第ニ章『異世界1話』
私は追いかけていた。師匠の背中を。
師匠は黒いパーカーを黒色のシャツの上から羽織り黒のズボンを着用して全身真っ黒の服装をしていた。それとは反対に夕日のように明るく綺麗な茶色い髪色。時折風で髪をなびかせながら夕焼けを見ている師匠の姿は同性という事を忘れてしまう程に美しくて見惚れてしまう。暫く師匠を見つめていると私の視線に気づいた師匠はこちらに振り向き「ユリス。日が暮れる前に次の国へ向かいましょう」と微笑みながら歩みを進め私達は次の国へ向かった。
しばらく歩みを進めていると城壁が見えてきた。その城壁は私達が近づくに連れ城壁の全貌が見てきた。壁の前に着く頃には顔を見上げないと天辺が見えないほどの大きさになっており、縁を描くように城壁が立てられてある。城壁の一つにはアーチ状の門が付けられておりその左右には衛兵が立っていた。私と師匠は入国する前に衛兵に年齢、出身地、入国目的と軽い入国審査を受け入国を果たした。
師匠の入国審査が終わるまで門の出入り口の前で待っているのだが、師匠が衛兵と揉めあっているのが見えたので私は衛兵に「何かあったんですか?」と問い詰めた。衛兵は「成人の方には年齢、出身地、入国目的の他に職業をお伺いしているのですが、こちらの方は(旅人)と仰っていますが旅人は我々の国では正式な職業と認められておりませんので入国を拒否を致しましたところ、こちらの方が駄々をこねてしまいまして・・・」と言っていた。確かに旅人は収入は不安定だとは思うけどそれを本業にしている人だっているわけだし、それに旅人は私達以外にも沢山いると思うけど何故そこまでして入国拒否をするのだろうか。
「すいません。旅人が職業だと何か問題があるんですか?」私は衛兵さんに問いかける。
「ここ数年旅人と偽り我々の国で悪事を働かせて我々の国を陥れようとしている輩がおります故職業不詳の方は勿論我々が危険と判断した者は入国をお断りしております。」
「そうなんですか…すいませんがあの人私の保護者なんですけどそれでも駄目ですか?」と私は申し訳なさそうに衛兵に駄々をこねてみる。「え…保護者なんですか…しかし決まりは決まりなので・・・」と衛兵は答えるがそれでもと私は駄々をこね、特別に師匠は保護者として入国許可を受け入国をした。
駄々こねは子供の特権。駄々こね強し。
私達は今日寝泊まりする宿を探しながら国の景色を堪能していた。建物は全て木造で建てられており塗装はせず木本来の色合いを保ったまま建物として使用されている。すれ違う人々は皆、私達とは違い色取り取りの着物を着ている。普段は洋風な国を訪れていたので街中を歩いているだけでも新鮮味があってとても楽しい。
そう思いながら街を歩いていると私達と同じように観光をしている二人組の男女とすれ違った。すれ違う際に「この国のはずれにトンネルがあるらしいんだけどトンネルの先は『異世界』に続いているって噂があるらしいよ~そのトンネルを潜た人は皆行方不明になっているんだって!」という話が聞こえてきた。
(師匠が大好きそうな話だ…師匠聞いていないよね?)と思いながら師匠の方を向いて見るがそこにはすでに師匠の姿はなく師匠はその『異世界に続いているトンネル』の話をしていた観光客の所に行き聞き込みを始めようとしていた。
聞き込みを終え師匠が私の元へ戻って来て早速『異世界に続いているトンネル』の話について歩きながらだが説明をしてくれた。
この国の出入り口とは真逆の方向へしばらく歩くと例のトンネルがあり、そのトンネルは数百年前は密売ルートとして使われていたが現代では使用されておらず、10年程前までは有名な観光スポットとして知られていた。トンネルの中へ入ることができ、トンネルを進みながらトンネルが使用されていた当時の事を聞きながら観光するのも人気があった。
しかしここ数年前から観光目的でトンネル潜った観光客らが次々に行方不明になった。その話を聞いた国のお偉いさん達はその話を聞き気味が悪いのでそのトンネルを取り壊そうと作業員を送り込んだが誰も戻ってこず取り壊しも出来ず今も残っている。
そのため今では誰も近寄らなくなりトンネルだけがぽつんとあるだけになっている。今でも怖いもの見たさで観光客がトンネルを潜る事はあるが誰も戻って来ないと言う。
師匠から一通り聞き終え一つ疑問が浮かんだ。「師匠…トンネルに入った人が皆行方不明になっているのだったら私達も行ったら危ないんじゃないですか?」と私が聞くと師匠は能天気に
「そんなの都市伝説よ!噂よ噂!大丈夫!さあ!早く宿を探してトンネルへ向かいましょう!」と師匠はそう言いながら宿探しに専念した。