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宿屋の話

 いつもの宿屋に着き、そのまま入ろうとすると、アレスが何やらごねてきた。


『えー、今日もこの宿に泊まるのー?』


「? ここ数年は毎日ここで泊まってたが?」


『ちょっとー、王様から貰ったものわすれてるでしょ! 宿代なんて払う必要もないのに昨日払ってたし!』


「あ、ああ。確かに貰ったな。ついいつものクセでな」


『とにかく、どこ泊まってもタダなんだからもっといいトコに泊まろうよ! ボクこんなとこやだー!』


 ここ、結構気に入ってるんだけどな。静かで落ち着くし。というか駄々こねんな。何歳だよお前。


『女の子に年を聞くのは、失礼だぞー?』


「うるせぇ」


 心読んでんじゃねぇ。別に聞いてねぇからな?


『はやくはやくー、ほらあっちのピンク色のキラキラした宿とかさ、良さそうじゃん』


 あれは連れ込み宿だ。こいつの感性はとことん性的な方向に偏ってんな。友達できなかったのもそのせいだろ。絶対にそうだ。


『違うもーん、そんなんじゃないから!』


「だから心読むなって!」


 うっとおしい!


「ちっ、しょうがねぇな。じゃあ普通の宿ってのに泊まってみるか」


『えー、もっと高級な宿いこうよ! 最高級だって泊まれるんだからさ!』


 いちいち文句が多いなこのエロ剣は! お前はよく吠える犬か!


「そんな場所落ち着かねぇって。良いから()()()宿に行くぞ」


『はーい』


 俺はアレスのわがままを聞くことにし、安宿を後にしようとする。と、そこで獣人の少女と鉢合わせた。クラリスだ。


「クラリスじゃないか。なんでここに?」


「えと、宿に泊まるお金がなくって、ここに泊まろうとしてたんッス……」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺は安宿の近くにあったそこそこの宿を選んでやってきていた。隣にはクラリスも付いてきている。


「……なんでついてきてんの」


「えと、あの……困ったら頼っていいって」


『可哀想だしいいんじゃないかな? それにあの宿治安悪そうだしこんな可愛いモフりたくなるような女の子1人にしたら、だめだよ!』


 お前に近づけるほうがアブねぇわ。まぁ、確かに言うとおりだと思ったので、そのまま連れて行くことにした。


 俺はカウンターにつくと、受付に話しかけた。すると、受付は一瞬すごく嫌そうな顔をする。だが、例の紋章を見せると、急にかしこまった態度になり、気持ち悪いぐらいに丁寧な対応をしてくれた。正直、気分は悪いが気持ちはわからんでもないのでスルーする。


「部屋はどのような物にいたしましょうか」


 受付がそう聞いてきたので、1人用を2部屋取ろうとする。すると、クラリスが服を引っ張ってきた。


「どうした?」


「1人は怖いから、一緒の部屋はだめで……ッスか?」


 俺が聞くと、クラリスは俯きがちにこんなことを言ってきた。


「いや、それはさすがに…」


『据え膳!? これって据え膳だよね! ソイ君行っちゃえー!』


 アレス、やめろ。しかし、1人は寂しいか……、気持ちはすごくわかる。けどなー、今日が初対面だからどうすっかな?


 と、ちょっと考えてる間に、受付が勝手に処理を済ませてしまった。


「2人部屋ですね、かしこまりました。……これで受付は完了です。では、いい夜を。むふ」


 ちょ、何やってんだてめぇ、むふじゃねぇよ! 


 鍵を渡されたので仕方なく、その部屋に向かった。なんだか成り行きでどんどん事が進んで行ってる気がする。俺は深くため息をついた。


 扉を開けて部屋の中に入ると、真ん中にキングサイズベッドが一つある落ち着いた内装の空間が広がっていった。俺はそのベットに腰掛ける。するとクラリスが隣りにちょこん、と座った。


「……」


 何故か距離が近い。


「……なぁ」


「は、はいっ」


 俺が声を掛けるとクラリスは少しビクッとして返事をした。何故か緊張しているようなので、その理由を聞いてみた。


「そんなに緊張してどうしたんだ。俺はそろそろ寝るぞ」


「いえ、別に緊張してなんかないッス! ね、寝るんですね。わかりました」


 クラリスはそう言うと、服を脱ぎ始めた。


「え、何やってんの!?」


 俺が驚いてそう聞くと、クラリスがキョトン、とした顔で


「その、寝ると言うことはそういうことなのかと。それに、お礼もまだしてないし……ッス」


「いや、服来て!?」


 そういうこと、じゃねぇよ! なに顔赤らめてんの、それに見えそうだから! 服着て!


『おー! やっぱり据え膳じゃーん! ソイ君ほら早く、押し倒して』


 アレスもうるさくなっちゃうから! 服着て!


 俺は慌てて目を逸らして服を着るのを待った。まったく、初対面だぞ? 何考えてんだ。服を着たことを音で確認すると、逸らしていた顔をもとに戻す。


「あの、迷惑だったッスか?」


 彼女は不安げに聞いてくる。


「あー、そういうお礼とかいいから。別に懐が痛んでるわけでもないし。」


 そう言って、彼女の頭をポンポンと、撫でた。


「ふわわ……、はいぃ」


 緊張がほぐれたのか、彼女は肩の力を抜いた。ピンっと立っていた耳もふにゃり、と垂れ下がる。そして、なんだか目がトロンとしていた。


『わぁ、モフモフしてる! ソイ君ずるいよ、ボクもー!』


 変態が何か言っているが気にしないことにして、しばらく彼女の頭を撫でた。一通り撫でると、俺は寝ることにする。


「うお、柔けぇ」


俺はベットに横になると、そのベットの柔らかさに驚いた。いつもは藁の上に寝ていたので、久しぶりのベットの感覚に戸惑う。しかし、やはり気持ちいい。俺は急激にまぶたが重くなって来た。


 俺が寝転がったのを確認すると、彼女も少し離れてベットに横になった。


「じゃあ、おやすみ」


「おやすみなさい……」


 俺が、彼女に声をかけると彼女も挨拶を返してくれた。その返事に満足した俺は、急激に襲ってくる眠気に身を任せ、瞳を閉じた。


『えー、なんで襲わないのー! ソイ君のヘタレー!』



 お前は一言多いわ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 目を開けると、再び昨日の何もない場所にいた。


「おっ、今日も会えたねー。ソイ君ヤッホー」


 アレスもいる。もちろん裸だった。俺は向かってくるアレスに話しかける。


「よう、昨日ぶりだな。さっきまで話してたようなもんだけど」


「ほんとねー。この夢一体なんだろーね?」


 それは気になる。が、俺は彼女に聞きたい事が他にたくさんあった。だから、この現象について考えるのはあとにして、彼女にいろいろ聞いてみることにしたのだった。


「なぁ、昼も聞きたいと思ってたんだけど、あの聖剣はいったいなんなんだ? あまりにも高性能すぎる」


 その質問に、彼女は困ったように頬を掻いて、こう言った。


「ああ、あれね。あれは昔僕が使ってた剣なんだ。もとは聖剣なんかじゃなかったよ」


 え? どういうこと、ちょっと意味がわからない。


「本物の聖剣は、ぶっ壊しちゃった!」



 は?












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