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ヤンキー君は凝り性  作者: 暁 龍弥


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17/20

「前夜、静かな本音」

 体育祭前日。

 放課後の校舎は、いつもより静かだった。


 掲示板にはプログラムが貼り出され、廊下には色とりどりのポスター。

 昼間の喧騒が嘘みたいに、夕方の空気は落ち着いている。


 準備は、ほぼ終わった。

 あとは——本番を迎えるだけだ。


(……やれることは、やった)


 体育館の鍵を返しに行く途中、ふと立ち止まる。

 窓の外に見えるグラウンドは、夕焼けに染まっていた。


◇◇◇


「……冬木くん」


 振り返ると、神宮寺が廊下の向こうから歩いてくる。

 手には、少し厚めのファイル。


「これ、最終確認用です」

「助かる」


 二人並んで歩く。

 足音が、やけに響く。


「……今日まで、お疲れさまでした」

「そっちこそ。調整、相当やってただろ」


「生徒会の仕事と比べたら、楽な方です」

 そう言ってから、少しだけ声を落とす。

「でも……楽しい、とは違いました」


「違う?」

「はい。

 責任が重い分、失敗したらどうしようって……ずっと考えてました」


 それは、珍しい弱音だった。


「……俺も同じだ」

 正直に言う。

「一人で決めたくなかった理由、分かるか?」


 神宮寺は首を振った。


「失敗した時に、誰かのせいにしたくなかったからだ」


 言葉を選ばず、吐き出す。


「全部自分で決めたら、全部自分の責任になる。

 それは楽だ。

 でも……誰かとやるなら、成功も失敗も、分け合いたい」


 神宮寺は、しばらく黙っていた。

 それから、ゆっくり頷く。


「……私、前に立つ人は、強い人だと思ってました」

「今は?」

「……支えを作れる人、だと思います」


 その言葉が、胸に落ちた。


◇◇◇


 帰り道。

 途中の分かれ道で、神宮寺が足を止める。


「……少し、話してもいいですか」

「いいぞ」


 街灯が灯り始めた道端。

 人通りは少ない。


「影森さんのこと」

 神宮寺が切り出す。

「……私、最初は少しだけ、焦りました」


 正直な告白。


「冬木くんが、私以外の誰かに、同じように向き合っているのを見て」


 胸の奥が、静かに鳴る。


「でも、それは……嫉妬というより、確認だった気がします」

「確認?」

「自分が信じた人は、誰に対しても同じなんだって」


 神宮寺は、空を見上げた。


「それが分かって……

 少し、安心しました」


 安心。

 それは、信頼の言葉だ。


「……ありがとう」

 俺は、それだけ返す。


「こちらこそ」


 短い会話。

 でも、十分だった。


◇◇◇


 家に帰ると、妹たちがソファで並んでいた。


「お兄ちゃん!」

「明日だね!」


「ああ」


 エプロンを外しながら、言う。


「二人とも、来れるのか」

「もちろん!」

「全力で応援する」


 キッチンで湯を沸かしながら、思う。

 背負うものが増えるほど、支えも増えた。


(……悪くねぇ)


◇◇◇


 その夜。

 布団に入っても、なかなか眠れない。


 体育祭。

 クラス。

 神宮寺の言葉。

 影森の真剣な目。


 頭の中で、全部が静かに回っている。


(……明日、走るんだな)


 勝つために。

 でもそれ以上に——守るために。


 目を閉じる。


◇◇◇


 一方、その頃。


 神宮寺は机に向かっていた。

 明日のプログラムを閉じ、ペンを置く。


(……前に立つ人)


 そう思うと、あの背中が浮かぶ。


 怖くない。

 でも、簡単じゃない。


 それでも——並びたい、と思った。


◇◇◇


 影森は、ノートを閉じて深呼吸する。


(……逃げない)


 そう決めた。

 応援する。

 声を出す。

 前を向く。


 自分の席で、ちゃんと。


◇◇◇


 夜は、静かに更けていく。


 明日は、体育祭。

 走る日であり、

 試される日であり、

 そして——繋がる日だ。


 恋は、まだ名を持たない。

 でも、確かにそこにある。


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