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騎士を目指し、十年。私は結婚適齢期と呼ばれる時期に突入していた。殿下の元に侍る騎士になるべく私は王都に身を移し、王城勤務の騎士として日々鍛練に費やした。母はどうやら感じるものがあったらしく、父のように何か言うこともなく、頑張りなさいと見守ってくれている。だが、父は再三見合いの話を持ってくる。母と私に一蹴されるのだが、諦める様子がない。そんな中、兄は近くの子爵令嬢と婚姻を結んだ。
「未だに側に侍ることなど出来てないけれど、辺境にいる時よりも殿下の姿を拝見することが出来て幸せです」
「あの人が貴女のいう“殿下”が誰なのか気づいたら、何て言うかしらね」
「唖然として、諦めるのでは」
「えぇ、可能性はあるわね」
ああなるかしら、こうなるのではと母と私が懸想する殿下を知ったときの父の反応を想像して笑う。叶うことのない想いに母は優しく寄り添ってくれた。
一時期はそうであってはダメなのだろうと想いを断ち切り、別に想える人を探そうともした。けれども、やはり、私は殿下へと心が戻ってくるのだ。苦しく思っていると優しく母が声をかけてくれた。内に秘めた想いを吐き出させてくれた。そして、今がある。
「そういえば、王女殿下はどなたか想い人でもいるのかしらねぇ」
「!!」
驚き、目を見開いてしまったのはしょうがないだろう。そうか、そうだよな。殿下も年頃。いや、むしろ、行き遅れに差し掛かる年齢。いずれはどなたかを夫君に迎えるとわかっていたのに、母に言われるまで私はそのことを考えていなかった。いや、正確に言うならば、考えなかったのだ。頭では分かっていても考えたくなかったのだ。
「その、殿下に想い人がいる、というのはどういうことで」
「あら、社交界では結構有名な話よ」
王都で社交界に顔を出す母はよく殿下の噂話も耳にする中で殿下に想い人がいるというのはよく交わされる話らしい。
「なんでも、ここ数年のうちにできた人みたいで、陛下からの婚姻話に首を振ってるらしいわ」
「そう、ですか」
ただ、想い人はどこの誰だかわかっていないらしいのだけど、と母は語る。そして、その想いを秘めたまま修道院に行こうかと検討しているらしい。
全く、知らなかった。いや、きっと心のどこかで殿下へのことを知るのが怖かったのかもしれない。それが今一気に思い知らされる。
「…………」
「レオナール、貴女らしくなかったわね」
父や騎士達に習い、情報収集も怠らないようにしていた私は肝心なところは行っていなかった。母はそのことを受けてどうするかしっかりと考えなさいと告げる。
……もう、潮時なのかもしれない。殿下が誰かに嫁ぐ姿を見るのも、誰かを思い祈る姿を見ることも、きっと私には苦痛なものになる。
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