告白
「小野寺 海」は高一の占術師、しかも本物だ。俺、今日告白する。
「真嶋 郁」はタイミングを逃し、計画を練り直しそれでもチャレンジし続ける。
この作品は「第三回・文章×絵企画」参加作品です。
晶様のイラストに文章をつけさせていただきました。
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告白
「やほー」
「なに浮かれてんだ、海」
「海」と言うのは、小野寺 海のこと、俺と学校が一緒だ。幼馴染で、ちょっと可愛い。
俺、今日こそ告白する。
「何かいい事あったか?」
「うふふ、べーつに」
ンなわけない、海の「べつに」はイエス、長く引っ張るほど、それは超イエスなのだ。
水間高校1年の俺、真嶋 郁は帰り途中、海とお好み焼きを食うことにした。「広島焼き」と呼ばれるそれに、エビを追加したものだ。
「ねぇ、郁。あんた、今日きっといいことあるわよ」
女は占いを信じやすい生き物だ。特に若い女子高生は、簡単にマインド・コントロールされてしまう。だが彼女は本物、正真正銘の占術師なのだ。しかし、どんな名医も自身の手術が出来ないのと同じ。彼女が自分を占う事は出来ない。
「あのね郁、あの人号泣するよ」
「はぁ、どっちよ。女?」
隣りの席のカップルをチラリと見て、海が俺にそっと告げた。
「男の方、まあみてなさいよ」
その二人が喧嘩する様子はない、だが海の占いが外れた事は今まで一度も無い。
「あ、来た来た」
「お好み、ソバ、肉、玉、ダブル。エビ入り!」
俺にではなく、隣りの男の注文だった。
「ふーん、郁と同じかぁ。きっと仲良く、二人で半分こするわけね」
「もし海となら『トリプル』でもきかないなぁ」
「ひっどーい、そんな大食いじゃないもん」
まずい、機嫌そこねた……。
仲良く、二人は一枚のお好み焼きをつっつく。海もさっさと目前に置かれた焼きソバをつまんでは口に運ぶ。
そうか!海の占いが外れる→落ち込む→優しくなぐさめる俺→告白。
オッケー、これだ、これ。
そんな俺の計画も知らず、海は、「ダブル」の焼きソバを夢中で食べていた。
俺も少し食べるペースを上げた。
「フーッ、完食。郁、遅っ!」
「最後のプリプリエビで締めるの、お・れ・は」
「ふーん、あの人と同じね」
男がお好み焼きを食べる順番まで海にはわかるのだろうか?
俺はエビのプリプリ感を楽しみながら、お好み焼きを完食した。
突然、男が叫び声をあげた。
謝る女は取り付く島もない。
海、おそるべし……。
店を出た俺の自転車の後ろを海がついてくる。駅までがラストチャンス。占いは海の言う通りだったし、俺が練った作戦は棚上げにするしかない。
俺は海に男が号泣した訳を聞いた。
「郁と同じね、最後に取っていたエビを彼女が食べちゃったのよ」
「……、たったそれだけ?」
「うん、それだけ、なんて小さい男かしら」
うーん、俺は海からどう思われているんだろう?
「海、今日俺にいいことあるって何だ?」
思わせぶりに海はこう答えた。
「あれっ? そんなこと言ったっけなぁ」
「言った、言った、あれって何だよ」
ところが急に海は黙り込んでしまった。
「ダメ、教えない!」
まてよコレって俺の告白が成功するっていう事か?そうか、海が俺を占っていたって訳だ。
「なぁに、キモ。ニタニタしちゃつてさぁ」
「まぁまぁ、オッ、電車の時間には少し早いからどう、缶ジュースなんて?」
「アザース!」
次の計画を俺はすぐ練り直した。
自販機に硬貨投入→ジュースを取りだす海→俺を見上げる→キュンとした海→告白。
ようし、今度は完璧。
駅が近くなってきた、いつもなら俺はここで海と別れ、駅前の道路を渡るのだが……。
「郁、急げ、信号が変わるよっ!」
海が突然駆け出した。
俺は慌てて自転車に飛び乗り、海の背を追う。いつもとは逆に駅に向かう人の背を抜いながら。
結局のところ、計画は失敗した。それはジュースの一本目で当たりが出たからだ。
いい事ってこいつかぁ……、めちゃちっさー。
「ね、いいことあったろ」
海がにっこり微笑んで、俺のコ-ラを渡してくれた。
「まぁいいや、そのうちもっといい事あるだろう、サンキュー、海」
海の乗った電車がしばらくして、立ちこぎする郁に追いつき、すぐに追い越していった。
窓からそれを見ていた海は坊主頭の郁に向けて、こう呟いた。
「ごめん、郁。あんたの運命の人との出逢い、邪魔しちゃって」
海が乗った電車から降りてきた人の中に「郁の自転車とぶつかる少女」がいることを、海は今朝から知っていた。
海は昨夜何度も自分の恋占いをしようとしていたが、やはり、自分のことはわからなかった。
郁の結婚式を覗けば?
残念ながらそこまでの勇気は彼女には無かった。
オキテ破りの海は、その後当分の間「占いが外れっぱなし」という罰を受けたのでした。