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4. 筋トレ-JiGoKu!

「マスター、もう朝ですよ」


デミノイド・フォーカスライトが俺を眠りから呼び起こす。


「・・・もう少し・・・寝させて・・・」


 フィィ・・・ン


 極小さい機械の起動音が鳴り、窓から朝日が差し込む。

 ガラスの透明・半透明・不透明を切り替えられるという、未来感満載な機能。


 しかし、今の俺には感動に浸る余裕もないほどの疲労感に襲われている。


「・・・バルドルさんのトレーニング、結構大変そうですね・・・」


 フォーカスライトの同情の声が部屋に響く。


 みんなとの顔合わせの翌日から、バルドルのトレーニングが始まった。


「クウマ!そんなんじゃ潜入すらできずに迎撃システムにやられちまうぞ1」


 地獄先生、いや、鬼教官こと、バルドル。

 

 エディアカランで旅をして、それなりの基礎体力はあると思っていたが、ここでは全く違う体力と筋力を使っている。

 経験はないが、軍隊にいるような地獄のしごきで、俺は早々にバテてしまった。

 

「ったく情けねぇ。新人兵士の方がまだ耐えてるぜ」


「・・・俺は・・・軍隊に・・・入ったわけ・・・じゃ・・ない」


 息も絶え絶え。死んだけどまた死にそうなくらいだ。


「あれ?聞いてなかったか?」


「・・・なに・・・を・・・?」


「俺たち、軍属だぞ」


 はい?


「・・・え?どう・・・いうこと・・・だ?」


「だから、軍属なの。Do you understand?」


「いや、意味が・・・わからん・・・」


「昨日、ボスが言ってただろ。上層部直轄の組織、公安みたいなものだって」


 組織とは言っていたが、軍属になるのは聞いてない。


「そうだ。我々は軍組織として行動している。このトレーニングの後に、説明しようとしていたんだ」


 スカンダの声だ。

 しかし、周りを見渡しても、どこにも見えない。


「ここだ」


 目の前から声がした。その瞬間、スカンダが姿を表す。


「光学擬態だ。視覚はおろか、センサー・赤外線や紫外線、電子スキャンですら補足することはできない」



 すげ。完全なる透明人間ってやつか。


 やっと呼吸が落ち着きいてきた。


「スカンダ、軍組織ってどういうことだ?」


「そのままの意味だ。”ガイスト アインハイト”。幽霊部隊というのが我々の組織部隊名だ」

 

 幽霊・・・確かに一度死んでいるから間違ってはいないけどさ。


「知られざる部隊っていうのが名称の由来か?」


「いや?」


 違うのか。


「我々管理者は、一度死んだ身だろ?だからだ」


 俺の考えた通りとか安直だろっ!


「ま、正規でもないし、ましてや絶対に知られてはいけないからな。それも含まれるさ」


「グローリエ・バウム上層部は、”管理者”っていう神みたいな存在があることを知っているのか?」


「いや、それは絶対にない。我々は、オルダ・サクレから離反してきた、グローリエ・バウムへの協力者という立場だ」


「ん?それなら神術・・・UKを使ってもいいんだよな?使えるってことだろ?」


「それは半分間違っている。たしかにグローリエ・バウム上層部は、我々は神術、いやUKを使えることは認知している。しかし、グローリエ・バウムの管轄地域内でUKを使用した場合、その力場を察知するシステムがある。この指輪は、マナを遮断することは昨日話したな」


 ああ、たしかに、ここでは使えないって言っていた。


「表面上は、我々はグローリエ・バウム管轄地域内UKにおいては無能力者で過ごさなくてはならない。だが、察知システムのエリア外であれば、神術を使うことができるのさ」


「システムのエリア外って言ったって、このグローリエ・バウムのどこが対象外になるんだ?」


「グローリエ・バウム全域と言っても、それは都市部だけだ。沖合の海上や、オルダ・サクレまで行けば検知対象外の範囲だ。それに、システムそのものにダイブしてまえば、な」


「システムにダイブ?仮想空間とかのことなのか?」


「違う。いや、仮想空間というものはもちろんあるさ。だが、そこは電子情報での空間だ。電子情報で定義されたこと以外は実行されない。私が言っているのは、直接システムの中に入り込む、ということだ」


 言っていることがよくわからん。


「仮想空間に入るのとは違い、システムそのものに入る、ということか?」


「そうだ」


「言葉的には似てるような感じもするかもしれませんが、全然別のことなんですよ」


 そう言って、スカンダに続いてトゥモヤが通路から出てきた。 


「仮想空間や拡張空間というものは、確かに私たちの精神・・・意識というものを電気信号に変換して、それを電脳空間に投影する技術です」


「意識を投影・・・」

「そうです。現実空間には、抜け殻・・・実体は残っていますよね。システムに入る、というのは、その現実空間に残るはずの実体そのものも電脳空間に入らせることです」


「・・・へ、へぇ」


「端的にいうと、俺たちがそのまま入り込めて、神術、UKを、そのままシステム内で使えるようになるってことだ。まあ、使用できる能力の制限とかはあるんだけどな」


 バルドルが補足してくれた。


「と、いうことは、このグローリエ・バウムという現実空間や仮想空間、電脳空間と言った類では使うことができない神術を、システムに直で入ることであれば使用できるってことか?」


 うんうん、とバルドルがうなづく。


「しかし、システムに入るとは言っても、結局は内部での情報は電気信号・・・0と1の世界だろ?使うことなんてできないんじゃないのか?」


「たしかに、システムそのものはコンピュータ、電気信号のながれでしかありません。しかし、私たちのこの肉体は、マナ。電子や原子そのものを作っている根源そのものです。ゆえに、システムそのものに入り込み、そしてシステムそのものを操作することができる」


「それなら最初から、グローリエ・バウムの監視システムの外からNWに侵入してしまうほうが簡単じゃないのか?」


「いくら我々が管理者で、そしてマナで構成されているとは言っても、自在にこの構成を変換することはできないのよ」


 スカンダは続ける。


「そもそも、自在にマナ構造体と肉体・・・実体を自在に変えることができるのであれば、閉域と現世の移動にわざわざゲートを通る必要もないと思わない?」


「たしかに。直通でもいい、かな」


「マナ構造体までのミクロな世界では、逆に意識だけとなってしまう。我々という生命体を定義するには、ある程度の大きさで、電気信号による体内や脳の神経回路が動作することが不可欠なのよ」


「それならば、システムに入り込んだとしても、電子サイズ以上にはなれなのでは?そうなると、自我を、能力を保ってシステムで使用するのは無理じゃないのか?」


 ふふふ、と、トゥモヤが笑う。


「そうです、確かにクウマさんの言う通り。例え、管理者が電子サイズになったとしても、それは意識がシステムに入り込んだだけで、システムそのものは自由に扱えない。それを解決するために・・・」


「トゥモヤ」


 スカンダが話を遮る。


「実物を見てもらった方が早いだろ。行くぞ」


 トゥモヤは、確かに、と言った様子で、俺についてくるように促した。

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