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戦闘員Aの希望  作者: k a t
第一話 戦闘員Aの希望
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戦闘員Aの希望

戦闘員Aが女神の寵愛を目撃している。無数にいる戦闘員の一人が女神に選ばれて、戦闘員の殻を破ることになる。

次々と移り変わる風景。戦闘員は異様な光景を驚きながら眺めていた。

「恐ろしい能力だよ。いつもながら」

 戦闘員の横の戦闘員が呟く。戦闘員はみんな同じ姿をしていた。戦闘員たちが身体を一切動かさないのは自分たちが小さな虫のように踏みつぶされる存在であると理解しているからだ。そのため、戦闘員たちは女神の奇蹟を大人しく眺めている。このまま何事もなければ、今までと同じように戦闘員の誰かは女神の恩恵を受けることになる。

 戦闘員Aは女神に選ばれて進化することに希望を持って待っている。戦闘員Aは他の戦闘員が女神の寵愛を受けて、戦闘員から進化する姿を見てきていた。人間に近い姿になる者、異形の化け物になる者、戦闘員から個性を持つ戦闘員の姿になる者。戦闘員は進化しようとしまいと、いつか死ぬ。それでも戦闘員Aは戦闘員として他と変わらぬ姿で死ぬよりも個性を持つ戦闘員として死にたいと思っていた。

 女神によって変わり続ける風景という、変わらない光景。花や川が存在したと思ったら、建物や人骨が次の瞬間には現れてる。女神は組織では変化への希望とも呼ばれている。世界の歴史を見つめ直すことで戦闘員たちの進化を再構築していた。戦闘員は女神の恩恵によってどんな姿になるのかは分からない。女神の望んだ姿に変化するのか、女神が個人の想いを受け取って変化させるのか。組織の一人は女神に拒絶されるような姿にはならないだけと話していた。

 風景が移り行く速度が速くなっていき女神の選定の時間が近いと感じさせる。空間を包むのは戦闘員たちが見たことも行ったことのない景色ばかり。戦闘員たちはどこへでも行けるけどどこにでも住めるわけではない。戦闘員は組織にとっては消耗品。戦闘員が僻地に行くというのは過酷な場所で死ぬ可能性が高いことを示していた。戦闘員が僻地への出動を命令されて生き残れる方法は一つ。戦闘員が過酷な環境に適応するように女神に寵愛によって進化することだけだった。

 戦闘員は戦闘員Aの横に立ちながら言葉を漏らす。戦闘員は自分が女神に選ばれるのを期待していないような口ぶりだった。

「さっさと決めてくれないかな」

 戦闘員Aの横にいる戦闘員は風変わりな性格をしていた。戦闘員は同じ工場で生成されて同じような姿をしているのに性格は微妙に違っている。組織の説明によれば多様性が許容の範囲内であれば多様性は組織力の強化に繋がるためということだった。同じ姿でも熱心な性格だったり面倒くさがりの性格だったりするが性格の中には戦闘員として許されない性格も存在する。自由への欲求や組織への反抗心を口にしているのを知られたらその戦闘員は即座に処分される。戦闘員Aの横にいる戦闘員は処分される可能性の高い発言を繰り返していた。戦闘員Aが戦闘員の発言を注意しても戦闘員は耳を貸そうとしない。戦闘員Aはこの戦闘員の発言を他の誰かに聞かれないのを祈るばかりだった。

 戦闘員の態度は子供が演説を聞き飽きた時のようだ。他の戦闘員が女神に釘付けだから戦闘員の帰りたさそうな態度が見つかっていないだけで戦闘員の態度は組織の規範に明らかに反している。戦闘員Aは我慢できなくなり戦闘員を小突いた。

「女神の前だぞ! それとも処分されたいのか!? 」

 戦闘員は戦闘員Aから注意されて渋々襟を正す。戦闘員が女神の前と言う状況を気にしたから襟を正したというのではなく戦闘員Aに注意されたからという感じだった。戦闘員は自身が進化することなどどうでもよさそうな態度で女神の選定に臨む。戦闘員の態度は前々から、そうだった。他の戦闘員が進化した際に戦闘員全員で拍手する時もこの戦闘員の拍手はどこか冷めている。戦闘員Aは戦闘員のこのような態度が組織から処分されないとは思えなかった。

 戦闘員は女神の奇蹟の光景が激しく移り変わるのと反比例するように冷めた口調で発言をする。

「誰が次は選ばれるのかな」

 戦闘員Aは毅然とした態度で戦闘員の冷めた口調に引っ張られずに言葉を返す。

「誰が選ばれて、組織のために生きるというのは変わらない」

 戦闘員のどうでもよさそうな態度は戦闘員Aの客観的な事実を聞いても変化はない。戦闘員Aを含む他の戦闘員が進化を待ち望んでいる状況だからこそ、この戦闘員の女神の選定が早く終わって欲しそうな態度が目立っていなかった。戦闘員Aにはこの戦闘員の態度がどうしても目に入ってしまう。知り合いであるというのは難儀な部分もどうしても見えてしまった。

 戦闘員Aは女神に集中するために戦闘員の仕草を頭から取り払う。女神がどんな理由で戦闘員を選ぶのか分からないならば今の精神状態が重要になるのかもしれない。戦闘員たちの中では女神に選ばれる様々な方法がまことしやかに囁かれていた。戦闘員Aも戦闘員たちに噂されている行動をいくつか実践していた。女神に選ばれるために。

 空間の光景の推移はさらに目まぐるしくなり、もはや風景を一つのものとして肉眼で捉えることは出来ない。女神のよる奇跡がこれまでと同じように訪れようとしていた。戦闘員Aは戦闘員ではない存在になれることを強く祈る。戦闘員でないならば過酷な僻地にしか適応できない存在になっても構わない。強化兵程度の存在でも構わない。

 戦闘員Aは女神の姿を見上げる。女神の姿はいつも同じではなく女神の奇跡が起きるたびに形質が変わっていた。戦闘員Aは思う。女神も女神自身の進化を渇望しているのだろうか。女神も女神自身が変わらなければならないと思っているのだろうか。女神が姿を変え続ける理由は何なのだろうか。戦闘員Aが理解しているのは一つだけ、女神が戦闘員は進化させるということだけだった。


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