104.勝ち目は無い?
俺の呟きは、幸い誰にも聞こえなかったようだ。
『姫乃の事は俺が守ってやる!』とか言ってたらただのアホだしな。
そもそもの話、多分姫乃は俺が守らなくても十分強いしきっと大抵のことは自力で撥ね退けられると思う。
それでも。いや、だからこそかな。
きっと今後、今の俺達では対処できない問題は起きると思う。
その時に「あの時ああしていれば」などと後悔はしたくない。
「ならやるだけやってみるか」
「お、やる気になってくれたのかい?」
今度の呟きは会長にも聞こえたようだ。
どことなく嬉しそうに見えなくもない。
その様子に副会長は複雑な顔をしてるが。
「一会くん大丈夫なの?」
「まあもしもの時は深夜バイトに切り替えるさ」
姫乃が心配してくれるのは嬉しいが、一応当てはあっての回答だ。
未成年がお酒をメインに提供する店で働くのはどうかという意見もあるが、学園に届け出とか出す訳でも無し、問題にはならないだろう。
「ところでこの学園の生徒会選挙って何をするんですか?」
「君たち推薦組は来週の昼休みに所信演説をしてもらう。
もし一般から立候補者が出た場合は、その人達は登下校時に校門前で演説したりビラを配ったりして知名度を上げる必要があるが、君たちについては顔はともかく存在はほぼ全校生徒が知っているだろうからそこまでする必要はない。
もちろんやりたかったらやっても良いがね」
まあそうか。
学園公認のあだ名を持っているというだけでこの学園では有名人であることの証明だ。
たとえ村人Aであってもどんな奴がそう呼ばれているのか一度は見てみたいと思うのが人の心理というものだろう。
俺の場合は姫乃とセットで「姫様のそばをうろつく村人A」みたいな覚え方をしてるやつも居そうだけど。
ともかく今更頑張って顔を売らなくても良いのはありがたい。
朝早くに登校して校門前で演説とかしたくなかったし。
駅前とかに時々どこかの議員かその候補者か後援者が演説してるけど、うるさいだけだしなぁ。
ただ所信演説は流石にしないといけないとは思う。
人気投票じゃないんだから候補者がどういう方針でいるのかが分からないと誰に投票すれば良いかわからないからな。
「ただ普通に考えれば俺に勝ち目はほぼ無いんだけどな」
「そうかしら」
「だって単純に考えた場合、相手は現役の副会長で特に問題らしい問題も起こして無くて、2年生であだ名が『将軍』だ。
黒部先輩だって2年生で『黒騎士』で、去年の実績は分からないけど、今年の体育祭でも活躍してたし隠れたファンはきっと居るだろう」
「むっ、そうだったのか!!」
「え?えっと、多分。
とにかく、対して俺は1年生で『村人A』だしな。成績も中の上で特段凄いって程でも無いし、なんでこんなに名前が知れ渡ってるのかが不思議なぐらいだろ?」
俺の説明を聞いて会長以外の生徒会は頷いてるけど、他は微妙な顔だ。
「……そこを不思議に思ってるのは多分、一会君だけですよ」
「そうなのか?」
「一会君でも納得するように言うと、自分の学園で良く一緒に居る人や友人を10人くらい挙げて、その人達の知名度の平均を考えてみてください」
俺がよく一緒に居る人となると、姫乃やハルや庸一、それに魚沼さんに青葉さんに黒部先輩。
あと光や聖もちょいちょい会うな。
他には最近だと裏庭を整備してくれた人達、とりわけ『庭師』の庭石先輩とかも数えても良いかな。
「半数以上があだ名持ちだな」
「更に言うと、そのあだ名持ちの人達は一会君が何かお願いしたら喜んで引き受けてくれるんじゃないですか?」
「あーまぁそうか?」
聖は微妙だけど、何だかんだ律儀だからなあいつ。
正面から頼み込んだら多分首を縦に振ってくれる気がする。
他のここに居るメンバーとはそれなりに信頼関係を築いてる自信はあるし光もきっと大丈夫だろう。
いざとなれば昔の黒歴史を持ち出せば……くくくっ。
「一部の生徒の間では一会君こそがこの学園の裏ボスなんじゃないか、なんて言われてるんですよ?」
「それは初耳だな」
「まあ噂を流してるのは僕なんですけどね」
おいおい。
ハルはいつの間に何やってるんだよ。
でも姫乃と一緒に居てもとやかく言う奴が減ったのはきっとそのお陰もあるんだろうから強くは言えないか。




