表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンキー君は凝り性  作者: 暁 龍弥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/20

「気になる理由」

「あなたのこと、少し教えてください」


 それが、神宮寺玲が最初に俺へ向けて放った言葉だった。


 好きとか嫌いとか、興味本位とか、上から目線でもなく、ただまっすぐに俺という人間そのものを知ろうとする声。

 そんなの——高校生活で最初に聞くには刺激が強すぎるだろ。


「……なんでだ?俺なんかに」


 そう返すと、神宮寺は少しだけ首を横に振った。


「“なんか”って言いましたね。それ、自己否定じゃなくて、周りの評価の受け売りです」


「……は?」


「銀髪の死神って呼ばれてるから? 見た目が怖いって言われるから? 噂になるから? ——そんなの、“あなた自身の価値”じゃない」


 ズバッと言い切る神宮寺。その声音は柔らかいのに、深く突き刺さる。


(……コイツ、言葉の選び方が上手すぎるだろ)


 自覚がある。俺は、周りの評価なんか気にしてないような顔をしてきたけど、実は誰より気にしてた。昔から、勝手に怖がられて、汚名のようなあだ名をつけられて、でも何もできなくて。


 だからこそ、神宮寺の言葉は、聞き慣れない温度を持っていた。


「それに——」


 と、神宮寺は少し視線をそらして、小さく息を吸った。


「……銀髪、綺麗だと思いました。実際に近くで見ると、もっと」


 ——鼓動が跳ねた。


 思わず息が止まった。


「な、に言って——」


「見たままを言っただけです。嫌でした?」


「いや……別に嫌じゃねぇけど……」


 むしろ、初めて言われた。


 銀髪が“綺麗だ”なんて。


 生まれて24時間以内に「かっこいい」と「かわいい」と言われるのは妹たちの担当で、俺は“怖い”だの“厳つい”だのしか聞いてこなかった。


「だから知りたいんです。あなたがどういう人なのか」


 神宮寺は机に軽く手を添えながら俺を見る。その瞳には一切の濁りがない。


「嫌なら無理にとは言いません。でも、興味を持ったんです。誰かの噂じゃなくて、“本物の冬木悠斗”に」


(……この人、本当にすごいな)


 俺自身よりも、俺という存在を“尊重して扱う”その態度。

 今までの人生で、そんな風に向き合ってくれたのは妹たちくらいだ。


 なら、逃げる理由はどこにもない。


「……じゃあ質問に答えればいいのか?」


「はい。ひとつずつでいいので」


「その前に条件がある」


「条件?」


 一瞬、警戒の色がわずかに彼女の瞳に宿った。その表情の変化すら、どこか魅力があった。


「俺のこと聞くなら、お前のことも話せ」


「……っ」


 今度は逆に神宮寺が言葉を詰まらせた。


 交渉というよりフェアを求めただけのつもりだったけど、彼女には意外だったらしい。


「……なるほど。そう来ますか」


 神宮寺は口元に微かな笑みを浮かべた。


「いいですよ。じゃあ取引成立です」


◇ ◆ ◇


 教室には、もうほとんど人が残っていなかった。


 放課後の日差しが、斜めに差し込んで机の影を伸ばしている。大声を出せるほどの距離じゃないけれど、誰かに聞かれる心配もない、それくらいの静けさ。


「じゃあ、質問して。このままだと私ばかり話してしまいそうだし」


「じゃあひとつ目」


「はい」


「お前……なんで俺のこと、気になった?」


 意外とストレートな質問になった。だが、そこを聞かなければ何も始まらない。


 神宮寺は腕を組まない。頬杖もつかない。ただ姿勢よく椅子に腰掛けたまま、静かに思考しているようだった。


「……最初はね、興味でした。壇上に立つ前、体育館に入ったときから視線を感じて」


「……いや、見てはいたけど、凝視してたつもりは————」


「違います。私が見たのはあと」


「?」


「挨拶したとき、たくさんの人が私の言葉を“聞いてない”って顔をしてた。でも、ひとりだけ——真剣に聞いてる人がいた」


 神宮寺の指先が、すっと俺を指す。


「だから気になりました。“見た目で人を判断してる人”じゃないんだって」


 ——俺は不覚にも言葉を失った。


 壇上の挨拶を、ちゃんと聞いてただけ。それだけだ。

 ただそれだけのことで、彼女は俺という存在を“ノイズの外側”で判断していた。


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


(そんな風に扱われたことが……ほとんど無かったから)


「それにね」


 神宮寺は、ふっと視線を逸らし、少しだけ声を落とした。


「あなたが、誰かを守るためなら迷わず動く人間だって、知ってしまったから」


「……熊の件か」


「うん。動画、見ました」


「映ってたのか俺」


「顔はモザイクでした。でも……あなたみたいな銀髪は、他にいないもの」


 その言い方は、なぜだか少し嬉しそうだった。


「私はね、怖い人は苦手です。でも、“優しい人”は逃しません」


 静かな声なのに、心臓に直撃するような言葉。


「だから、『銀髪の死神』なんてどうでもいい。私が知りたいのは、“本物のあなた”だけです」


「…………」


 もしかしたら、これは危険なタイミングだったのかもしれない。

 こんなふうに踏み込まれたら、普通の高校生活なんかできなくなる。


(でも……悪くない)


 誰かに必要とされる感覚は、こんなにもあたたかいのか。


「じゃあ、次は俺の番か」


「ええ。どうぞ」


「……お前は、なんでそんな必死に強くあろうとする?」


 俺が口にしてしまったのは、それだった。


 彼女は驚いたように瞬きをし——すぐに、目を伏せた。


「……そう見える?」


「見える」


「そう。たぶん、それが“私の弱さ”」


「弱さ?」


「生徒会長の妹だから。優秀で当然だと思われてるから。何をしても“神宮寺はできて当たり前”って言われ続けるから」


 言葉が淡々としているのに、痛いほど本音だった。


「期待されないのはつらい。でも、期待されすぎるのも苦しいものですよ」


「…………」


「だから、私は強く見せるしかない。“完璧だ”と思わせるしかない」


 気付いた。


 この強い女は——本当は誰よりも不器用で、誰よりも努力してきた。


「……バカじゃねぇの」


「は?」


「人間完璧じゃねぇよ。そもそも完璧じゃないから生きてんだ」


「……っ」


「お前を完璧だなんて思ってるのは、お前の周りの勝手な幻想だろ。それに合わせてたら壊れるだけだ」


 神宮寺の指先が少し震えた。


「そんな、言われなくても分かってる。でも——」


「分かってるくせに止めないからバカだって言ってんだよ」


「……っ、言い方!」


「事実だ」


 言葉はきつかったかもしれない。でも、そこだけは嘘をつきたくなかった。


 数秒の沈黙。


 そして——


「……冬木くんって、優しいね」


「は?」


「そういう言葉を、真顔で言えるのは優しい人だけ」


 笑うわけでもなく、泣くでもなく、それでもその声は確かに“救われた人間の声”だった。


 俺の胸の奥がじんわりと熱く広がっていく。


「——ねえ」


 神宮寺はすっと立ち上がる。


 心の奥に何かをしまい込んだあとみたいに、表情は静かで、でもさっきよりずっと柔らかかった。


「今日の話はここまで。続きはまた今度でいい?」


「別にいいけどよ」


「よかった。じゃあ……次は私から連絡します」


「……は?」


「聞きたいこと、まだたくさんあるから」


 そう言って神宮寺は小さく手を振り、教室を出ていった。


 残された俺はしばらく動けなかった。


 心臓がうるさい。息が浅い。頭も回らない。


(落ち着け……俺は、どうした)


 こんな気持ち、中学でも小学校でも無かった。


 彼女に惹かれてる。間違いなく。


 恋、なんて言葉はまだ早いかもしれない。

 でも、それを否定できるほど鈍くもない。


(……やべぇな)


 こうなったら静かに高校生活なんて無理だろ。


 そのとき、またスマホが震いた。


『お兄ちゃん! 今日の夜ご飯ハンバーグがいい! – マリア』


『私は煮込みハンバーグがいい! – イリア』


「……やれやれ」


 椅子に深く腰を下ろして、天井を仰ぐ。


(妹と、学校と、神宮寺か……忙しくなるな)


 だけど、不思議と嫌じゃなかった。


 人生が、ようやく自分の意思で“動き出した”気がしたから。


——この日を境に、俺と神宮寺玲、そしてクラスの関係は大きく変わっていく。


新しい作品も書いてるのでぜひ見てください!!

愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に

https://ncode.syosetu.com/n3642ll/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ