第一章『旅立ち』
私、ユリスは誕生日の今日、両親を事故で亡くした。
誕生日の為に仕事を早く終わらせた両親は雨の中車で自宅へ向かっている最中に正面から来た車がスリップしそのまま両親の車に衝突し相手方、私の両親も亡くなった。
私は今日で12歳になったばかりで普通の子供だったらまだ親元から離れる事ができない歳だけど事故で両親を亡くし、身寄りもなく私を心良く引き受けてくれる人はいなく一人で暮らすことしかなかった。
両親が生きていた頃には家事全般は私がやっていたのでそれなりに生活はできるのだがお金がないのでいつまでもつか分からない。
だけど生きている限り生きる為には生活するしかないので出来るところまで一人で生活する事しか思いつかなかった。
一週間が経った頃には食料も底を尽き水道や電気のライフラインも切れてしまい洗濯は勿論お風呂も入れなくなり、サラサラだった薄紫色の髪は汗臭くなり最初は真っ白だったシャツも黄ばんでスカートは泥と汗の臭いが染みついていて着ているのも辛くなっていた。
家にいても特にやる事もないので外へ出かける事にした。外へ出てみると道で近所話をしてる人や子供連れの親子などが見られる。
親子連れを見ていると、ユリスの両親が生きていた頃にみんなで手をつないで遊びに行ったり買い物をしていた時のことを鮮明に思い出してくる。
普通の子供みたいに、わがままを言ったりそれを叱るお母さん、叱られたら慰めてくれるお父さん等両親と一緒に過ごした楽しかった日々が一つ一つ鮮明に思い出してきて悲しさのあまり涙が溢れてくる。
ユリスはその場にいるのが耐えられなくなり走ってその場を立ち去った。
しばらく走っていると涙で視界がぼやけていたせいで正面から来る人に気付かずぶつかってしまった。
「わぁ!・・・・」
私はぶつかった衝撃で尻もちをついてしまった。
「あら…ごめんなさい。大丈夫?」
しりもちをついた私に対しぶつかった相手は謝りながら笑顔で手を差し伸べてきたので私はその差し伸べられた手を優しく掴む。
その時に掴んだ手はとても暖かく安心する温もりだった。この感覚はしばらく忘れていた感覚でまるでお父さんとお母さんに手をにいられているような感覚だった。
私より大きい手だけど暖かくて安心感があっていつまでも握っていたくなる手。お父さんとお母さんの事を思い出しまた涙か溢れてきてしまう。
ユリスが泣いていると手を差し伸べてきた相手は「大丈夫?ごめんね…痛かったでしょう?」と私を抱きしめてきた。
「違うの…色々思い出して泣いちゃったの…それよりごめんなさい…次からはちゃんと前を見て歩きます。」とユリスが謝り相手の体から離れその場から立ち去ろうとすると不意に声をかける。
「っあ…待って!お詫びにお家まで送ってあげるわ、歩いている間にあなたが泣いていた理由を教えて?」
「…家に行っても何もないから戻っても意味がないの…お父さんもお母さんも死んじゃったから…身寄りもなくてずっと一人で生活しているの…でも今日で食料が無くなっちゃって…」
「それなら私の所に来る?一緒に旅をしましょう!」と微笑み私に手を差し伸べてきた。
先程までは涙で相手の顔が見えたなっかが改めて見てみると、黒のズボンとパーカを着ていてフードを被った女性だった。全身黒で覆われていて体を動かすたびにフードから見える夕日のようにきれいな茶色い髪がうかがえる。
「っえ?でも私あなたの事知らないし、知らない人にはついていかないって教わったし…」
「知らない人についていかないって守る事も良い事だけど私の誘いを断っても結局一人なのでしょ?」
「っう…そうだけど…」
「まぁ騙されたと思ってついて来てみない?きっと楽しいわよ?」
「怪しい…」
「…べ、別にあなたを無理やり連れて行こうとしているわけじゃないからセーフよ!セーフ!勿論あなたに選択権はあるわよ。私と一緒に旅をするか一人で生活するか。」
「せめて話だけ聞かせてほしい…」
と私が説明をお願いすると彼女は嬉しそうに詳しい話をしてくれた。
彼女は様々な国を転々とし各国で出会った景色や人々の動きを写真に収め本を出したり展示会を開きそこで稼いだお金を次の旅の資金として旅をしていると説明を受けた。
怪しい所は多いけどこんなチャンスがもう一度来ることは限らない。しかし見ず知らずの人についていくと何をされるかわからない恐怖もあるがこのまま一人で生きていくにもこの年ではそう長くは続かないだろう。
そう考えると彼女と一緒に旅をした方が自分の為にもなる。
「め…迷惑じゃななければ…ついて行っても大丈夫ですか?」
私は彼女の様子をうかがうように問い詰めてみたが、彼女は嫌がるどころか満面の笑みで「迷惑なんて思ってないわ♪一緒に行きましょう」と言いながら私の手を再び握って来た。
その時の彼女の手の感触は先程握られた時とは違い握っていると、この人になら私のすべてを差し出しても大丈夫と思えるほどの逞しさを感じた。
「それじゃあ一緒に旅をしましょう!」
こうして彼女、のちに私の師匠となる彼女との旅が始まった。