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告白

作者: 黒瀬新吉

「小野寺 海」は高一の占術師、しかも本物だ。俺、今日告白する。

「真嶋 郁」はタイミングを逃し、計画を練り直しそれでもチャレンジし続ける。


この作品は「第三回・文章×絵企画」参加作品です。

晶様のイラストに文章をつけさせていただきました。

http://20410.mitemin.net/i236129/

告白


挿絵(By みてみん)


「やほー」

「なに浮かれてんだ、海」

「海」と言うのは、小野寺 (うみ)のこと、俺と学校が一緒だ。幼馴染で、ちょっと可愛い。


俺、今日こそ告白する。


「何かいい事あったか?」

「うふふ、べーつに」

ンなわけない、海の「べつに」はイエス、長く引っ張るほど、それは超イエスなのだ。

水間高校1年の俺、真嶋 (いく)は帰り途中、海とお好み焼きを食うことにした。「広島焼き」と呼ばれるそれに、エビを追加したものだ。


「ねぇ、郁。あんた、今日きっといいことあるわよ」

女は占いを信じやすい生き物だ。特に若い女子高生は、簡単にマインド・コントロールされてしまう。だが彼女は本物、正真正銘の占術師なのだ。しかし、どんな名医も自身の手術が出来ないのと同じ。彼女が自分を占う事は出来ない。


「あのね郁、あの人号泣するよ」

「はぁ、どっちよ。女?」

隣りの席のカップルをチラリと見て、海が俺にそっと告げた。

「男の方、まあみてなさいよ」

その二人が喧嘩する様子はない、だが海の占いが外れた事は今まで一度も無い。


「あ、来た来た」

「お好み、ソバ、肉、玉、ダブル。エビ入り!」

俺にではなく、隣りの男の注文だった。

「ふーん、郁と同じかぁ。きっと仲良く、二人で半分こするわけね」

「もし海となら『トリプル』でもきかないなぁ」

「ひっどーい、そんな大食いじゃないもん」

まずい、機嫌そこねた……。


仲良く、二人は一枚のお好み焼きをつっつく。海もさっさと目前に置かれた焼きソバをつまんでは口に運ぶ。

そうか!海の占いが外れる→落ち込む→優しくなぐさめる俺→告白。

オッケー、これだ、これ。


そんな俺の計画も知らず、海は、「ダブル」の焼きソバを夢中で食べていた。

俺も少し食べるペースを上げた。


「フーッ、完食。郁、遅っ!」

「最後のプリプリエビで締めるの、お・れ・は」

「ふーん、あの人と同じね」

男がお好み焼きを食べる順番まで海にはわかるのだろうか?

俺はエビのプリプリ感を楽しみながら、お好み焼きを完食した。


突然、男が叫び声をあげた。

謝る女は取り付く島もない。

海、おそるべし……。


店を出た俺の自転車の後ろを海がついてくる。駅までがラストチャンス。占いは海の言う通りだったし、俺が練った作戦は棚上げにするしかない。

俺は海に男が号泣した訳を聞いた。

「郁と同じね、最後に取っていたエビを彼女が食べちゃったのよ」

「……、たったそれだけ?」

「うん、それだけ、なんて小さい男かしら」


うーん、俺は海からどう思われているんだろう?


「海、今日俺にいいことあるって何だ?」

思わせぶりに海はこう答えた。

「あれっ? そんなこと言ったっけなぁ」

「言った、言った、あれって何だよ」

ところが急に海は黙り込んでしまった。


「ダメ、教えない!」

まてよコレって俺の告白が成功するっていう事か?そうか、海が俺を占っていたって訳だ。

「なぁに、キモ。ニタニタしちゃつてさぁ」

「まぁまぁ、オッ、電車の時間には少し早いからどう、缶ジュースなんて?」

「アザース!」


次の計画を俺はすぐ練り直した。


自販機に硬貨投入→ジュースを取りだす海→俺を見上げる→キュンとした海→告白。

ようし、今度は完璧。


駅が近くなってきた、いつもなら俺はここで海と別れ、駅前の道路を渡るのだが……。


「郁、急げ、信号が変わるよっ!」

海が突然駆け出した。

俺は慌てて自転車に飛び乗り、海の背を追う。いつもとは逆に駅に向かう人の背を抜いながら。


結局のところ、計画は失敗した。それはジュースの一本目で当たりが出たからだ。

いい事ってこいつかぁ……、めちゃちっさー。

「ね、いいことあったろ」

海がにっこり微笑んで、俺のコ-ラを渡してくれた。

「まぁいいや、そのうちもっといい事あるだろう、サンキュー、海」


海の乗った電車がしばらくして、立ちこぎする郁に追いつき、すぐに追い越していった。

窓からそれを見ていた海は坊主頭の郁に向けて、こう呟いた。

「ごめん、郁。あんたの運命の人との出逢い、邪魔しちゃって」

海が乗った電車から降りてきた人の中に「郁の自転車とぶつかる少女」がいることを、海は今朝から知っていた。


海は昨夜何度も自分の恋占いをしようとしていたが、やはり、自分のことはわからなかった。


郁の結婚式を覗けば?

残念ながらそこまでの勇気は彼女には無かった。

オキテ破りの海は、その後当分の間「占いが外れっぱなし」という罰を受けたのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 途中のお好み焼きが美味しそうで、読んでいてお腹が鳴っちゃいました(*・・*) 仲の良さそうなふたりの関係がどうなってしまうのか最後までハラハラしっぱなしで、この後どうなったのかも読んでみた…
2017/05/26 22:58 退会済み
管理
[良い点] こんにちわ(=゜ω゜)ノ 素敵な作品ありがとう御座います(´∀`人) 郁君があの手この手で海を振り向かそうと頑張る様はとても初々しく、思わず応援したくなりました(o^^o) 最後の海の台詞…
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