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ヤンキー君は凝り性  作者: 暁 龍弥


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12/20

「席替え、その一席の意味」

 午前の授業が終わり、昼休みに入った瞬間——

 担任が教室へ戻ってきた。


「はいはーい、いいか? 午後の最初の時間、席替えするぞー!」


 教室中がざわつく。


「マジ!?」「ようやくか!」「神席来い!!」


 席替え——

 この一言で教室の熱が一段階上がった。


 俺は特に期待も不安もない……はずだった。


(……いや、ないこともねぇな)


 今の席は教室の後方、窓側。

 視線も少なくて落ち着くが、最近できた輪とは少し距離がある。


 誰の隣になるかで、今後の“空気”が大きく変わる。

 これは恋愛以前に、友情の構造が変わる大事なイベントだ。


◇◇◇


「よーし、今回はクジだぞー! はい引けー!」


 担任がカゴに入った紙を振る。

 クラスメイトたちが弾むように集まっていく。


「冬木、緊張してる?」

 三浦が笑いながら肩を叩いてくる。


「してねぇよ」

「してる顔だぞ」

「お前は顔の判定が適当なんだよ」


 黒瀬は静かに言った。


「冬木、隣になる人……選べるなら誰がいい?」


「別に誰でもいい」


「だろうな。……でも、誰が隣になっても、その人は得するだろうね」


「なんだその言い方」


「冬木と一年間同じ席って、普通に羨ましいだろ」


 言い返そうとしたが、三浦が割って入る。


「俺も冬木の隣がいい!! いやホントに!! 勉強教えてほしい!!」


「勉強以前にまず落ち着けよ」


 そんなやり取りの中、男子も女子もクジを引き終え、

 いよいよ席が発表される。


◇◇◇


 担任が黒板に座席表を書き始める。


 一番後ろの列から順番に名前が書かれていく。


(……俺はどこだ)


 ざわざわとした空気。

 神宮寺がちらりとこっちを見る気配。

 影森が膝の上で手をぎゅっと握っているのも見える。


 そして——


「六番、窓側二列目……冬木」


(ああ、ここか)


 悪くない。

 後ろすぎず前すぎず、人の動線にも被らない。

 落ち着いた位置だ。


 しかし問題は——“隣”。


「七番、その隣……神宮寺」


 一瞬、空気が止まった。


「っ……!?」

「神宮寺さんが冬木の隣!?」「うそだろ……あの二人、超近いじゃん……」

「事件じゃねぇか……」「学校が動いた……」


 ざわざわが止まらない。


 神宮寺はわずかに目を丸くしたが、すぐに静かに微笑んだ。

 そして俺の方へ歩いてくる。


「よろしくお願いします、冬木くん」


「……ああ。よろしく」


 落ち着いた声で返したつもりだったが、内心は少しだけ動揺している。


(隣……か。いや別に悪くはねぇけど……)


 周囲の視線が突き刺さる。


 三浦が悔しそうに叫ぶ。


「冬木ぃぃぃぃ!! 羨ましすぎる!!」

「やかましい」


 黒瀬は何かを悟ったように静かに頷く。


「……席替えの神が微笑んだな」

「黙れ」


◇◇◇


 しかし、席替えの衝撃はこれだけではなかった。


「じゃあ続けるぞー。えーと、冬木の前……影森」


 一瞬、影森がビクッと肩を揺らす。

 そして恐る恐るこっちを見る。


(……おい)


 俺を挟んで、前に影森、隣に神宮寺。


 三浦が後ろの方で叫ぶ。


「お前、ハーレムの主人公かよ!!?」

「違ぇよ!!」


 黒瀬でさえ苦笑して言った。


「いや普通にすごい席だろ。……お前、何か徳積んだ?」

「積んでねぇよ」


 神宮寺は静かに笑うだけだったが——

 その横顔はどことなく複雑に揺れていた。


◇◇◇


 席替え直後の5分休み。


 俺が新しい席に荷物を置いていると、影森がそろそろと声をかけてきた。


「……あの……冬木くん」


「ん?」


「その……よろしくね……一年間……」


 その声音は震えていない。

 昨日より、目がしっかり俺を見ている。


(ああ……努力してるんだなこいつ)


 昨日の勉強会での小さな自信が、確実に影森の中に根付き始めている。


「ああ。分かんねぇとこはまた言えよ」

「うん……!」


 影森は、昨日よりほんの少し強い笑顔を見せた。


 その瞬間、視界の端で——

 神宮寺が影森をじっと見つめていることに気づいた。


 目の色が曇るわけではない。

 嫉妬とも違う。

 でも……何かを胸の内で噛みしめているような、そんな眼差し。


(……おい、なんだその顔)


 思わず声をかけた。


「神宮寺、どうかしたか?」


「……いえ。

 ただ——影森さん、少し表情が柔らかくなったなって思っただけです」


 そう言うと、神宮寺は自分の胸に手を当てた。

 その仕草はほんの一瞬だったが、確かに何かが刺さったような表情だった。


(……マジで何なんだよ)


 俺は恋愛とかそういうのに強くない。

 けど、この微妙な空気だけは何となく分かる。


 神宮寺は影森を嫌っているわけじゃない。

 でも——“何か”を感じている。


 それが何かは、まだ誰も言葉にできない。


◇◇◇


 午後の授業が始まると、席替えの効果はすぐに現れた。


 教科書を広げようとしていた影森が、小さく手を挙げる。


「あの……冬木くん……この式の変形……また教えてほしい……」

「どれだ」


 俺が前に身体を伸ばして説明すると、影森は真剣に聞く。


 その様子を、神宮寺は横目で見守っていた。


 そして授業中、神宮寺も小声で俺に聞いてくる。


「冬木くん……ここ、どうしてこの公式使うんでしたっけ?」


(あれ? 神宮寺って普通に成績いいんじゃ……)


「ここは“平均変化率”と似てるからだ。式を見比べりゃ分かる」

「……あ、なるほど。ありがとうございます」


 神宮寺が柔らかく微笑む。


 俺 → 影森

 俺 → 神宮寺

 という会話が、自然に生まれていく。


(なんだこれ……前の席より忙しくねぇか俺)


 しかし、その“忙しさ”は嫌ではなかった。


◇◇◇


 放課後。

 席替え直後ということで、また自然と輪ができた。


「冬木ー! 席替えで隣神宮寺ってどういうことだぁぁあ!」

「いや、クジだからな」

「クジでそんなドラマ起きねぇだろ!!」


 黒瀬はノートを閉じながら言う。


「……でも、これで勉強会はもっと効率的になるな。冬木、教える相手が近いし」


「いや影森は前だし……」


「おうおうおう、どっちも近いじゃん」

 三浦が勝手にまとめた。


 佐伯まで笑いながら言ってくる。


「冬木くん、女子に囲まれてるってクラスで噂になってるよ?」

「やめろマジでそういうの」


 神宮寺がふっと静かに笑った。


「……噂がどうであれ、私は気にしませんよ。

 冬木くんが“正しく向き合う人”だって知ってるので」


 影森も、小さく頷く。


「わ、わたしも……そう思う……」


 俺は頭をかいた。


(……なんだこれ)


 気恥ずかしい。

 けど嘘じゃない。

 このクラスに、確かに居場所ができつつある。


◇◇◇


 帰り際、神宮寺が机を片付けながら言った。


「冬木くん」

「ん?」

「……明日、少し早く来ませんか?」


「なんでだ」


「席も近くなったので……練習したいことがあって」


 練習?


「説明が少し難しいので……明日の朝、教室で話します」


 そう言うと、彼女は小さく頭を下げて教室を出た。


(……練習? なんだそりゃ)


 気にはなる。

 でも急ぎすぎないペースが、神宮寺らしい。


◇◇◇


 家に帰り、夕飯を作りながら妹たちに席替えの話をすると——


「隣!? お兄ちゃん隣だよ!? 人生のイベントじゃん!」

「しかも前の席に女子!? 青春爆発してるじゃん!」


「……お前らうるせぇ……」


 でも、その声が嫌じゃなかった。


(……悪くねぇな)


 席替えひとつで、こんなに胸の中がざわつくとは思わなかった。

 でもそのざわつきは、どこか心地よい。


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