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アンパンでミミック


暑い。

寝苦しさで目を覚ます。


汗が凄い。

何か胸騒ぎがする。


バチバチと焚き火の薪木が爆ぜるような音。

火事だ。

バックパックを背負って窓から脱出しよう。


しかし窓を開けると階下では沢山のヒトガダが新鮮な人肉を求めて蠢いていて。

一体、どうやって逃げ出せば良いのだろう?


そもそもこの建物は一体何処にある誰のものなのかも定かでは無い。

ここに来るまでの記憶が思い出せない。


日記だ、確か日記を書いていたはずだ。

バックパックの中から大学ノートを取り出す。


一日一ページ、そんなマイルールだったはずだ。

今じゃ2札目の37ページ目。


この生活が始まった一ページ目では、まだ余裕ありげに流麗な文字で起きた出来事が綴られている。


一日目−−どうやら世界中で不特定多数の人間が異常行動を起こして暴れているらしい。ホラー映画で見るようなおぞましい姿をしたヒトガダが無作為に暴れて襲いかかってくる。この世の終わりだ。海の外からこの国に逃れてきた人達の中に感染者がいてヒトガダが爆発的に増えている。まともな日常が過ごせなくなる日もそう遠くないのだろうと思った。だから今のうちに物資をかき集めておこう。人がいない山奥にでも拠点を構えて世界の終わりに最後まで抗ってやる。


二日目−− 物資の調達中に早速ヤツラに襲われた。慎重を期して行動していたつもりがまだ用心が足りなかったのだろう。ヤツラを持っていた鉄パイプで動かなくなるまで殴り倒した。ははっ!どうだやったぞ!人の姿をした化け物め!仮にも元人間だったヤツラを始末するのは心が痛むかと思いきや拍子抜けするほどなんの気概もなく倒すことができた。どうやらここは現在進行形で感染の真っ只中だったらしく周囲では追うものと追われるもので大混乱している様子。何体かのヒトガダがこちらをマークしていたので慌てて荷物を持ち直してその場を後にした。道中で何体か倒したらラッキーなことに拳銃を手に入れたので秘密兵器としてこれからは常時装備しておこう。通常兵器のパイプは既に使い物にならなくなっている。使い勝手も悪かったし上手い手を考えなくては。



三日目は拠点を探して乗り捨てられていた車を使い田舎の山奥を散策。空き家を見つけたので荷物を詰め込み寝泊まりができるように掃除や必要な家具などを自分好みに配置した以外は特に変わった様子はなく平和な一日だったようだ。


四日目は偵察用のバイクを手に入れて、調達用に使ういくつかの仮拠点を構築したり、細々とした物資の調達用を行った。ヒトガダの姿は見かけず何事も無くその日を終えた。



それから七日目ぐらいまでは物資の調達に明け暮れて成果を書き残していた。

八日目は集めた物資の情報を集計して、向こう先ニヶ月は山奥の拠点から動かなくても良いだろうと行動計画を立てて引き篭もる算段をつけたようだ。


そして、二十日目を迎えるまでずっと、DVDや本を読んだりしてダラダラと怠惰な日常を過ごしていたことが記録されている。


この後からだろう。だんだんと日記に余裕が見られなくなったのは。


翌、二十一日目は何体かのヒトガダを拠点近くで確認して、さらに翌日、二十二日目についに居場所を嗅ぎつけられたので仕掛けた罠で誘き寄せて入り込んだヒトガダを始末。

二十三日目に同様の罠で前日よりも多くのヒトガダを排除。しかしその際に右足のふくらはぎに裂傷を負ってしまった。狭い人家の一室に詰め込んだヒトガダの後始末を断念して拠点を放棄することを決定。痛む足を引きずりながらワンボックスに全ての物資を詰め込むと林道伝いに隣町に向かい新たな拠点を確保。慌ただしい一日だったようだ。


それから回復を図り暫く安静にしていたのだが、きっかり一週間もしないうちにヒトガダの襲撃を受けて、日記にはその日楽しかったことや残り物資の情報などが抜けるようになっていた。



さて、どうやら今の拠点は8箇所らしい。

残りの物資は判らないが、おそらくバックパックに入っているもので全てだろう。

秘密兵器である拳銃は既に四発使い切っていた。

足の怪我も未だに治っていない。


状況は絶望的だ。

窓から飛び降りて下のヒトガダに喰われるか、背後で扉を蹴破ろうと先程からどつきまわすヒトガダに挑むか。

いずれにしても、助かる見込みは少ないだろう。


そう言えば、先程から抱いているこの女は誰なのだろうか?なぜ貴重な拳銃の弾残り一発をその女に使ってやろうとしているのだろうか?


ああ、思い出した。

病院で薬を集める時に拾ってきた女だったな。

ヒトガダに襲われていて酷く混乱していたから宥めるのに苦労した覚えがある。


そうだ、救ってやった命なんだ。

だったら自由に使っても問題無いだろう。

これまでのように命令すればいい。

入ってくる奴等をその身で足止めして時間を稼いで来いと。

健気な女は、躊躇なくまっすぐに飛び込んできたヒトガダの群れにその身を捧げた。



−− 人質ヲ確保、コレヨリ被疑者身柄ノ拘束ニ移ル。



足が痛い。

薬が切れかけているのか。

だが時間がない。

無事に逃げられるかも判らない。



−− 了解。犯人ハ拳銃ヲ奪ッテイル。充分留意シテ行動ニ入レ。



女がヒトガダに感染した。

あれはいい女だった。

病院にいるような女だったので知識を活かしてもらい足の治療を任せられた。

どこまでも従順な女で可愛いもんだったけど、もう全てが遅すぎた。


ヒトガダが多すぎた。

もう逃げられない。

それでも逃げる、何処までも逃げて最後までこの終末を見届けてやる。

そうだ。もしここを無事に出られたら、今度は無人島にでも行こう。

新しい女を連れて、足の傷を癒しながら、二人でゆっくり愛し合う。

窓から飛び降りれば、そんな夢をずっと見られて気持ちよ













ぼくは、だれなのでしょう?

なにか とても こわい ひとたちに おいかけられて いたきがするんだ。


いやだ、たべられたくない。

ぼくはおかしくない。いつだって れいせい。

でもちょっとぼーっとする。きっとカルシュウムやテツブンが ふそくしてるから。

だから、びじんのかんしゅさん。ぼくはきみのレバーがたべたい。おっぱいをのみたい。



「あなたの刑が明日執行されることになりました。なにか最期に言い残しておくことがあれば言伝ます。また酒やタバコなどの嗜好品が必要なら一つだけ用意しますが?」


「ぼくの、あらたしいにっきちょうを、いっしょにかいてくれませんか?」


「……日記帳ですね、心得ました。いつも使っている大学ノートをお持ちします。それではこれで失礼いたします」



ぼくはきょう、あらたな一ページをスタートさせる。あたらしくできたかのじょといっしょに。







−− 以上が我々取材班が独自のルートで入手した、快楽殺人犯、森崎健太の記録した日記の全貌である。彼は重度の麻薬中毒者で逮捕直後は既に自我が崩壊しており心神喪失者として弁護士は無罪を主張していたが、この記録から分かるように彼が明確な意思を持って無関係な多少を殺害していたことは明白である。彼はあまりにも残酷に人を殺しすぎた。彼が潜伏先として使用していた民家(資料1を参照)では殺害された民家人や警官から切り取られた体の一部が瓶詰めにされて保存されていたことが捜査の結果明らかになっている。その詳細も彼の日記帳に記載されていたが被害者のプライバシー保護と検閲削除のため掲載できない。

彼の死刑執行はその後様々な理由から見送られ、彼は今でも日記帳に記録を続けている。彼の記録では現在、無人島で幸せな毎日を過ごせているようだ。果たして被害者たちの無念が浮かばれる日はくるのだろうか?


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