オーク討伐依頼
俺はカロナを必死になだめ、なんとか治めたあと、ギルドの中に入っていた。
「だから、悪かったって」
「……死ね」
「いや、ごめんね? おじさんちょっと疲れてたからさ、ね?」
「喋りかけるな。貴様の粗末な物を切り取るぞ」
「やめて!?」
完全に拗ねてしまっている。てか言うことが物騒過ぎじゃないか? カロナの言葉を聞いた他の冒険者が股間を押さえている。
『わぉ、クールな女騎士ちゃんの拗ねる様子! ギャップMOE☆』
お前は黙ってろ。
それに、先程から反応がなんだか幼い気がする。見た目も随分と若く見えるし、カロナはいったい何歳なのだろうか。
「なぁ、カロナって何歳なんだ? 若く見えるが」
「19だ」
「その年で1級騎士か、本当に優秀なんだな」
「ふん、過剰評価だ。私など、団長の足元にも及ばん」
そう言って俺が褒めると、カロナは表情すら変えず謙遜した。
彼女にとって周りの評価はどうでもいいのだろう。彼女はもっと上を見ていた。
「そんなことより、今後の活動についてだが、まずは貴様、人を殺ったことはあるのか?」
カロナがそう聞いてきた。俺はなぜそんな質問をするのか不思議に思いながらも、答えた。
「そんなこと、もちろんやったことないけど、どういうことだ?」
「ふん、お前には訓練が必要なようだな。魔族の姿を知っているか?」
「いや、しらない。物語では怪物だって聞いたことがあるくらいだ」
「魔族は、我々と同じ、人型であることが多い。怪物と言われるような容姿の魔族はごく一部だ。貴様はそれを躊躇なく殺せるか?」
「……いや、わからない」
俺は、魔物だったら躊躇することなく殺せるだろう。しかし、人型となると殺せる自信がなかった。
「なら、人を殺す訓練をしろ。そうでないと、いざと言うときに選択を間違うことになる」
「でも、どうやってそんな訓練をしろって……」
「貴様、冒険者をやっていたのではなかったのか。使うのは社会から外れた犯罪者共、盗賊だ。ギルドには定期的に依頼が来ているだろう。まさか知らないとはいわないだろうな?」
「い、いや、知ってるよ。忘れてただけだ」
頭からすっぽ抜けていた。確かにギルドには定期的に盗賊討伐依頼が張り出されている。
「ふん、どうだかな」
カロナが少し呆れを含んだような視線を投げかけてくるが、俺はそれを遮るように質問した。都合が悪い時は話を逸らすに限る。
「じゃあ、その盗賊討伐依頼を今から受けるってのか?」
「そういうことだ。さぁ、行くぞ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
というわけで、俺達は依頼受付カウンターへとやってきた。そこで、盗賊討伐の依頼を受領しようとしたのだが、
「えと、申し訳ございませんが、現在そのような依頼は出ておりませんね……」
依頼がなかった。よく考えれば定期的に、だから必ず募集されているとは限らないのだ。それを聞いたカロナはというと、……固まっていた。
「……」
「おい、カロナ?」
「なんでもない」
「ならいいけど、依頼ないのにどうするんだ? まさか、考えててなかったなんてことは……」
「そ、そんなことはないぞ! こんなことは想定済みだ」
なんか顔を赤くして必死に否定してくる。ちょっと間があったような気がするが気にしないでおこう。
「それならどうするんだ? 他に対人の討伐依頼なんてないぞ」
「それは、……これだ」
そう言って彼女が指し示したのは、オークの討伐依頼だった。
なんでオーク? もしかして、人型だからっていう安易な理由じゃないよね。
「おい、なんでオークなんだ」
「理由ならある。オークは人型で、それなりに知能もある。すなわち我々人間のように、道具だって使ってくるということだ。それに、盗賊とオークなんて、さほど本質は変わらん」
「それがオーク依頼を受ける理由とどうつながる?」
「簡単なことだ。倫理的な面では訓練にならないが、戦闘面では充分訓練になるということだ。貴様は対人戦が苦手なのだろう?」
「なるほど」
確かに、俺は対人戦闘というものをほぼやったことがない。いままで精々草原にいる一角兎を狩るくらいだった。昨日だって聖剣の力で勝ったようなものだ。
『おぉいいねぇ! ボクが聖剣の使い方を他にも教えてあげるよ! もっとすごい技あるから!』
アレスもそう言っていたので、そのままオーク依頼を受けることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
依頼を受けた俺達は、オークが集落を作っているという森へやってきていた。
「んー、オークが見当たらねぇな? ここで合ってるよな?」
「ああ、その筈だが……」
集落に着いたのはいいのだが、不思議なことにそこはもぬけの殻だった。だが、焚き火は焚いてあるので、居なくなってからそう時間は経っていないだろう。
そう思い、集落の辺りを探し回るが、何処にも見当たらなかった。
小一時間探し回ったところで休憩を取った。このまま見つからないのに探し続けるのはたまったもんじゃないので、俺はカロナにどうするのかを聞いた。
「うーん、おかしいな。どうするよ?」
「まだ時間はある。もう少し探してみよう」
カロナがそう言ったので探しに戻ろうとしたとき、遠くで悲鳴が聞こえたような気がした。
「今の聞こえたか?」
「ああ、女の悲鳴だな。まさかとは思うが……」
いやあああああああああああああ!
今度は大分近いところで聞こえた。
その音に耳を澄ませていると、地鳴りのような音が聞こえてきた。その音は段々と大きくなっていき、
「オークだめッスぅううううううう! 誰か助けてえええええ!」
銀髪に犬耳の獣人の女の子がこちらに向かってきた。後ろに大量のオークを引き連れて。
「ちっ、まずいことになったぞ! 貴様、早く剣を抜け!」
「あ、ああ」
俺は慌てて聖剣を抜き、臨戦態勢になる。前を見ると?向かってくるオークの数はざっと数えて20体はいた。
どうすんのこれ。