103.多分いつも通り
入学当初は村人Aの俺と一緒にいるせいで何かと揉め事に巻き込まれた結果、庸一は肉体派だからソルジャーと呼ばれ、ハルは頭脳派だから陰陽師と呼ばれた事がある。
ただそれは主に俺達に絡んできた奴らとそれを見てた奴らで流行った名前で、知名度はそれ程でもない。
もしかしたら大多数の生徒は既にそんなあだ名の事は忘れているかもしれない。
つまりほぼ一般生徒と変わらないハルが姫乃と並んで1年の女子の中では有名な魚沼さんと付き合ってる事実を面白くないと思う生徒がいるらしい。
まぁこれどけ聞くと当然って思えるな。
「で、それとこれまでの話がどう繋がるんだ?」
「はぁ~。姫様には同情するよ」
「いえ、全然大丈夫ですよ」
俺の疑問にまたしても会長が深いため息をついた。
でも姫乃はいつも通りだしなぁ。
良くわからん。
そんな俺の姿に諦めにも似た視線を向けながら会長は言った。
「君と姫様は付き合っているんだろう?
それによって周りから妬まれたり絡まれたりしてるんじゃないかい?」
「え、いえ。付き合ってはいないですよ」
「なに、そうなのかい!?」
「ええ、そうですね」
会長は驚いているが、姫乃も同意してるし間違いない。
仮に俺と姫乃が付き合ったとしたら。つまりハルと魚沼さんみたいになったところを想像したら……
「庸一。バカップルに囲まれるとか居たたまれないだろうな」
「はっはっは。安心してくれ。
その時は真子と一緒に友人として生温い視線を送らせて貰うから」
「って、僕らってバカップルなんですか?!」
「「うん」」
と、ハルを弄るのはこれくらいにして、改めて姫乃と向き合いながら想像してみる。
「?」
「うーん」
俺と視線を合わせながら可愛く首を傾げる姫乃が付き合ったとして。
ハル達に自分達を重ね合わせたさっきは何かの劇を観ているようで他人事だった。
だけど、実際に自分ならどうかと考えた時。意外と簡単にイメージできた。
だからこそいつもと同じ調子で姫乃に確認してみる。
「何か変わるかな?」
「どうでしょう。そんなに変わらないかも」
「だよなぁ」
多分特別何かが変わるとは思えない。
それが俺の出した答えだった。
姫乃も同じような様子だしそんなに間違ってないだろう。
だけどそれを見た会長は何度目かのため息を吐いた。
「彼らはいつもこうなのかい?」
「まあそうだな」
「概ねいつも通りです」
ハルと庸一も会長の言葉に合意してるけど何だかな。
「ま、まぁ話を戻そう。
要するにだ。仮に君と姫様が付き合った場合、阿部君とセイレーンが付き合った時以上の反発が予想されるって事だ」
「え、あぁ。確かにありそうですね」
「そこで生徒会長という看板が役に立つのさ。
姫様に対して村人Aでは許せなくても生徒会長なら認められなくもないってね」
なるほど。そこに帰結するのか。
庸一と青葉さんならともかく、俺と姫乃が付き合うとか考えた事なかったから気にしてなかった。
あれ、でも。
「姫乃は会長が言おうとしてたことが分かってたんだな」
「まぁ何となく。
私のところにはほら。頻繁に告白してくる男子がいるでしょう?
そのうちの何人かは『村人Aと付き合ってるのか』って聞いてくるし『あんな奴より俺と付き合え』とか『村人Aが良くてなんで俺は駄目なんだ』とか言って来ますから」
「なるほど。以前から経験してたってことか。
ちなみにそう言う男子には何て返してるんだ?」
「『その発言をする方とは一緒に居られません』って断ってます。
他人を見下す人と一緒に居るのは疲れますからね」
人を呪わば穴二つとも言うけど、俺を卑下してるつもりで実際には自分の価値も落としてたんだな、そいつらは。
ただまあ。仮に俺と姫乃の関係が今より近付いたらもっとそういう馬鹿が増える事になるのか。
「姫乃に迷惑を掛ける訳にはいかない、か」
なるほど。そう考えれば生徒会をやる価値もあるかもしれない。
権力っていうのはある種の武器だからな。