表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘員Aの希望  作者: k a t
第一話 戦闘員Aの希望
5/11

戦闘員Aの日課

組織の戦闘員は組織の力を強化するために日々訓練に明け暮れている。過激な訓練によって死亡する組織の戦闘員もいるが、過激な訓練だからこそ組織の力はより強まるとされていた。戦闘訓練は命がけでなければ意味がない。戦闘員Aは組織の戦闘員を破壊するのも厭わないような訓練を常に受けていた。

組織による戦闘員の訓練は多様性と大量生産の狭間にある。組織の戦闘員がどれだけ消費されようが大量生産できるが、あまりにも消費サイクルが早いと組織の戦闘員の質が向上しない。一人の戦闘員の質が向上しようがしまいが関係ないとされていても全体の戦闘員の質が下がるのは組織にとって問題だった。組織は戦闘員と質の量で悩んだ末にひとつの解決策を実施する。組織の戦闘員は死ぬかもしれない訓練に身を委ねなければならない。 これが組織による組織の戦闘員の質を向上させる目的によって施行した策だった。組織の戦闘員は常に命を懸けて己の質を向上させるべきである。組織の戦闘員に施行された策は組織の理念にも合致していた。組織の戦闘員は人型搭乗機に乗ろうが対人訓練を行おうが実戦とほとんど変わらない状況で訓練が行われる。

 戦闘員Aは同じ姿をした目の前の相手を壊すつもり本気で暴力をふるっている。相手を先に壊してしまえばこちら側が壊される心配はない。何度も危険な目に会い何度も危険な目に会わせてきた。同じ姿をした仲間だろうと相手を思いやる気持ちを捨てなければ、相手を破壊できない。戦闘員Aは力強く殴りかかって相手の肩を脱臼させた。相手も怯むことなく戦闘員Aの顎を殴りぬく。

 訓練はどちらかが戦闘不能になるまで決して終わらない。組織には命を懸けた訓練を行い組織の理念である進化や革新をもたらすことを求められている。組織の理念を求めない組織の戦闘員は組織に存在してはならない。戦闘員Aは自分の存在理由を証明するかのように相手に暴力をふるい続けた。相手が態勢を崩して後ろに倒れると戦闘員Aは馬乗りになって相手の顔を徹底的に殴る。

戦闘員Aは自分が進化や変革を求めていると証明するように相手が戦闘不能になったと判断されるまで決して手を抜かなかった。戦闘員Aは自分の拳に滴る黒い血が流れるのを何度も目にしている。戦闘員Aにとっては黒い血は不快でしかなかったが自他の黒い血のおかげで自分が組織の理念を実行していると実感できる。戦闘訓練に勝てば勝つほど女神に選ばれる可能性が高まるというのが単なる噂が流れている。噂が嘘だったとっしても戦闘員Aにとっては大切な希望だった。

訓練を指揮する指導員の一人が戦闘員Aの戦闘を統括する。訓練の効果をより強化するためには訓練の後の統括が必須とされていた。戦闘員Aは自分をより良くするために指導員の話を食い入るように耳を傾ける。女神によって指導員になったというだけあって指導員の統括を聞くのは非常に効果的だった。戦闘員Aは指導員の助言は素直に受け入れてきている。

 指導員は戦闘員Aが相手の肩を脱臼させた場面を褒める。

「あの判断は非常に正しかった。相手の行動範囲を狭めればおのずと我々が有利になり我々は勝利へと近づく。私はお前に教えた記憶はないのだが別の指導員に教わったのか? 」

 戦闘員Aは痛みを我慢するような素振りもなく平然とした態度で答える。どんな時でも毅然とした態度で臨むというのも指導員からの助言の一つだった。

「はい。我々の指導員から教わりました」

 複数の指導員の指導に差異があったとしても指導員の指導は組織からの助言として受け取らなければならない。戦闘員Aは矛盾する二つの指導を受けた場合でも何とかして二つの指導を実行できるように努力した。

 指導員は戦闘員Aに諭すように語りかける。指導員が強い想いで戦闘員の行動が変革に役立つと認めているのが戦闘員Aには伝わってきた。

「大きな一歩を踏み出す前には小さな一歩を繰り返すべきだ。お前の一撃はまさに大きな一歩のための小さな一歩であり、肩を脱臼させたおかげで敵を行動不能にした。お前の進化は目を見張るものがあり、これからも前に進み続けるだろう」

 戦闘員Aが感無量で指導員の言葉を聞いていると戦闘員Aの視線の先で胸に穴の開いた組織の戦闘員が担架で運ばれていく。穴の開いた戦闘員は痙攣したまま治療室の方向へと連れられていった。指導員が戦闘員Aの視線に気づいて後ろを振り向く。指導員は穴の開いた戦闘員を見ながら言葉を呟いた。

「あれじゃあ処分を決定した方が良かったか」

 そして、指導員は何事もなかったかのように戦闘員Aの戦闘内容の統括を続けた。戦闘員Aと穴をあけた戦闘員の違いは瀕死の怪我をしたかしてないかの違いしかない。指導員にとって戦闘員Aは無数にいる組織の戦闘員の一人でしかないのは明白だった。

 戦闘員Aは倒れる側にならないためにも指導員の助言を熱心に聞く。指導員の指導をすべて受け入れるようにしてからは致命的な怪我はしていない。生き残るためにも組織の理念を体現するためにも指導員の言葉は戦闘員Aにとっては二重の意味で必要不可欠だった。

 指導員の統括が終わると戦闘員Aは他の戦闘員の訓練を見に行く。戦闘員Aは訓練の時間の全てを進化や革新に捧げたかった。自分と同じ姿をした組織の戦闘員の戦い方を見て学ばなければならない。他の戦闘員の戦い方を見ることで戦闘訓練によって死亡する確率を下げられるという理由もあった。組織の戦闘員が施設内で本気の戦いを繰り広げている。組織の戦闘員の拳や靴には組織の戦闘員の黒い血がついていた。

 女神によって進化すれば、戦闘員Aが従事した今までの戦闘訓練は意味のないものになる。女神による奇跡は戦闘員という存在の制限を完全になくしてしまうからだ。人の形さえも失う場合もある。それでも組織の戦闘員の多くは女神によって進化することを望んでいた。組織の戦闘員としての状況から抜け出すのが多くの戦闘員の望みだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ