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はじまり
牧野絵里はふとんの中でスマホをひたすら触っている。
生きることは退屈だ。
死ぬことは恐怖だ。
どうやって生きていけばいいのか、それを理解している人間は少ない。
息苦しい。
部屋の電気は消してある。
ドアはロックしてあるから誰も入れない。
スマホでYouTubeを起動させた。ラインナップには政治家の汚職に対する非難の動画や世界に蔓延するウイルスのニュースが流れ落ちるように入ってくる。
ただでさえ息をしにくい世界にウイルスが現れたことでさらに住みにくくなった。
いつからか世界は灰色になってしまった。
ドアをノックする音が響く。
「絵里」
母親だ。今日はすごく上機嫌だ。艶のある。変に色気のある声をしている。