たまコロと赤鼻~メリークリスマス~
びゅーん。ごおおおお。
青と緑のカーテンが揺れる空。赤とオレンジが明滅する暮れない空に、それは音という表現を、風という自己紹介をしてみせた。流れ星であった。
どすん!
そして星は落ちた。星にしては可愛らしい音を立てながら。
「なんだ?クリスマスプレゼントが不時着したのか?米軍に教えてやらなきゃ」
季節柄をわきまえた誰かが近づいた。
「・・・ごっほごほ」
「生きてるか」
誰かは星に向かって安否を問うた。丸っこい、明らかに生命体ではなさそうなモノに向かって。
「あ、ああ。大丈夫。ちぃっとヘマをやらかしただけだわい」
「そっか。無理すんなよ。年の瀬だからよ。年末年始を病院で迎えるのも乙かも知れんが、そうなりたいわけじゃないんだろう」
球状(サッカーボール?)の癖に、うんうんと同意を示し、タマは自分の身を案じてくれた者に感謝を述べた。
「ありがとうよ、心配してくれて」
「なあに。ここいらはおいらの土俵さ。飛び入り参加は大歓迎だぜ」
「ほっほう」
深く切り込まれた大地。果てがないほどだだっ広いのに、象徴的な風景はさらに背の高い銀闇の森だけ。たまコロは原野よりも、その者に興味を持った。真っ赤なお鼻の誰かに。
「お主、暇か?」
「いいや?今日は砂粒の数を数えなきゃいけないんだ」
「拷問でもされとるんか?それよりはマシなバイトがあるんじゃが。どうじゃ?」
「バイト?」
誰かは意味もなく砂をかき混ぜながら、聞き返した。
「うむ。さっきも醜態をさらしてしもうたが、いよいよ自分の足で飛ぶのは厳しいんでな。誰かに運んでもらえれば、これほど助かることはない。お主、見たところ健脚じゃの。どうじゃ」
「おいら、ここいらしか知らないぜ」
足には自信があった誰かだが、地元から出たことはない。地理には自信がなかった。
「なあに。すぐに覚えられるわい。地元じゃ迷わんのじゃろ?」
「当然だぜ。泉も川も海も覚えてる」
「なら問題ないの。たくさんのお宝が待っておるぞい」
「行こう」
誰かの決断力は、それなりに見るべきものがあった。ここに居続けても困ることはない。けれど楽しそうな何かを提示されるや否や、見事に飛びついた。
真っ赤なお鼻はピカピカ光り、たまコロを引き寄せて飛んだ。
「おいら、どこ行きゃ良いんだ?」
「目に見える全てが素敵な世界・・・いや、どこでも良いんじゃ。皆に愛と希望を届ける。皆にじゃ」
「分かったよ。気ままに流すぜ」
そして赤鼻とたまコロの旅は始まった。気ままに流れること、わずか数十億年。時と場所を移し替えながら、今もその旅は続いている。
「ところで宝ってなんだ?」
「・・・仲間じゃよ・・・!」
以前は熱くたぎっていたたまコロも、今は落ち着いていた。その顔に刻まれた無数のシワが、旅の長さを物語っていた。そしてたまコロの横には新顔の、白く黄色い小さなパートナーの姿もあった。赤鼻のそばに付かず離れずいくつかの姿があるように。
流れ流れて、幾星霜。冷たい闇を輩に、ぶつかり合うも他生の縁。今日も真っ赤なお鼻はピカピカ光り、暗い夜道を照らし出す。
「そういえば。メリークリスマス」
「ん?」
「ほら。おいら達が会った時。クリスマスだったじゃん」
「いつの話じゃ・・・・・・そういえば、今日も・・・」
赤鼻の思い出したかのようなセリフに、いやまさに思い出したのだが、つられてたまコロも何かを思い出した。
そしてたまコロは自分のポケットの中身を探り始めた。このポケット、時によって別の物が入っているのだ。
「ほい!」
自慢げな顔でたまコロが取り出したのは、獣のオーナメントだった。目立つ頭部では、フォークのように角の先っちょが分岐している。茶色の毛皮はいかにも寒さに強そう。いわゆるトナカイだった。
「なんだいこれ?」
赤鼻はトナカイの飾りを転がして遊んでみた。
「違う違う!これはボールではないぞ。これは飾ってピカピカしとるのを楽しむもんじゃ」
たまコロは器用に、赤鼻の胸にピタッとトナカイのオーナメントを付けた。かっこいいバッジにも見えた。
「へえ。これがクリスマスプレゼントか。悪くない」
赤鼻はそれ以上、飾りに触れなかった。かっこいいからそのままにしているのかも知れない。
「うむうむ。メリークリスマス」
「メリークリスマス」
たまコロと赤鼻はお互いに今日の日を祝い、またいつものように砂浜を歩んだ。
今度はおいらがプレゼントをあげよう。赤鼻はそう思った。
今度は何をあげよう。たまコロはそう思った。
メリークリスマス。今日という日に。出会えたあなたに。