11.プロローグ2~夢?それとも前世の記憶?(続)~
ここからしばらく藤白視点になります。
~~ 藤白視点 ~~
それは遠い遠い夢のお話。
世界で一番悲しい、最愛の人との死別の記憶。
広場で村人Aが磔にされ、今まさに火あぶりにされるという時。
私は誰も居ない王宮の廊下を急ぎ駆け抜けていた。
後ろを追いかける侍女も、もしかしたら私がこのまま自害するつもりじゃないかと気が気じゃないようだ。
「姫様。お待ちください!」
「いいえ、そんな余裕はありません」
凛とした声で答える私に少なくとも悲壮感はない。
もちろん今も流れ続けている涙も今まさに処刑されている男性に対してのもので、彼のことを何も思っていなかったなどという事は無い。
芝居がかったセリフで私を罵倒したのだって、私があの場を去るきっかけを作る為だと分かっている。
その彼の最期を見届けずに一体何処に向かっているというのかといえば。
バンと開け放たれたそこは城の大聖堂。
その奥には聖杯を抱きかかえた女神像が立っている。
その聖杯を見つめて私は安堵のため息を吐く。
「……よかった。誰も気付いて無いみたい」
「あの姫様。ここで一体何を?」
「そっか。メイには言ってなかったわね。
でもごめんなさい。きっともう説明している時間も無いの」
そう言った瞬間、遠くで何かが爆発したような音と、大勢の悲鳴が響いてきた。
方角からして広場の方だろう。
それは最愛の人がこの世を去った証拠であり、彼が私に託した最期のバトンだった。
「くっ、キヒト!」
「あ、あの何がっ」
「お願いメイ。私を信じて。これから誰もここに入れない様に入口を固めておいて」
「わ、分かりました!」
泣きながら鬼気迫る形相の私に素直に頷いて慌てて入口を閉めに行くメイ。
それを見送り私は女神像の前に膝をつき聖杯へと魔力を送り込んだ。
そう、この像がもっている聖杯はただのお飾りではなく本物だ。
先日こっそりすり替えておいたのだ。
これを使ってキヒトの身体に封じていた魔神の残滓を封印し直す。
本当ならもっと別の方法で安全に封印し直す予定だった。
そうすればキヒトもあと10年は元気に生きられるはずだった。
だけど王も民衆も生贄を望み、キヒトに白羽の矢が立ってしまった。
昨夜。最後に話したキヒトは小さく笑って言った。
『この国の未来にいらないものは全部俺が地獄に連れて行く。
腐った王も貴族も民衆も。他人の死と不幸を望んで自分では何も生み出そうともしない奴らは全員、な』
『キヒトはいらなくなんかない!!』
『ははっ。そう言ってくれて嬉しいよ』
牢の格子の隙間から手を伸ばして私の頭をぽんぽんと撫でる。
それを受けて私の目から大粒の涙が零れ落ちた。
見た目は何とも無いがその身体に封印されている魔神の残滓によって、今も激痛が走っているだろうに。
そんなことおくびにも出さずにキヒトはそっと笑いながら私の頭を撫で続けた。
まるで私の記憶には笑顔の自分を残していきたいとでも言うように。
私は頭を振り意識を聖杯へと集中させる。
聖杯は私の魔力で眩しい程に光り輝いている。
これで魔力は十分だ。後は発動を待つばかり。
気が付けば広場の悲鳴は聞こえなくなっていた。
「『魔神、封印』!」
小さく、しかし力強く発せられたその言葉に呼応して聖杯が光を放つ。
そして広場で猛威を振るっていたであろう魔神の残滓はその光に吸い寄せられるかのように聖杯の中へと流れ込んでいった。
5分。10分。
キリがないのではないかと心配になった頃、それはようやく終わりを迎えた。
広場からは生存者の息は無く、後に残ったのは全てが破壊し尽くされた嵐の後の静けさだけだった。
「キヒト。無事にやり遂げたわ。
私もこの国を復興させたらすぐにそっちに行くから少しだけ待っててね」
……
…………
………………
ふと目を開けると、まだあまり見慣れていない天井がありました。
ぼーっとする意識の中、横のローテーブルの上を見れば学園の制服がおいてあります。
「そっか。今日は入学式ですよね」
私はゆっくりと起き上がり、朝の支度を始めるのでした。