【前章】第一話 「神童」と呼ばれた幼少期
1
2019年12月に私は死んだはずだった。二度と目覚めないはずだった。
しかし、どういうわけだか私は目を覚ましてしまった。
そこは元いた時代ではなかった。それどころか同じ世界ですらなかった。
自分が3歳の幼児として、しかも帝国皇帝の一人息子として生まれ変わっているという事実に気づいたのは、それからもう間もなくのことであった。
当然使われている言語も全く違うので、覚えるのには大変苦労する。だがそんなことは些細な問題である。
最も大きな問題は
「自 分 の 頭 が ど う し よ う も な い く ら い 悪 い」
ということであった。
こればかりは努力でどうにかなる領域ではない。
父(皇帝陛下)の家系は、長年の近親相姦の為か、代々軽度の知的障害持ちなのらしい。私も例に漏れず、その欠陥遺伝子を受け継いでしまった(因みに前世の父は東大法学部の教授である)。
幸い前世の知識だけは完璧に残っていたが、「秀才」「天才」と呼ばれていた前世の栄光の頃からの落差でプライド崩壊に拍車がかかるので、或いは諸刃の刃なのかもしれない。
さて、もう一つの問題は
「絶 対 君 主 制 国 家 の 皇 位 継 承 権 第 一 位 に な っ て い る」
ことである。
私の国は、50万平方キロメートルもの領土に3000万人もの人口を抱える大国である。皇帝権力の根拠である「聖書」及び「帝国神聖史」によると、千年以上も前から帝国として続いているらしい(本当か?)
そんな巨大国家にも関わらず、私のほかに跡継ぎがいない。
先述の近親相姦のせいで皇族の不妊が長年の問題となっており、運良く生まれても、殆どが先天異常で衰弱死することが理由らしい。
おかげで「数十年ぶりにまともに生まれ育った皇族」として持て囃されるわ、過度の期待をされるわの、絶望の幼少期である。
2
5歳の頃から「英 才 教 育」とやらを受けるようになった。
一日十時間、週六回ものスパルタ式詰め込み教育であり、この年齢の幼児に対してそれを行うことに、果たして効果があるのか、甚だ疑問であった。
ここで私のシラバスを公開しよう
・皇帝陛下先生「帝王学」週6回
・学習院校長先生「帝国史」週18回
・帝国教皇先生「聖書・宗教学」週18回
・学習院国語教官先生「国語」週6回
・帝国陸軍士官学校校長先生「軍事学」週6回
・海外大学教授先生「国際関係学」週3回
・海外大学教授先生「教養学」週3回
....頭おかしいよ!!!とても5歳児に教えるようなもんじゃねぇ!!!
ジェイムズ・ミルもジョンを庶民の子と遊ばせるレベルだよ。少しはクレヨンしんちゃんを見習ってくれ。
しかし、私はその講義を聞いていくうちに、我が国が前世における神聖ローマ帝国と酷似している点に気づいた。
世界地図は全く同じ。思想も前世とほぼ同じものが流行っていて、周辺諸国の政治経済は私の歴史とだいたい同じような動き。
文明レベルは恐らく18世紀後半。そろそろフランス革命がおこる頃だろう。
だが幾つかの相違点があった。例えば前世の名前と現世の名前が若干異なっていたり(例:ジョン・ロック→ジャン・ルック)、実際の制度、歴史、文化、技術、建築物等が微妙に違っていた。
最大の驚きは、ごく僅かであるが魔法使いが実在することである。彼らは10万人に1人しか誕生しないと言われる希少種で、現在の我が国においては人種差別の対象であった。
でもそういう些細な点を除けば、私の知識で既に殆ど知っている世界だ。前世の貯金でお勉強はどうにでもなるので「英 才 教 育」も適当に受けていた。
それに痺れを切らした父(皇帝陛下)が臣下に命じてテストを行ったが、当然のように全教科満点を取る私。そりゃ当然である。まぁ結果的に「天才皇太子!」「神童!」という名声で崇められることになった。
私は傷心したメンタルを回復するため、一時期それに迎合して承認欲求を満たした。
しかしそんなもので満足したところで、地の頭の悪さは変わらないのである。ただ虚しいだけだ。
・・・前世に帰りたいなぁ




