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英雄が通う学園に、村人Aが征く  作者: たてみん
第8章:トップの条件
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109.動く人動かない人

一方、放送を聞いていた人達の反応はと言うと。


『皆さんこんにちは。村人Aです』

「お、始まったな」

「というか、なんで村人Aが候補に選ばれたんだ?」

「さあ、会長のお遊びなんじゃね?」

「どうせ落選するんだからこの放送だって意味ないだろう」


第一声から、いや始まる前から否定的だった。

これまで噂話程度でしか村基の事を知らない生徒は、村人Aというあだ名を聞いて見下し批判した。

ただそれでもそれが全生徒という訳ではない。


『俺は特別目立つ行動をしてきた訳でもないので』

「え、これマジで言ってる?」

「あれだけ上級生とトラブル起こしておいてどの口がいうんだよ」

「あいつは一体どんな修羅の村の出身なんだ」


直接もしくは知り合いが村基本人とトラブルを起こしていた生徒は一緒に居るふたりと合わせて喧嘩を売ってはいけない相手だと理解していた。


「1年の中で唯一姫様と仲良くしてる男子で、黒騎士からも一目置かれてるんだろ?」

「これ村基君だよね?

私この前助けて貰ったんだけど」

「あ、それ私も。学内ネットに一言『助けて』って書くと何処からともなく現れて助けてくれるらしいよ」

「見返りを求めるどころか名前すら名乗らずに去っていくから、本人は相手に自分の事がバレてないと思ってるんじゃない?」

「あー、ありそう!」


そんな声が学年も性別も、なんなら教師の間からも聞こえてくる。

放送は続いてあだ名を付ける段になり、盛り上がりは一段と大きくなる。


「え、つまり俺達も皇帝に並び立てるってことか?」

「俺は魔王とかそっちが良いけどな」

「馬鹿だなぁ。ここは白狼とかレアな魔物だろう」

「でもさ。名乗るからにはそれなりに振る舞う必要があるんじゃね?

ほら『村人らしくしろ』みたいに『魔王らしくしろ』みたいな」

「確かにな。え、お前魔王やれんの?」

「うっ、無理な気がしてきた。

やっぱ村人Bとかでいいや」

「おまそれ、村人Aに勝負挑んでるよな。

が、がんばれよ?応援だけはしてやるからな。応援だけ」

「でもそうか。魔王でも村人でも、名乗るからには責任が伴うってことか。

それって何て言うか……」

「ああ……。めっちゃ不安だな」


それぞれの頭の中で栄光を手に入れた自分の姿と周囲から嘲笑されて崩れ落ちる自分の姿が同時に映し出される。

期待と不安は常に共にある。勇者とは期待がほんのわずかに不安より強くて行動した者に与えられる称号だと昔の人は言っていた。

そして英雄と呼ばれる人が少ない事、世の大多数は不安に負けるか期待を見てみぬふりをして行動しない。

ここが仮にアメリカだったら。『アメリカンドリーム』という言葉がある通り、僅かな可能性があればそれを掴むためにチャレンジしていたかもしれない。

でもここは日本だ。良く言えば平和主義。悪く言えば事なかれ主義。みんなが行くなら行っても良いかもしれないけど、自分だけ失敗するのは恥ずかしい。今のままでも悪くないじゃないか。

そう考えてしまうことを同じ日本人として責められる人は学園内には居なかった。

ただそれでも。

燻っているものはある。


「……俺にも出来る事、か」

「私って取り柄なんてあるのかなぁ」


まるでパンドラの箱に最後に残っていたという希望。

深い眠りについていたそれを揺り起こされた人は確かに居た。


「……決めた。私『男爵令嬢』になる!」

「は?」


教室の隅でいつも毎日がつまらないとぼやいていた女子が突然立ち上がってそう宣言した。

隣の友人はそれを見てぽかん顔だ。


「えっと、今の放送を聞いて感化されたのは分かったけど、なんで男爵令嬢?」

「だって恋愛ものの定番じゃん。男爵令嬢が下剋上を起こしてハッピーエンドになるって。

今までは私なんて無理って諦めてたけど、でもやっぱり諦めきれないもん。

下剋上して、姫様に勝って、そして告白するの!」

「はっ?告白?それってもしかして……

まあ勝てる見込みはゼロだけど応援だけはしてあげるわ」

「ゼロって酷くない!?」

「だって打倒姫様ってことは告白する相手は彼でしょ?

どう見ても相思相愛だしつけ入る隙無いと思うよ」

「でもでも挑戦もしないで諦めたら後悔するよ絶対」

「まあそうね。その考えは偉いと思うわ。

だから応援してあげる。ついでに慰めてあげるから安心しなさい」

「うぅ、やっぱり玉砕する前提なんだ。私もそうだと思うけど」


気合を入れたり落ち込んだり忙しいなと思いつつ羨ましいとも思う。

自分も何かしようかなと思ったりもするけど、そこまで思いきれる程単純でもないし。

やっぱり自分ひとりでは変わらない気がする。


「……裏庭、行ってみようかな」

「え、裏庭がどうしたの?」

「ほら、昼休みに裏庭に行けば今放送している彼が相談に乗ってくれるみたいじゃん」

「あああっ!その手があった!!

じゃあ行こう!今すぐ行こう!!」

「いや今日はこの放送してるんだから裏庭に行っても居ないから落ち着きなさい」


似たようなやり取りが学園の至る所であったとかなかったとか。

ただ少なくとも村人Aが生徒会長になったらこの動きが加速することは間違いなさそうだった。



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