101.辞退させて頂きます
生徒会長の期待と副会長の決意は残念ながら食い違っているように見える。
それはきっと会長が優秀過ぎたせいだな。
もっとも、気付いたからと言って説明してあげる義理はないし俺は俺でマイペースに行かせてもらおう。
「なんか話がややこしくなる前に伝えておきますね。
今日俺達はここに推薦を辞退するために来ました」
「なんだと!?」
「ふむ」
俺の発言に大仰に驚く副会長。
まぁさっき俺の事を敵認定してたからな。
それなのに戦う前から降りると言われたらそうなるか。
その点、会長は落ち着いている。
「理由を聞いても良いかな?」
「そうだ。当然我々が納得する言い訳があるんだろうな」
なぜか上から目線の副会長だけど、別にこちらに説明する義務は無いと思う。
候補者に挙がったのだって彼らが勝手に推薦したのであってこちらからお願いした訳じゃないし。
それでもまぁ、理由はあるから答えた方がこの場が収まるか。
「簡単に言うと俺達にメリットがない。というよりデメリットが大きすぎます」
「ふふっ。生徒会役員を前にして生徒会はデメリットしかないというのかい?」
「ちょっとニュアンスが違います。
俺は生徒会そのものをどうこう言ってる訳じゃありません。
あくまで俺達が役員として活動することに対して言ってるんです」
「ふむ、抽象的でよく分からないな」
とぼける会長は絶対ある程度分かってるだろうに。
本気で分かっていないのは副会長と、あと黒部先輩も怪しいかな。
「では具体的に言うと、俺は今、放課後にバイトを週3~5日していますが、生徒会の活動はそれと兼業出来る程楽な内容ですか?」
「それは厳しいと言わざるを得ないね」
「バイトなど辞めれば良いだろう。貴様は学生の本分を何だと思ってるんだ」
「近しい年齢の人達とのコミュニケーション能力を磨くこと、ですね」
副会長の質問にそう答えた。
俺としては学問そのものはこの学園で学ばなければならない事だとは思っていない。
学力だけなら学習塾に行くだけで十分だし、もっと言えばネットを漁れば幾らでも教材はある。
通信教育だって充実してるしな。
それなのに学園に通うのは何故かといえば、そこには同年代の男女が集まっているからだ。
社会に出てしまえばこういう交流の場は少なくなると聞いているし、リモートワークで月に数回しか他人と話をしていないって人も増えているという。
だからこうして多くの同級生との関係を築くのは学生である今しかない。
「もちろん生徒会活動を通じて学園に貢献することは立派な事ですが、生徒会に参加することが学生の本分なら今ここに居ない生徒は全員それを忘れてることになりますね。
あと、簡単にバイトを辞めろと言いますが、そんなことをしたら明日からの食費は誰が稼いでくれるんですか?」
「そんなものは親の役目だろう」
「親ですか……居たら良かったんですけどね。はい」
「え、あ、いや。すまん。そうか……」
俺の様子に失言を悟った副会長は申し訳なさそうに顔を伏せた。
ちなみに俺の両親は中学の時に両方自動車の事故で亡くなっている。
世間的には事故という事になっているが、実際には一家心中を図ったらしい。
崖から落ちる車から何とか脱出して家に帰ってみれば遺書が置いてあったし。
何でも事業に失敗して数百万円の借金が出来たとか何とか。
幸い両親の生命保険で借金の返済は出来たけどな。
「まあそんな訳で俺達は生徒会活動をする余裕はありません」
別に不幸自慢をしたい訳でもないので、努めて明るく言いつつ、姫乃の方を見て同意を取る。
姫乃の事情は全然聞いてはいないが、放課後にバイトをしている事から考えてもそれほど裕福な家庭でも無いんだろう。
夏休み中は祖母の家に居た事を考えれば俺同様に両親は他界してるのか、もしくはあまり仲が良くないのか。
まあ他人の俺がその辺の詮索を勝手にするのは失礼だろうな。




