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あの電撃的な顕彰式から数年。殿下は例の件を白紙にすることもなく即座に降嫁し、私の妻となった。
「レオ、お帰りなさい」
「た、ただいま戻りました、殿下」
「はい、やり直し。私はもう王女ではないのよ」
「……はい」
領主の館では帰るたびにこのやり取りがある。今までずっと殿下とお呼びしていたのに、はい今から妻になるので名前で呼びましょうなんて、出来るはずがないじゃないか。数年経っても直らない私ににっこりとやり直し要求をするでん――妻。
「ただいま、戻りました、で、ヴィ、ヴィル」
「うーん、まぁ、及第点にしておきましょう。さ、夕飯の支度は整っているそうよ」
「はい」
横に並んで、食堂へと向かう。これだけでも未だに夢かと思う。
「レオ」
「なん――」
妻の、ヴィルの呼び声に何と尋ねようとしたが、グッと胸元を引かれ、バランスを崩す。そして、唇に柔らかな感触、目の前には妻の顔。
「今日もお疲れ様」
にっこりと笑った彼女の言葉に私は文字通り崩れ落ちた。先にいってるわというヴィルの言葉が聞こえる。
「……母上、母様に対して耐性が低すぎませんか」
「慣れないものは慣れないんだ」
真っ赤になったであろう顔を両手で覆って、地べたに転がっていると養子であるヴァンサンが呆れた声をかけてくる。母上とはつまり私で、母様というのが妻ヴィルのことだ。
「ほら、母上、立ち上がってください。母様が待ってますよ」
「そ、そうだな」
ヴァンサンの両親は不慮の事故で亡くなっており、親族が引き取るか、教会に連れていくかの話し合いの最中にあった。そして、アレ家の一族という事もあり、本人に意思確認をした後、私とヴィルの息子になってくれたのだ。新しく両親になったのが女同士であるのに彼は嫌悪することなく、息子と接してくれる。とてもいい子だ。
「レオ、そういえば、ヴァン、この間学院で最優秀をとったらしいの」
「そうなのか!?」
「そういえば、とりましたね」
食堂に入った際に飛び込んできた言葉に驚いて隣の息子を見れば、言われて思い出したとばかりのヴァンサン。凄い、おめでとうとヴィルと褒めれば、どこかむず痒そうに頬を緩めていた。
今、私は美しい妻に可愛らしい息子と限りなく幸せな日々を送っている。
手折ることを諦めた華が、諦めた先に落ちてくるなんて誰が予想つくものか。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
本編はココでお終いで、おまけとして、あと一話分ヴィルジニー視点の予定です