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ヤンキー君は凝り性  作者: 暁 龍弥


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11/20

「昼休み、輪の中に入るということ」

 月曜日。

 午前中の授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴った瞬間——

 教室の空気がぱぁっと軽くなる。


「腹減ったー!」「パン買いに行こ!」「牛乳飲みてぇ!」


 みんな一斉に立ち上がる。


 いつも通りなら俺は弁当を静かに机で広げ、誰にも話しかけられず淡々と食い終わるはずだった。


 けれど——今日は違う。


「冬木ー! こっち来いよ!」


 三浦のデカい声が飛ぶ。

 黒瀬も教科書を閉じながら手招きしている。


「昨日コンビニで買ってきたチョコあるから食え、ほら」


「いらねぇよ」


「食えッッッ!!」


 勢いに押されて結局受け取る。

 黒瀬が苦笑する。


「三浦は与える喜びを知ってるからな。断ると傷つくぞ」


「知ったこっちゃねぇよ……」


 言いながらも、どこか嬉しいのは自覚していた。


◇◇◇


 机を3つくっつけて、自然と小さな“輪”ができる。

 中心に三浦、右に黒瀬、左に俺。

 その正面には佐伯と、なぜか影森も座っていた。


「こ、ここ……座っていい……?」


 影森が恐る恐る聞く。

 佐伯が優しく笑って言った。


「もちろん! みんなで食べよ!」


 影森は少し安心した表情で席についた。

 彼女は昼も静かだ。

 弁当箱を開ける仕草も、箸を持つ角度も丁寧で、妙に絵になる。


 そして今日はもうひとり——


「ここ、空いてますか?」


 神宮寺が弁当を持って立っていた。

 教室中が一瞬ざわつく。


「っ……!?」「え、生徒会長の妹……?」


 いや、正確には“輪の外”がざわついた。

 俺たちのテーブルは、自然に道を空けていた。


 三浦が言う。


「おー神宮寺! 座れ座れ!」


 相変わらず三浦は相手が誰だろうと距離感がぶっ壊れてる。


 神宮寺はほんのわずかに微笑んで、俺の隣に座った。


 その時——

 影森の目がほんの少しだけ揺れたことに、俺は気づいた。


(……なんか気まずいか?)


 影森も神宮寺も悪い奴じゃない。

 だからこそ、この微妙な距離感は放置すると後でやっかいな誤解に育つ。


 そう思い、自然に話題を振った。


「影森、昨日勉強したとこ、もう一回確認したのか?」


「あっ……う、うん。あのあと帰ってから復習した……。

 今日の授業で少しだけ分かるようになってた……と思う」


「そっか」


 その瞬間、影森の顔がぱっと明るくなる。

 神宮寺もそのやりとりを見て、ふわりと微笑んだ。


 柔らかい空気。

 それだけで不安が一つ溶けた気がした。


◇◇◇


 昼食が進むにつれて、俺の“隠していた一面”がまたひとつバレる。


「冬木、その卵焼き……色合い完璧じゃね?」

「これ兄ちゃんが作ったの?」

 佐伯の目がキラキラしている。


「まあな」


「えっ、すご……!」


 三浦が叫ぶ。


「お前の特技、なんなんだよ!!

 料理もスポーツも勉強もできて、銀髪で目つき悪いってお前……

 漫画だったら絶対“攻略不可の最強キャラ”だぞ!!」


「褒めてんのかけなしてんのかどっちだよ」


 黒瀬が静かに言った。


「単純に凄いってことだろ。……俺も料理できるようになりたいな」


「黒瀬、料理は性格出るぞ」三浦が適当なことを言う。


「それはお前が“雑な性格”だからだろ」

「ひどっ!!?」


 そのやり取りに影森が控えめに笑う。

 神宮寺はお茶を飲みながら俺の弁当を見て、ぽつりと言った。


「冬木くん、卵焼き……甘いんですね」


「妹たちが甘いの好きだからな」


 そう言った途端、

 神宮寺の箸が一瞬止まった。


 そして——ほんの少しだけ、寂しそうに笑った。


「……そういうところ、すてきですね」


 一瞬、胸の奥がざわりと波立つ。


(……なんだ今の表情)


 褒めているのに、なぜか微弱な寂しさが混ざっていた。

 それを追求する前に、視線が集まる。


「やっぱシスコンじゃん冬木〜!」

「違ぇよ」


 三浦が大声で笑い、黒瀬は呆れつつも口元が緩む。


 神宮寺は箸を進めながら、俺の方をちらりと見る。

 その目は——昨日より少しだけ、複雑だった。


◇◇◇


 食べ終わったあと、輪は自然と勉強会の復習モードになった。


「この問題、どう解くんだっけ?」

「冬木〜、ノート貸せ!」

「影森さん、ここペアになろ?」


 佐伯が影森を呼び、影森が戸惑いながらも隣に座る。

 輪の中心にいるのは相変わらず三浦だった。


 影森は慣れない輪の中にいることで少し緊張していたが、佐伯のおかげで表情が和らぐ。


(あいつ、影森を“排除”するタイプじゃねぇな)


 そういう女子が一人いるだけで、クラスの空気が守られる。


 そのときだった。


「冬木、科学のまとめノート……どこで買った?」

「字めちゃくちゃ綺麗……」

「フィジカル強いのに字が綺麗ってギャップすげぇ……」


 三浦と黒瀬が勝手に俺のノートを見て騒ぎ始める。

 周りの連中も寄ってきて、もはや小さな行列に。


「ほら、順番にしろって言ったろ」

「ノートの貸し出し制限あるんですか!?」

「図書館かよ」


 神宮寺が小さく笑った。


「冬木くん、人気者ですね」

「……やめろ、気持ち悪い」

「ふふ。照れなくてもいいですよ?」


 照れじゃない。

 ……いや、照れか。


◇◇◇


 そんな空気の中で、ふと教室の後ろから声がした。


「……あの、冬木くん」


 振り向くと男子の一人が突っ立っていた。

 絡むタイプじゃない。冗談を言うタイプでもない。

 真面目で、どちらかと言うと背景に馴染む存在だった。


「ノート……見せてもらっていいですか」


 静かな声。

 勇気を振り絞った感じ。


「いいぞ」

「っ……ありがとうございます」


 その瞬間、

 男子の肩がほっと落ちたように見えた。


 “怖いと思われていた奴が、実は怖くない”

 その理解がゆっくり浸透していく音が、確かに聞こえる気がした。


◇◇◇


 やがて昼休み終了のチャイムが鳴り、みんな席に戻る。


 三浦が俺の肩をポンと叩いた。


「……なぁ冬木。お前、気づいてねぇかもしれねぇけど」


「ん?」

「クラス、変わり始めてるぞ」


 その言葉に黒瀬も頷いた。


「冬木ひとりの力っていうより……“輪”ができたところから、空気が変わってきてる」


(……そうなのか)


 胸の中に、小さな火が灯る。

 温かくて、でもどこか切ない。


(孤独でいるのが当たり前だったのに……)


 気づけば、いつの間にか変わってた。


 輪の中心じゃなくていい。

 端っこでもいい。

 でも“輪の一部”に、自分が確かにいる。


 それがどれだけ大きな変化なのか、ようやく分かってきた。


◇◇◇


 チャイム直後。

 神宮寺が席へ戻る前に、小さく声をかけてきた。


「……冬木くん」


「あん?」


「影森さんのこと、ありがとうございます」


 意味が分からなかった。


「あいつの何を、だよ」

「孤立しそうな子を、自然に救えるところです」


 そう言って——

 神宮寺はどこか曖昧な笑みを見せた。


 ほんの少しだけ、“胸がざわつく”気配を隠しきれていない笑み。


 それが何を意味するのか、

 俺はまだ知らない。


 ただ、神宮寺自身も気づき始めていた。


 自分の中の“何か”が、静かに形を持ち始めていることを。


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