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ヤンキー君は凝り性  作者: 暁 龍弥


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18/20

「スタートラインに立つ」

 朝。

 目覚ましが鳴る前に、目が覚めていた。


 カーテンの隙間から差し込む光は、いつもより少し強い。

 胸の奥が、静かにざわついている。


(……今日は、体育祭か)


 布団から起き上がり、深呼吸を一つ。

 不思議と緊張はない。

 代わりに、覚悟だけがそこにあった。


◇◇◇


「お兄ちゃん! 早くしないと遅れる!」

「分かってる」


 リビングではマリアとイリアがすでに準備万端だった。

 二人ともクラスカラーの白いリボンをバッグに結んでいる。


「今日は責任者なんでしょ?」

「走るんでしょ?」


「……ああ」


「じゃあ」

 イリアが一歩近づいて、真剣な顔で言った。

「負けてもいい。でも、後悔だけはしないで」


「……了解」


 その言葉で、腹が決まった。


◇◇◇


 学校に着くと、すでに校庭は人で溢れていた。

 テント、放送席、応援席。

 風に揺れる旗と、ざわめく声。


「冬木ー!!」


 三浦が遠くから手を振る。

 黒瀬は競技表を片手に、淡々と準備を進めていた。


「配置、予定通りでいける」

「了解」


 影森は、応援席でクラスの旗を握っていた。

 少し緊張した表情。

 でも——逃げていない。


(……大丈夫だな)


◇◇◇


「……冬木くん」


 声をかけられて振り向くと、神宮寺が立っていた。

 クラスカラーの白い鉢巻。

 その姿は、いつもよりずっと“同じ場所”にいる感じがした。


「おはようございます」

「おはよう」


「……走る前に、これだけ」


 彼女は、短く言葉を切る。


「勝っても、負けても——

 私たちは、ちゃんとやりました」


「……ああ」


 それだけで、十分だった。


◇◇◇


 開会式。

 校長の挨拶。

 準備運動。


 そして——

 競技が始まる。


◇◇◇


 午前中は、個人競技と団体競技が続いた。


「白組、優勢!」

「赤組、追い上げてきた!」


 点数は拮抗。

 歓声が波のように押し寄せる。


 三浦は障害物競走で派手に転び、

 それでも笑ってゴールした。


「痛ぇ!! でも楽しい!!」


 黒瀬は冷静に綱引きの配置を調整し、

 女子の競技では佐伯が声を張り上げて応援していた。


 影森は——

 小さく、でも確かに声を出していた。


「……がんばれ……!」


 その声は、風に消えそうで、

 でも確実に誰かの背中を押していた。


◇◇◇


 そして、午後。

 最後の種目——クラス対抗リレー。


 白組と赤組。

 点差は、ほぼ同点。


「これ、勝った方が総合優勝だな」

 三浦が言う。


「……ああ」


 俺はアンカー。

 最後に走る。


 スタート位置につく仲間たちの背中を見る。

 一走、二走、三走……。


(……託されたな)


◇◇◇


 ピストルが鳴る。


 一走が飛び出す。

 二走へ。

 三走へ。


 バトンが、確実に繋がっていく。


 応援席から、声が聞こえる。


「白組!!」

「いけーー!!」


 そして——

 影森の声。


「……冬木くん!!」


 小さいけど、はっきり聞こえた。


(……ああ)


 俺は、スタートラインに立つ。


 前を走る赤組のアンカー。

 距離は、わずか。


 バトンが、手に渡る。


◇◇◇


 ——走る。


 地面を蹴る感覚。

 風を切る音。

 視界が狭まり、前だけが残る。


(……追いつける)


 肉体は、限界を知っている。

 でも、心は——まだ先へ行ける。


 応援の声が、背中を押す。


「冬木!!」

「いけぇぇ!!」


 そして——

 隣を走る赤組のアンカーと、並ぶ。


 一瞬、目が合った。

 相手も、本気だ。


(……勝負だ)


 残り、数十メートル。


 足が、悲鳴を上げる。

 肺が焼ける。


 それでも——

 止まらない。


◇◇◇


 ゴールが近づく。


 白線。

 歓声。


 最後の一歩を、踏み出した——


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