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ヤンキー君は凝り性  作者: 暁 龍弥


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5/20

「ただいま」「おかえり」

「ただいまー」「おかえりー!」


家のドアを開けた瞬間、ほぼ同時に妹2人の声が重なった。

玄関の匂いと声の響きが、学校とはまったく違う世界へ俺を引き戻してくれる。


「お兄ちゃん帰ってきたー! 待ってた!」

「お腹すいた!」


上の妹・マリアは明るくて甘えん坊。

下の妹・イリアは小悪魔で冷静、ただし俺へのツッコミは容赦ない。


「わーわー言ってねぇでまず靴並べろ」


そう言うと、マリアが慌ててスリッパに突っ込み、イリアがため息を吐きながら靴を揃えた。

このテンポ感が懐かしい。朝の喧騒と学校の視線が全部遠のいていく。


「今日ハンバーグなんだろ?」

「煮込みハンバーグでしょ?」


妹2人が揃ってエプロンまで用意してるあたり、期待値が高いのが分かる。


「……仕方ねぇな。作るか」


「やったー!」「勝利!」


キッチンへ移動し、手を洗って髪を束ねる。

鏡に映る銀髪の自分。学校では理由もなく怖がられる色なのに、家では安心の象徴になっている。それが不思議だった。


「じゃあ、玉ねぎのみじん切りやって」

「……え、泣くやつ?」とマリア。

「泣かないようにやるんだよ」とイリア。


「2人とも切り方違うぞ。マリアは大きいし、イリアは細かすぎ。合体させたらちょうどいいな」


「えー?」「むむむ?」


賑やかさに、思わず頬がゆるむ。


(学校より、家の方が俺は自然だな……)


そう思った瞬間、神宮寺の顔がふっと頭に浮かぶ。


〈また話したいです〉

あのメッセージの余韻はまだ胸の底に残っていた。


「……お兄ちゃん、にやけてる」


イリアの声が刺さる。


「にやけてねぇ」


「今、にやけてた。証拠動画撮ればよかった」


「監視すんな」


「マリアー! お兄ちゃんが恋してる顔してるー!」


「えっ!?えっ!?なんで私にふるの!?」


2人の声が跳ねるように明るくなる。


「違う。誰の顔も浮かんでねぇし、何もねぇ」


否定したつもりだった。

だが、口調が速かった時点でアウトらしい。


「図星だ」

「図星ですね」


妹2人の声はシンクロしていた。


(……この家で嘘つくの無理だな)


ハンバーグのタネをこねながら、視線を避ける俺にイリアが近づいてくる。

性格的に一番鋭い方だ。


「ふぅん……“恋じゃないけど気になる”って顔だね」


「お前、なんで分かんだよ」


「だってお兄ちゃん、そういう時だけ顔が優しくなるもん」


言い返せなかった。


イリアは言葉を重ねる。


「別にいいじゃん。お兄ちゃんだって高校生だよ? 恋してもいいじゃん」


その声はからかいじゃなく、本気の優しさだった。


「……急に真面目にくるな」


「こういうときだけだよ。レアサービス」


マリアも割り込んでくる。


「もし彼女できたら……紹介してね。ちゃんと……紹介してね」


その言い方にはほんの少し“寂しさ”が混ざっていて、俺はすぐ気付いた。


(こいつらも……俺を取られたくない気持ちがあるんだな)


包丁の音が静かに響く。

ハンバーグが焼ける音、油のはぜる音、ソースの香り。

家の空気が、安心の色に染まっていく。


「できたぞ」


「いただきます!!」「いただきまーす!」


二人は勢いよくハンバーグを切って、目を輝かせた。


「やば、店レベル」「お兄ちゃん、天才だった?」


「前から言ってんだろ。お兄ちゃんは天才なんだってば」


マリアは本気でそう言う。

家族以外は滅多にそう思ってくれなかった言葉。


「学校はどうだった?」

イリアがさりげなく聞く。


「……まぁ、悪くはなかった」


「ほら。やっぱりいいことあったんじゃん」

「友達できた?」


一瞬言葉につまった。

迷って、でも嘘は嫌で、


「たぶん……できた」


と言った。


妹2人の顔がぱっと明るくなる。


「やった!!」

「お兄ちゃんにも友達できた!」


(……なんでそんなに喜ぶんだよ)


胸の中がじんわり熱くなる。


「で、その友達……女?男?」

イリアの目が光る。


「男。2人。三浦と黒瀬」


マリアが手を叩いた。


「よかったー! 高校でぼっちだったらどうしようって思ってた!」


「ぼっちこわいもんね。文化祭とか体育祭とか地獄だもん」


「お前ら何の心配してたんだよ」


「お兄ちゃん幸せじゃないと私たちも幸せじゃないの!」


「間接的に依存発言すな」


3人で笑った。


食後、皿洗いをしながら、また神宮寺の顔が浮かぶ。

ふと、ポケットの中のスマホが気になった。


(……連絡、くるのかな)


そんな期待を胸の奥に押し込もうとした時、


——スマホが震えた。


『今日の夕焼け、すごく綺麗でしたね。

明日、よかったら……一緒に帰りませんか』


差出人:神宮寺 玲


息が止まった。


妹たちがソファから身を乗り出してくる。


「誰から?」「誰から?誰から?」


(……隠せるわけねぇよな)


画面を見せると、妹2人の顔が凍りつき、


「…………」

「…………」


そして1秒後、


「来たーーーーー!!!!!」

「これは完全に女の流れーーー!!!!」


家が揺れるほどの大歓声。


「落ち着け!うるせぇ!!」


「返信しろ返信しろ返信しろ!!」

「即レスは重い!でも遅すぎるのもダメ!今が絶妙!!」


俺より女子力高いのやめてくれ。


深呼吸して、ゆっくり文字を打つ。


『いいぞ。明日一緒に帰るか』


送信。

数秒で返ってきた。


『嬉しいです。楽しみにしてます』


ほんの短い文なのに、胸に残る。


「ふふん、お兄ちゃん完全に恋してる顔」

イリアの声。


「まだ恋じゃねぇ」


「“まだ”って言う時点で90%恋じゃん」


返す言葉がなかった。


ただひとつ分かる。


妹たちがいる家は安心できる場所。

そして——


学校には、俺を変える誰かがいる。


その事実が、静かに俺の心を満たしていった。


新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!

愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に

https://ncode.syosetu.com/n3642ll/

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