表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘員Aの希望  作者: k a t
第一話 戦闘員Aの希望
4/11

戦闘員Aの空気と塵

組織の戦闘員は常に団結を求められている。組織の戦闘員の団結力が強ければ強いほど組織の理念が実現する世界が近づく。蛇の怪人はこれまでに幾度となく集会を開き、組織の戦闘員の団結力を高めてきた。そして、集会には一発の銃声が付き物だった。銃声が鳴り響くたびに組織の戦闘員はより強く団結する。

施設にいる戦闘員全員が整列している理由は組織の団結力を高めるためだ。団結しない烏合の衆など組織にとっては邪魔な存在でしかない。組織の戦闘員が敵を目の前にしても死を恐れないのもこうした朝礼が幾度となく繰り返されているからだった。

「人員は変革の力となる! 」

 蛇の頭をした怪人が戦闘員の前で力強く演説した。蛇の頭をした怪人の一言一言が組織の戦闘員を奮い立たせる。戦闘員Aも施設の研究が完成するのが組織の理念の達成のために急務だと思わざるを得なかった。蛇の頭の怪人の演説は途切れずに続いている。

「我々の研究によって全ての生命は飛躍的に進化する! 我々は女神の力だけではなく、我々自身の手によって我々の変革を起こせる日が来るかもしれないのだ! 女神の力は強大だが全ての存在を進化させるのはあまりにも時間が掛かりすぎる! 女神の力を拡大しようとする実験は過去に何度も失敗しているのだ! 我々の「赤き血の変化」こそが世界を進化させる! 団結せよ! 変革のために団結せよ! 」

 施設の戦闘員は一斉に歓声を上げる。組織の戦闘員は完璧な組織力を見せるために一糸乱れぬ声と挙動で蛇の怪人の演説を褒めたたえた。戦闘員Aは異様な緊張感をもって歓声を上げていたが、それは戦闘員Aに限ったことではない。施設の朝礼にて施設の戦闘員は動作を完璧に一致させる以外に選択肢はなかった。

  一発の銃撃音によって施設の戦闘員の雄叫びが静まり返る。風を切るような小さな一発の音だけで施設の戦闘員全員が黙ってしまった。戦闘員Aの横では自分と同じ姿をした戦闘員が撃ち抜かれて倒れている。もう一人の蛇の怪人が空間の後ろの部屋にもたれかかっている。もう一体の蛇の怪人はあっけらかんと言い放った。

「そいつ少し遅れてたから」

 演説をしていた蛇の怪人は場の空気を戻すように咳払いをすると演説を再開する。戦闘員Aの横では黒い血を流した戦闘員が倒れているのに蛇の怪人たちにとっては咳払い一つで済む問題だった。戦闘員Aは必死で集中して施設の戦闘員と挙動を合わせる。演説が終わるまでは決して油断してはならない。蛇の怪人の言説は施設の戦闘員の緊張によって熱を帯びているようだった。

「同胞が忌々しい人間への攻撃を継続している! 我々はこの機を逃すことなく前に進まなければならない! 恐怖や怒りや不安は全て捨てろ! 全てを組織のために捧げろ! 我々の歩みが変革への糧となるのだ! 」

 蛇の怪人は組織の理念による未来を感じて恍惚としていた。施設の研究に必要な熱帯雨林の動物を集めているのも全ては組織の理念のためだ。組織に所属する全ての存在が進化や変革を目指して活動を行ってきた。戦闘員Aも組織の理念を疑ってはいない。ただ自分と同じ姿をした戦闘員が倒れているという事実が組織の戦闘員としての立場を強く再認させる。蛇の怪人の力強い演説の過程には組織の戦闘員の死があるのが常になっていた。

 蛇の怪人が演説を終えて二人の蛇の怪人がこの場所から去っていく。演説をした蛇の怪人は力強い演説を出来て満足げだった。二人の蛇の怪人がいなくなると同時に倒れている戦闘員に向かって一人の戦闘員が駆け寄ってきた。駆け寄った戦闘員は倒れている戦闘員の前で呆然と座り込む。駆け寄った戦闘員は棒切れのように脱力した戦闘員の手を握って自分の顔の前で祈るように強く握る。駆け寄った戦闘員は倒れた戦闘員の死を耐えきれない様子で震えていた。

風を切るような銃弾の音がする。音と同時に駆け寄った戦闘員が黒い血を噴き出して後ろ向きに倒れた。この場所を去ったはずの蛇の怪人が通路の前に立っている。蛇の怪人は説教をするように軽い雰囲気で言った。

「めそめそすんなよ。面倒くせーな」

 蛇の怪人は後ろを振り返って鼻歌を歌いながら通路を進んでいく。今度こそは本当にこの場所を去っていったようだった。陽気な鼻歌が戦闘員Aの耳へと入ってくるが、戦闘員Aの前には二人の戦闘員の死体が倒れている。施設の戦闘員は施設を清潔の保つために二人の戦闘員を掃除しなければならない。蛇の怪人による戦闘員を奮起させる集会が終わると共に施設の戦闘員は自分たちと同じ姿をした戦闘員の亡骸を処理しなければならなかった。

 戦闘員Bが戦闘員Aの元に近づいてくる。戦闘員Bは呆れた様子だった。

「ほとんど遅れてないように見えたけどあの程度で殺しちゃう理由は何かね? 」

 戦闘員Aは弱々しく答える。

「お二人にしか分からないような些細な遅れだったのだろう」

 戦闘員Bは遠くを見上げるように顔を上げた。

「こっちには判断できないような些細な遅れで殺されるんだな」

 戦闘員Aは戦闘員Bの言葉に対して何を言えばいいのか分からない。蛇の怪人にしか分からないような些細な遅れならば、次に死ぬのは自分かもしれない。今までに撃ち抜かれた戦闘員たちは自分が死んだ理由すらも分からないのかもしれない。集会で倒れた戦闘員の死は組織にとって必要だったのだろうか。施設の戦闘員が二人の戦闘員の亡骸に集まって処理をし始めている。戦闘員Aは清掃に参加する前に戦闘員Bにかろうじて言葉を返した。

「こっちではなく我々だ」

 苦し紛れの戦闘員Aの言葉は戦闘員Aのいつもの警告よりも戦闘員Bに響いているように感じられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ