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戦闘員Aの希望  作者: k a t
第一話 戦闘員Aの希望
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戦闘員Aの現実

戦闘員Aはいつもと同じように任務をこなす。任務をこなすことによって組織の理念の達成に近づくと理解しながらも自分が女神に選ばれて進化することを妄想していた。希望について考えている間は戦闘員として死ぬ可能性を考えずにいられる。戦闘員Aが組織の戦闘員とし任務に従事するのは戦闘員として当然であり組織も戦闘員を必要としている。戦闘員Aは熱帯雨林の警備のために密林を歩き回っていた。

組織には色々な思想の連中がいる。だが、どんな思想を持っていたとしても根っこには存在を進化させるという組織の理念が存在していた。組織の理念の基づいた行動が成功する時もあれば失敗する時もある。どんな結果の時も組織は前に進むための一歩という言葉を強調していた。戦闘員Aが熱帯雨林の施設を護衛の命令に従事しているのも組織の理念のための行動なのだろう。少なくとも戦闘員A自身は強くそう思っていた。

 熱帯雨林地帯に雨季が近づいている。戦闘員Aは施設が何の研究をしているか知らないが施設が雨季のデータを必要としていることは知っていた。世間からヒーローと呼ばれる存在が熱帯雨林地帯を襲撃したことは一度もない。これは戦闘員Aや他の戦闘員にとっても素晴らしい情報だった。戦闘員Aは女神に選ばれなかった。それはヒーローが襲撃に来たときは戦闘員として死ぬ確率が高いということを意味している。

 戦闘員Aはどんな時でも女神に選ばれた後のことを夢想している。それが護衛中でも腐れ縁の戦闘員と一緒に居ても同じだった。夢想していなければ戦闘員として死ぬ恐怖に耐えられない。恐怖に怯えているのが組織にバレて処分される戦闘員よりもよっぽど健全だと戦闘員Aは考えていた。戦闘員として不適切と組織に報告するのは他の戦闘員である場合が多い。

 戦闘員Aの横にいる戦闘員Bはそんなことには興味がなさそうだった。戦闘員Bが任務に対してやる気がなさそうなのはいつものこと。組織が提示している戦闘員としての心構えなどは戦闘員Bにとってはどうでもよさそう。戦闘員Aは戦闘員Bが何を考えているのか分からなかった。 

 視界の悪い熱帯雨林ではいつどこで誰が自分たちの行動を見ているのか判断できない。そもそも戦闘員Bの態度は過去に何度か指導員に注意されている。戦闘員Aが戦闘員Bを注意しない理由は見つからない。戦闘員Bが態度を改めなければいつか処分されるのは明白だった。戦闘員Aは戦闘員Bを注意する。

「そんなにやる気のない態度だと、いつか処分されるぞ」

 戦闘員Bの態度は注意しても変わる様子はない。というよりも戦闘員Aが再三警告してきているのに変わる様子がない。警告以上のことになると組織に報告するしかないので、戦闘員Aはそれ以上のことは出来なかった。処分される危険がない態度で臨めるようになるというのは、戦闘員Bにとっても良いはず。戦闘員Aはそんな思いとは裏腹に戦闘員Bはどうでもよさそうな調子で答える。

「殺処分ねー」

 戦闘員Bのやる気のない態度を見て戦闘員Aは呆れかえってしまう。戦闘員Bの態度では組織の理念から大きく逸脱しているから女神に選ばれることがないと思ってしまう。どんな理由で女神に選ばれるのかは組織ですら分かっていないが、女神が組織の理念を体現している存在であるというのは組織が明言している。組織の戦闘員は常に変革する気持ちを持たなければならない。戦闘員Bの態度は組織の理念を否定するような現状維持に見えて仕方がなかった。

 戦闘員Aは納得しない様子で言葉を返す。

「処分されても良いのか? 組織のために何かを成せずに死ぬんだぞ? お前は何のために生まれてきたんだ? 」

 戦闘員Aの強硬な姿勢も戦闘員Bには響いていない。戦闘員Bはオウム返しをするだけだった。

「何のために生まれてきたんだろうな」

 戦闘員Aは待ってましたと言わんばかりに声を荒げる。

「我々は進化し進歩し変革するために生まれた! お前の態度は我々の理念から大きくはずれていると言われても仕方がないんだ! 」

 こんなやりとりをどれだけ繰り返してきたのだろう。戦闘員Aは戦闘員Bを怒鳴りながら心の中でそんな風に思っていた。戦闘員Bの意識を変えることを戦闘員Aは諦めるつもりはない。それでも戦闘員Aの記憶には何をしても戦闘員Bの態度が変わらない事実が残っている。女神の一度の奇跡だけで全てが変わるのだから、何かの拍子で戦闘員Bの態度も一変するかもしれない。このままだと戦闘員Bは戦いで死ぬ前に処分されてしまうだろう。戦闘員Aにとっては時折警告を発することが最善の対処だった。

 戦闘員Bは空を見上げている。木々が密集しているほんの隙間から澄み切った青空が見えていた。

 戦闘員Bは呆けたように呟く。

「雨が降ったら護衛はきつくなるけど森にとっては恵みの雨なのかね」

 戦闘員Bが雨を待ち望んでいるのか拒否しているのかは判断できない。戦闘員Aが答えられるのは組織の施設が雨季のデータを望んでいるということだけだった。

「この施設では雨季のデータを必要としていると聞いた。組織にとってはありがたいのだろう」

 戦闘員Bは戦闘員Aに疑問を投げかける。

「この施設は何の研究をしていると思う? 」

 戦闘員Aは困ったように沈黙した。戦闘員Aは施設が森林の動物を集めているという事実に目を背けるように、苦し紛れの答えを口にする。

「我々は疑問を持たない。組織を信じるだけだ」

 戦闘員Bは戦闘員Aの心情を見透かしているようでもあり、戦闘員Aの返事を期待しているようでもあった。戦闘員Bが戦闘員Aに質問をするときは戦闘員Bの期待を戦闘員Aは感じることがある。戦闘員Bを改心させるためにも質問には出来るだけ答えるようにはしていたが答えられない質問には答えられなかった。

 戦闘員Bは施設の現在の動きについて語りだす。

「最近は動物を運んでたみたいだけど最近は現地の人間を入れているみたい。何をしているんだか」

 戦闘員Aは語気を強めて戦闘員Bをとがめた。

「気をつけろ。組織の理念を疑っていると思われかねない発言だ。疑問を口にするのはいいがそれ以上はやめるべきだ」

 戦闘員Bの疑問は進化のための犠牲に疑問を呈するような意味合いが入っていると判断されかねない。組織の理念のためにはあらゆる犠牲が許されているという考えを持つのが戦闘員としての当然とされている。組織への忠誠心を揺るぎないものにすると同時に、今までの多くの戦闘員の犠牲のためにも組織の理念に疑問を持つのは許されなかった。戦闘員Aは戦闘員Bが今までよく生き残れたなと感心する。戦闘員Bの生返事によって戦闘員AとBの会話は終わった。


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