102.メリットの話
俺の話を聞いてそれは仕方ないなと納得してくれたら良いのだけど、そんな簡単なら最初から推薦しない。
「君はメリットが無いと言っていたが、それでは私達がただのボランティア集団に思われてしまうので多少なりとも君にも当てはまるメリットを提示しておこう」
穏やかな口調でそう言う会長は、それで俺達を引き込めると考えているのかそれとも他に何か思惑があるのかが分からない。
「まず分かりやすい所で組織運営のノウハウを学べる。
これがあれば社会に出た後も管理職として働く為の土台となってくれるだろう」
「そうですね。しかも多少失敗しても教師や学園が尻拭いをしてくれますしね」
「ああそうだ。
社会に出たら失敗即クビって会社もあるらしい。
自分で起業するなら廃業ついでに借金の山。と、これは君には釈迦に説法だね」
「まぁ」
確かに保険が利いてる状態である程度自由に活動が出来るのは良いことだ。
命綱を着けずに綱渡りをするなら一人でやって欲しい。
「それに付随して、一般生徒なら教師の言うことをただ聞くしかない場面でも生徒会の肩書きがあれば意見も言いやすい」
それがこの学園のルールなんだと教師が言えば生徒は強くは反発しにくい、か。
なんか先日思いっきり反発した気がするけど。
「あと生徒会長ともなれば村人Aだからと侮られる事が無くなる。
これが君にとって一番のメリットと言えるんじゃないかな」
にこり、いやニヤリと笑う会長は、一体何が言いたいんだ?
入学当初は村人Aの癖にって絡まれた事もあるけど、最近はそうでもない。
むしろまずは村人Aが生徒会長になろうって話に反発があると思うんだけど。
「隣の姫様にとっても悪い話じゃないだろう?」
「……そうかもしれませんね」
「って姫乃は会長の言ってることが分かるんだな」
「えっと、多分?」
しれっと視線を外しつつも頷く姫乃。
なんてこった。いや良いんだけど。
後ろを振り返れば庸一達もどことなく理解してるようだ。
黒部先輩まで俺を残念な目で見てるし。
と言うことは分かってないのは俺だけか。
なんだろう。
「ときに後ろに居るのはセイレーンで間違いないかな」
「え、はい。そうですけど」
「君は2学期に入ってから隣に居る彼と付き合い始めたそうだね」
「はい」
ここで何故か話題の中心を俺から魚沼さんに換えてきた。
会長が2人が付き合ってるのを知ってるのは不思議でも何でもない。
何せ魚沼さんは今では学園の有名人の1人だからな。
当然その噂も広まるのは早いだろう。
「そのせいで多少なりとも嫌な思いはしていないかい?」
「それは……」
ふむ。
俺から見たら2人は順風満帆、仲睦まじくて困ってる所とかは無いと思う。
だけど魚沼さんとしては違ったようだ。
「最近、時々、春明さんに向けられる視線が、少し気になります。
その視線に何処と無くですけど、悪意が籠ってるような、そんな気がして」
それはまぁ分からなくはない。
以前ならともかく、イメチェンして垢抜けた魚沼さんは深窓の令嬢という感じで姫乃とはまた違った意味での美人だ。
姫乃ほどでは無いにしろ何度か男子から告白を受けてるはずだし、そんな彼女が付き合ってる相手は一体どんな奴だって話になる。
ハルは、決して不細工ではないけど、特別美男子という訳ではない。
人によっては線が細くて頼りなく思うかもしれないし、パリピからしたら根暗男子に見えるかもしれない。
俺らからしてみればそんな外見なんて関係なく、ハル以外に魚沼さんが付き合う男子は居ないだろうなとも思うんだけど、その辺の事情を知らない奴からすれば嫉妬の一つも覚えるだろう。
「仮にハルもイメチェンしたら……いやあまり変わらない気がするな」
「えっと、一会くん。会長が言いたいのはそこじゃなくてあだ名の方だと思いますよ」
俺の呟きを聞いて姫乃がアドバイスをくれた。
ハルのあだ名と言えば、一時期『陰陽師』と呼ばれていたこともあったけどな。
最近は事件らしい事件も無かったし、だいぶみんなの記憶から薄れてる気がする。