100.真打かと思いきや
しかしどうしたものか。
向こうは対抗意識バリバリだけど俺の方はというと辞退する気満々だ。
ここで「あ、俺は降りますんでどうぞどうぞ」とか言うと空気読んでない感じになるよな。
そんな俺の心配は更に後から生徒会室に入って来た人物によって吹き飛ばされた。
「ふっ。やはりここに居たか。
酷いではないか友よ。宣戦布告に行くならなぜ我を呼ばない」
「って、黒部先輩までなぜここに?」
「それはお前。裏庭に行ってみたら誰も居なかったからな。
今日は一緒に昼飯を食べようと思って準備していたのだぞ」
いや別に約束した訳じゃないし。
ちなみに黒部先輩が裏庭で昼を一緒にするのは週に2,3回だ。
裏庭に来ない日はどうしてるかは知らないけど学食にでも行ってるのかな。
「なんだ黒騎士。貴様には朝のうちに宣戦布告は済ませたはずだぞ」
「馬鹿を言うな将軍。我は当事者が集まっていないのに早まるなとあの時言ったはずだぞ。
まったく独りよがりな性格は早めに直せと何度も言っているだろう」
「うるさい。お前こそさっさと友達のひとりでも作ったらどうだ。
どうせ今でもゲームのセーブデータはソロパートしかクリアしてないんだろう」
「ふっ。それは先日までの俺だ!」
顔を合わせるなりバチバチと火花を立てる黒部先輩と織田先輩。
この様子だと以前から知り合いだったみたいだな。
そして最後に勝ち誇った顔をしてる黒部先輩だけど、そのゲームのパーティーミッションを一緒にクリアしたのって俺ですよね。
言い換えれば俺達以外にまだ家に呼べるような友達は居ないって事なんじゃ。
「まあ今は俺達の事は置いておこう。
それより生徒会長。一つ確認したいのだがここに居る村基を生徒会長候補に推薦したのは誰だ?」
「私だ」
胸を張って答える生徒会長に向けて黒部先輩は何も言わずに足早に近づいていく。
そしてサッと手を差し出して。
「流石としか言いようが無い。やはりあなたは人を見る目があるな。
我も次期生徒会長には彼こそが相応しいと思っている」
「ふっ。そうであろう」
何故か握手を交わしてるし。
対する織田先輩は悔しそうに歯ぎしりをしている。
一体何が起きてるんだろうか。
隣に居る姫乃も分かってないみたいだし俺だけ置いて行かれてる訳では無いようだ。
それを見た伊那美先輩が助け舟を出してくれた。
「あ、そっかぁ。1年生は知らないよね。
次期生徒会候補ってね。現生徒会の会長、書記、会計がそれぞれ1名指名することになってるのよ。
副会長が含まれてないのは副会長本人が候補になる可能性が高いから公平性を保つ為ね。
それで会長が選んだのがあなただったってこと」
そうか。じゃあ会計か書記のどちらかが織田先輩を推薦したってことになるんだな。
でもちょっと待てよ。
「あの、3人とも同じ1票だとは思うんですけど、こういうのって最有力候補は生徒会長が推薦した人ってなりませんか?」
「なるわね~。ついでに言うと過去を振り返ると会長が副会長を推薦するのが通例と言って良い程よ。
副会長は絶対に1年生から選出する決まりがあるし生徒会の仕事を理解しているしね。
余程の事、例えば神や救世主級のあだ名を付けられる生徒が現れない限りはって感じね」
「あの俺、村人Aなんですけど」
「そうね。だから副会長は荒れてる訳なのよ」
見たところ将軍は決して悪い人では無さそうだ。
むしろ真面目な人で仕事もキッチリやる人だともう。
であるならばそれなりに生徒会長からの信任も篤いだろうし当然後継者には自分を一番に推してくれると期待してたのに、どこの馬の骨とも知れない村人Aを指名した。
更に書記か会計かは分からないけど自分を推薦してくれたけど、お情けで票を入れてくれたと受け取れなくもない。
そう考えれば悔しくて仕方ないだろうなと同情してしまうな。
ただ誰が誰を推薦したかは少なくとも掲示はされていなかったし知っているのはここに居るメンバーだけである可能性もあるし、それならまだ何とかなると思う。
「副会長は次期会長になりたいのですよね?」
「もちろんだ。この1年、会長の姿を間近で見させて頂き、その崇高な思想を学ばせて頂いた。
これから1年、我も同じ会長という立場になることでその背に追いつきたいと考えている」
「あ……」
そうか。ちょっと分かってしまった。
それで生徒会長は彼を推薦しなかったんだ。