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戦闘員Aの希望  作者: k a t
第一話 戦闘員Aの希望
9/11

蛇の怪人の希望

強い者が生き残り、弱い者が死ぬ。強者は弱者をいたぶる権利を持っている。弱者を救うためには弱者を強くするしかない。ならば、何があっても弱者を強くしよう、進化させよう。そして、弱者を強者へと変えよう。それこそが我々の進むべき道である。

赤い存在の身体から赤い蒸気はなくなっていたが、赤い存在の一息も休まない一撃によって戦闘員Aは吹き飛ばされる。戦闘員Aは瞬時に両腕で赤い存在の拳を防いだのに戦闘員Aの胸の装甲はひび割れていた。赤い存在の強力すぎる一撃のせいで身体が思うように動かない。赤い存在は一切の手加減なしに戦闘員Aの元へと突っ込んでくる。戦闘員Aに死を予感させるには充分すぎる状況だった。どんな戦闘訓練でもこれほど絶望的な状況だったことはない。戦闘員Aはこの行動が組織のために役に立ったのかを自問する。組織のためになったかどうかは、後は蛇の怪人次第だという結論に至った。戦闘員Aは最後の最後まで抵抗しなければと思うも、身体が思うように動かない。赤い存在が目の前で拳を振り上げているのを見つめていたのだが、目の前の光景は思いもよらないものへと変わる。

 蛇の怪人の顔が目の前にある。赤い存在の拳の代わりに蛇の怪人の身体が戦闘員Aの前を覆っていた。蛇の怪人の胸には赤い存在の拳が貫通しており、その一撃を受けたのならばどこからどう見ても助からない。蛇の怪人が命を呈して戦闘員Aを守ったというだけだった。戦闘員Aは今のうちに赤い存在を攻撃しなければと思うが立ち上がれない。赤い存在が拳を引き抜こうとしても蛇の怪人が貫通した手首を掴んで離さなかった。

 蛇の怪人は力強い目で戦闘員Aに話しかける。

「これを」

 蛇の怪人が水晶のようなものを戦闘員Aに手渡す。戦闘員Aの腕は激しく痙攣していたが水晶のようなものをしっかりと受け取った。

 蛇の怪人は息たえだえになりながらも喋り続ける。

「け、研究、研究成果。我々、我々に、託す」

 蛇の怪人の目が真っすぐとした瞳から憎しみに満ちた目の色に変わり、首を大きく後ろに回して赤い存在に噛みつこうとする。赤い存在は蛇の怪人が噛む突こうとする瞬間に大きく後ろへと飛び跳ねて拳を引き抜いた。蛇の怪人の胸からは勢いの強い砂時計のように青い血が垂れていく。人間であろうと戦闘員であろうと怪人であろうと決して助からないと理解できる血の量が蛇の怪人からの胴体から滴っていた。助からないならば相手に少しでも傷を負わせるべきなのだが、戦闘員Aも蛇の怪人も既に自由に動けない。お互いに囮にさえなれないという状態だった。

 赤い存在は拳を強く握りしめると赤い蒸気が拳に集まっていく。赤い存在は蛇の怪人がもう思うように動けないためにとどめの一撃を加えれると判断したのだろう。赤い存在は蛇の怪人は哀れな姿のままで生かしておけないという口ぶりで言った。

「すぐに終わらせてやるからな」

 赤い存在はこの精神をもって組織の戦闘員や怪人を葬ってきたのだろう。戦闘員Aが何とかして立ち上がろうとしていると森の中から凄まじい爆音が近づいてくる。戦闘員Aが音の方向を見ると同時に見えてきたのは大型のバイクが飛び出してくる姿だった。大型のバイクは全ての状況をかき消すように戦闘員Aの前で滑りながら止まり、大型のバイクの上には戦闘員Bの姿があった。戦闘員Bが蛇の怪人の声を掛けようとする前に蛇の怪人が戦闘員Bを怒鳴りつける。蛇の怪人の口からは喋るたびに青い血を噴き出しており、蛇の怪人は命を削りながら声を出しているみたいだった。

「行け!!!! 」

 戦闘員Bは即座に戦闘員Aの腕を掴んで自分の後ろに乗せる。戦闘員Bはただ逃げられることを信じているようにアクセルを全開にして森の中へと消えていった。組織の戦闘員は様々な搭乗機の訓練を受けてきている。森の中を大型のバイクで進むというのは馬鹿げていたが、今は出来るだけ遠くに離れられるだけで良い。戦闘員Bに必要とされていたのは走り切るのではなく、この状況でどこまで行けるかということだった。

 赤い存在は一瞬の出来事を呆気にとられていた。振り上げた拳を行き場を失っているようにも感じたが、すぐに標的を思い出す。蛇の怪人さえ倒してしまえば施設を完全に破壊したと言えるのは確かだった。赤い存在は蛇の怪人に止めを刺そうと赤い蒸気を拳に集中させる。手負いの相手であったとしても決して油断をしてはいけないというのは過去の教訓から理解している。だから、蛇の怪人が高らかに笑いだしたのを見て赤い存在はとどめの一撃を加えるのを躊躇した。

 蛇の怪人は口から青い血を垂らしながら楽しそうに喋りだす。

「我々は、我々のやってきたことは正しかった、我々は愛されている、我々は間違っていなかった!! 」

 赤い存在は蛇の怪人の異様な雰囲気にのまれて喋れない。蛇の怪人は瀕死の状態でありながらも意気揚々と話し続けた。

「我々は託した。我々は託したのだ!! 何で、使わなかったと思う? それは託せなかったからだ!! 」

 蛇の怪人は首元から注射器を取り出して満面の笑みを浮かべ注射器を自分の首元に刺す。注射器の中の緑色の液体を自身の肉体に注入し終わりおぼつかない足取りで倒れているもう一体の蛇の怪人のもとへと向かった。

 蛇の怪人の肉体は青白くなって溶けていき倒れている蛇の怪人を覆っていく。蛇の怪人は肉体の境界を失う中で希望に満ち溢れるような口調で言い放った。

「お前たちはこの世に必要ない!! お前たちに虐げられたものたちの力を教えてやろう!!」

 混ぜ合わさった蛇の怪人たちの肉体は青白く眩い光で発光する。

赤い存在は攻撃をしなければいけないと思いつつも蛇の怪人の異様な雰囲気によって一連の行動を見るだけになってしまった。蛇の怪人が何かを狙っていたのは明白だったのに何も出来なかった。どんな手負いの相手でも油断してはならないという経験によって何もしないという道を選んでしまった。赤い存在は光が弱くなると同時に一切の油断を捨てるように心がける。

蛇の怪人は二体で一体となり腕や足は蛇の胴体らしき部分に変わっており、最たる変化は胴体と首の上に一つずつ蛇の頭があることだった。二つの蛇の頭はこれからの戦いについて自信満々という表情で赤い存在を見つめている。女神によって選ばれお互いが対になる蛇の怪人に進化したときから二体の蛇の怪人は自分たちが誰にも負けないと確信していた。一体となった二体の蛇の怪人はこれまでの欺瞞をぶち壊してくれた赤い存在に感謝していた。もう二度と傲慢になったり相手を見定めるような真似をしない。強者になったのならばどんな相手でも全力で潰さなければならない。強者が強者であるためには弱者で遊んでいる場合ではない。

一体となった蛇の怪人はにやりと笑う。今までと同じ笑い方であり、今までとは違った笑い方でもある。蛇の怪人は言わなければならない台詞を赤い存在に言った。

「さぁ、これからだ」


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