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3. デミノイド

「さて、そろそろ行こうとするか」


 スカンダは腕輪状のガジェットで支払いを済ませ、バーチェアから降り立った。

 

 店を出て無重量リフターへ乗り、中層階へと向かう。いわゆる「地上」と言われる階層の概念はすでにない。

 惑星の地下階層から空中階層までが、建造物同士が縦横無尽に接続されており、人工的な大地が点在するのみである。

 「建造物の初期段階で建設された位置が地上であった」ということになっているのだ。


「大地のない世界でも生命は生きていける、か」


 リフター内から、どこまでも広がる構造物の集合体見て呟いた。


「そうだな。こちら側のグローリエ・バウムは、うまく自然物から人工物との切り替えが上手く行った事例だ。だが、その上手く行ったというのも、あちら側の”オルダ・サクレ”が存在しているからこそ、この状態が成立しているんだ。だが、グローリエ・バウムの一般市民連中はそのことに全く気づいていないんだよ。理解しているのはほんの上層部のみ。ま、その市民感情をうまく利用して現在の立場に居座っているからな」


 スカンダがため息混じりに語る。


 「停止前の重力感」もなく目的の階層に着き、ドアが開く。


 ネオンや電飾だらけの街並みに、サイボーグやロボット、一部が機械となっているなど、様々な人々が行き交っている。

 建造物の周辺や空中の至る所では、規則正しい軌跡で無数の光の粒が飛び交っているようだ。そのほとんどが無重量リフターの光。

 このリフターに乗っていれば、本来であれば目的の場所まで乗り換える必要はない。空中を飛び交うような「飛ぶ自動車」の代わりに発達した移動手段だ。

 自由に、好きなように操縦はできないが、その代わりに自分勝手な操縦などによる事故もほぼ起こることがない。


「よう、待っていたぜ」


 声があった方へと振り向く。

 身長は190くらいはあるであろう、筋肉隆々のマッチョな旦那だ。

 筋肉隆々ではあるが、全身サイボーグのように金属部分が多数見え隠れしている。


「少し待たせたか?バルドル」


 バルドルと呼ばれた男は「そんなことねえさ」というような素振りを見せた。


「お前がクウマだな。こんな見た目だが、金属部分は偽装用だ。俺も管理者だが、この姿の方がグローリエ・バウムでは動きやすいんでな」


 そう言って、俺の頭に手を乗せ、ぽんぽん叩く。

 彼にとっては軽く叩いているのだろうが、筋肉自体と金属パーツの重みが加味され、結構響いているぞ・・・。

 バルドルは俺の頭に手を乗せたまま、スカンダに話しかけた。


「ボス、あいつもここで合流予定だよな?」


「ボスというな、と言っているだろ・・・。まあいい。ああ、ここで合流予定だがいつものことだ、アレで来るんだろ」


 スカンダが言い終えてすぐに、一つの光の粒がこちらに飛んできた。


「スカンダ、こっちにぶつかるぞ!」


 俺は人々の避難をさせようと動こうとした。しかし。


「大丈夫。ぶつかることはないさ」


 バルドルが光の粒に向かって手を振る。


 光は徐々に減速し、形状が認識できるようになっていく。

 エアロバイクみたいだ。

 操縦者はフルフェイスメットを被っており、表情がわからない。


 バイクは俺たちの前へと着陸し、操縦者もバイクから降り立つ。そしてメットを外した。


「すいません、お待たせしました」


 俺と同じ、日本人のような外見だ。ぱっと見、サイボーグなどのようにも見えない。


「いやいや、お疲れさん」


「直接会うのは久しぶりだな、トゥモヤ」


 なるほど。スカンダやバルドルと同じく、今回の俺のお仲間さんということか。彼も管理者なのだろうか。


「トゥモヤ、呼び出して済まないな。とりあえずこんなところでは話もできん。場所を変えるぞ。トゥモヤ、いつもの場所だ。先に行ってるぞ」


 トゥモヤと呼ばれた人物は近くの駐機場へとバイクを預けにいき、俺たちと別れた。


 俺たちは人通りから外れた路地裏の、地味な店構えのBARへと入っていく。

 内装も、外観と同じように地味だ。

 バーテンダー以外は、店内には女性客4名しかおらず、お世辞にも人気店のような感じが全くない。


「ああ、姐さん。いらっしゃい」


 恰幅はいいがどこか内気そうなバーテンダーだ。


「ボスと姐さんか。色々と呼び名が多いんだな」


 俺の一言にスカンダはため息をつく。


「私がその呼び名でと、頼んだわけじゃない」


「周りの連中が自然とそう呼んでいったのさ」


 バルドルが付け加える。


 ボックス席へと案内され、少し遅れてトゥモヤも合流した。


「じゃあ改めて紹介と行こう」


 スカンダが自分から順に紹介し始めた。


「私はスカンダ。ここ、オルドビス中の管理者をまとめている。さっきまでのように気軽にスカンダと呼んでくれ」


「じゃあ次は俺だな。バルドルだ。ボスに次いでオルドビスには長くいる。趣味は筋トレやボクシング、射撃だ。今度、お前さんにもコーチしてやるよ」

「俺は格闘技経験は全くないぞ」


「まあ、大丈夫だ。まかせろ」


 ジャンルは違うがヒノヤみたいだな。


「次はトゥモ、お前さんの番だ」


「はじめまして。自分はトゥモヤです。ボスやバルドルみたく格闘系は弱いけど、サイバー攻撃面を担当、サポートをしています。管理者になってそんなに経っていません。よろしく」


 三人の自己紹介が終わり、次は俺の番。


「俺はクウマ。俺も管理者になってここが2つ目の世界だ。前に配属されていたところは中世レベルの文化だったからこことのギャップに驚いている。マナもそれなりに自在に扱えるようになってきたくらいだ。よろしく」


 俺の自己紹介の後、スカンダたちは目を合わせていた。

 俺は何か変なことを言ったのだろうか・・・。


「クウマ、お前、エヴァンから何も聞いていないのか?」


 ん?


「なにをだ?特に何も聞いていないが・・・」


「またか・・・。まあ聞いていないならしょうがないが」


 スカンダが水割りを飲む。


「オルドビスのこっち側、俗にいう「機械文明側」のグローリエ・バウムでは、我々が使うマナは使うな。こっちの言葉では”UK”、超能力になるんだが、グローリエ・バウムは誰一人使えないし、使えるものは排除されてしまうんだ。故に、我々はバルドルのよう格闘技術を鍛えたり、トゥモヤのようなサイバー能力が不可欠なんだ」


「・・・マナは使用不可?」


「ああ」


「使ったらどうなるんだ?」


「ここの管理システムに検知・通報され、追跡されることになる」


「俺たちを構成しているこの体は、マナそのものだろ?それならもうすでに検知されているんじゃないのか?」


「お前や我々がつけているこの指輪は、自身のマナ流出を遮断するものだ。体の表面を覆うフィルター、遮蔽フィールドだ。これをつけている限り、マナは流出しない。まあ、もちろんマナを放出することもできないから、神術で自分を守ったり攻撃もできないからそれを忘れるなよ」


 エヴァンさん、そんな大事なことを言い忘れるなんて・・・。


「エヴァンらしいな。そういうことだから、気を付けろよ。それにここでは自分の肉体か頭脳でなけりゃ戦えねえ。明日から早速トレーニングだ」


 ぐは。せっかく”空間能力”という便利な神術を使える様になったのに。肉体と頭脳って、生きていた頃と変わらないじゃないか。


「そんなに落ち込むな。我々の他にも、彼女らがサポートしてくれる。・・・待たせたな」


 スカンダが店内の女性客を呼んだ。知り合いだったのか。


 4人それぞれが綺麗でスタイルのいい女性だ。


「彼女らは”デミノイド”。デミ・ヒューマノイドだ。簡単に言えば、有機物と無機物のアンドロイドといったところか。アンドロイドみたいに完全機械ではないから諜報活動のでき、我々とは比べ物にならないくらい演算能力が高い。大事にしてやってくれ」


「クウマさん、ですね。初めまして。私があなたのサポートをさせていただく、”フォーカスライト”です。よろしくお願いしますね、マスター」


 小柄だが、セミロングヘアが似合っていて、めちゃくちゃ可愛い。これが生身の人間ではないなんて・・・。

 あ、俺も生身の生命じゃないんだった。


「フォーカスライト 、さん。よろしく」


「フォーカスライト、で構いません。あなたは私のマスターなのですから」


 マスター・・・。いい響きですっ!


「クウマのデミノイドの紹介が終わったところで、我々のも紹介しよう。私のデミノイド、AKGだ」


 スレンダーで高身長、社長秘書みたいな感じだが怖そうな感じはない。


「俺のデミロイド、ニーヴちゃんだ」


 眩い金髪の美女。クールそう。


「私のデミロイド、ソナーです」


 藍色の髪、そしてお淑やかそうな感じだ。


「クウマだ。よろしく」


 デミノイドにも挨拶を忘れない。というか、人間と同じで違和感がない。


「デミノイドって、生物ではない、んだよな?」


 スカンダに質問した。


「逆に聞く。お前は、何を持って生物と認識する?」


「そりゃ、親から生まれた、血肉を持って成長し、そして死んでいく、生身のモノが生物、かな」


「ふむ。その定義であれば我々はすでに生物ではないな。だが、デミノイドは親から生まれたわけではないが、血肉を持ち、そして寿命もある。私の考えている、生物という定義は”血肉のある無しに関係がなく、意識や自己認識ができ、増殖や繁殖も可能、生存本能があり、最終的には死があるモノ”だな」


「その定義では、コンピュータウイルスとかも入ってくるのではないのか?」


「ああ、そうだ。機械、いや、プログラムも自我が目覚めれば生物だと思っている。ただの器の違いだよ」


 うーん、この話は長くなりそうだな。


「まあ、この手の話は別な機会にして、今回はここでやる仕事の話をしよう」


 さすが、まとめ役は優先度がわかっている。助かります。


「まずは、ここ、グローリエ・バウムでやることだ。簡単にいう。オルダ・サクレとの戦争を回避させ続けることだ」


 ・・・戦争、ですか。


「さっきも話した様に、グローリエ・バウム側はUK、マナや神術の類は使うことができない。使えない者たちが集まって、ここまでの文明を築いたんだ。だが、オルダ・サクレ側、俗にいう自然派だな。彼らとは水と油で、ことあるごとに戦闘が起こる。そして、現時点では、戦力差としてはすでにグローリエ・バウム側が優位だ。人的及び物量がすでに比べ物にならん。」


 スカンダが飲み干したグラスに、AKGが水割りを作り直す。


「グローリエ・バウムの文明の維持も、オルダ・サクレがあってからこそ成り立つ、ということも話したな。そしてグローリエ・バウム側の市民はそのことを理解していないということも」


「ああ。リフターで話してたことだな」


 スカンダがうなずく。


「上層部としては大規模な戦争は避けたいと考えている。しかし、市民感情としては、オルダ・サクレの、グローリエ・バウムへの全面服従だ」


「グローリエ・バウムの世界征服か、世界統一、みたいなものか?」


「ああ。詳しいことは後から知ることになるだろうが、グローリエ・バウムの者たちはオルダ・サクレで迫害・追放されてきた歴史がある。これは現在も継続しているから、本来であればオルダ・サクレの意識が変わらないことには根本的な解決にはならんだろう」


 無能力者が集まって、こんな文明を築いたのか。確かに地球でも、魔法や超能力、マナとかいった力はフィクションの中だけだったしな。


「上層部は戦争を避けたいが、一般市民は戦争を起こしたい。上層部は権力を維持し続け、グローリエ・バウムの存続意義を守るためには表面上は戦争を起こすことを進める。だが、戦争が起こると、間違いなくオルダ・サクレを滅ぼし、この世界そのものの存続が危ぶまれる」


「矛盾しているな」


「ああ。だからこそ、グローリエ・バウムには上層部直轄の秘密組織がある。表向きは公安としての仕事だが、裏の任務は戦争を回避するための特務機関だ。これに我々が所属しているんだ」


「グローリエ・バウム内部の、裏公安組織か」


「一般側への認知としてはその通りだ。表向きの任務は、テロや事件の内偵やシステムなどの調査。裏の任務は、グローリエ・バウム内部の戦争支持者への破壊工作や情報操作・改竄による、オルダ・サクレへの攻撃延長もしくは回避、または要人の暗殺や実行部隊の壊滅などだ。しかし、ここではマナや神術には全く頼れない。では何を、どうやるかが問題だ」


 バルドルやトゥモヤもうなずいている。


「このグローリエ・バウムでは、今は、メインシステムである「オーディン」が管理・意思決定していて、その結果に基づき、各担当省庁・組織が行動する、というものだ。だから、攻撃命令が下された場合は、オーディンの判断を覆す、あるいは改竄することが目的となる。これは最重要事項で何よりも優先され、可及的速やかに対処しなくてはならない。この場合は、上層部より直接我々にオーディンのシステム改竄依頼が下される。これは、上層部は認知しているが、それ以外からの目線では「テロ」と同義だ。我々のみでシステムへのハッキングが必要となる」


「メインシステムに対してハッキングを仕掛けるのか!?不可能ではないだろうが、そうそうできることでもないような気がするぞ・・・」


「そりゃあ最重要システムだ。防御網は並じゃあないし、何よりも外部からのNW経由では不可能だ。だからこそ、中枢システムにリーチのある場所まで直接潜り込むのさ」


 バルドルが自身気に腕筋を膨らます。


「これまでも不定期ではあるが、何度も情報改竄し、戦争は回避することができている。今回もそういった状況になれば、手法は違えど、同じ様にハッキングし改竄させる」


「そうやって危機の延長をしていても、さっきスカンダが言っていたように、根本的な解決にはなっていないよな。そこはいいのか?」


「それも進めてはいるさ。システムに対して、オルダ・サクレと共存共栄させるようにな。だが、システムのアップデートごとに書き換えられてしまうから、結局はいたちごっこさ」


 一つ、気になった。


「管理者って、そもそもその世界がどう進もうと手出しはしないのが原則ではないのか?たとえ、それが滅びに向かうとしても、だ」


「ああ。その原則は間違ってはいない。しかし、この世界の様に、珍しい繁栄をし続ける場合は別だ。我々管理者としても、この世界が滅ぶことがない様にできる限りの介入をすることが決まったんだ」


「研究対象みたいな言い方だな」


「そう言うな。世界を作った我々にも、滅させないように管理することも必要なこともあるってことだ」


「お前さんはまだ管理者になったばかりだろ?他の世界を回れば、色々と知る様になるさ」


 バルドルがウイスキーロックを飲み干した。


「我々の目的は以上だ。近いうち、といっても戦争までは数年は先だろうが、オルダ・サクレへの小さい攻撃は近々ある。内容を把握し、被害を最小限にする。それまでにはクウマ、お前は格闘技や銃技はバルドル、サイバー攻撃はトゥモヤについて教えてもらえ。わからないことがあればデミノイドに聞いたりしろ。以上だ」


「ボス、作戦前の口調になっているが、今日はクウマの歓迎会だぞ?」


 スカンダは表情を変えずに、グラスを持つ。


「では改めて。クウマ、よろしくな」


「Prost!」


「「Prost!」」


 四人の管理者と四体のデミノイドの乾杯だ。

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