました。
ガッ
「っとと」
「これも防ぎますか」
一会くんは胴に直撃する寸前に間に自分の剣を挟みつつ反対側に跳んで逃げました。
距離も空いてしまったので、ここから仕切り直しですね。
「よし、今度はこっちから行くぞ」
「なんの」
剣を構えて走り込んでくる一会くん迎え撃ちます。
お互いの剣と剣をぶつけ合い、時にかわして足を狙ったりフォースアタックなどの魔法を混ぜながら互角の攻防を繰り広げる私達。
「ええい、大人しく私にボコられなさい!」
「だが断る!」
「というか女の子相手なんだからちょっとは手加減しなさいよ」
「したら怒るだろ?」
「そうかもしれないけど。それでもですよ!
あなたはいつも誰にでも優しい顔をして。
そんなだから周りに女の子が沢山寄ってくるんです!
少しは一緒にいる私の事も考えなさいよ」
「いや考えてるって。姫乃の事はいつも考えてるよ」
「嘘よ。この前なんて別の学年の女子と一緒に居たじゃない。
それに考えてるだけじゃだめなの。ちゃんと行動に移して態度で示してよ」
いつしか剣戟と共に舌戦も繰り広げる私達。
鍔迫り合いしてる時なんて額がくっつきそうなのもお構いなしに思いの丈をぶつけていきました。
剣での戦いは互角だったけど、言葉の応酬は一会くんが1つ話す間に私が3つくらい話してたから私の勝ちですね。
そして結局勝負が付かないまま時間切れになってしまったのです。
「あ、えーその。そこまで。
お互いまだ言いたい事はあるみたいですが、一度離れてください」
審判の人の困惑したような声で我に返った私達はようやく剣を納めるのでした。