身体だけでなく心まで
連載始めたばかりなのに、明日はちょっと更新できないです……申し訳ない。
「あ、朝はその、鐘の音が鳴ってから着替えて、食堂に向かえば良いから……」
制服に着替えたルームメイトに案内されるように、俺は階段を降り、一階に辿り着いてから長い廊下を歩いて行く。
彼女のその説明が正しいと証明するかのように、何人か同じ制服を来た女子が同じ方向へと向かっている。
……にしても、だ。
ここが学校の寮だとは予測できていたが、まさかその学校が騎士を育てるためのものだとは思いもしなかった。本当、出来れば明日には元の身体に戻っていて欲しい。
でなければ、訓練とはいえ誰かと戦うことになってしまう。今日はサボるから良いが、戻れなければ戦いなんていう怖くて痛い目に遭ってしまう。それだけは避けたい。
その辺にいる運動神経中の下レベルの戦い慣れてないどころか身体を動かし慣れてない男子中学生に、一体何が出来るというのか。
リフィア(この身体の持ち主)の運動神経がいくら良かろうと、その身体を扱うのが俺である以上、満足に動かせるはずがない。運転免許を持っていないのに車を動かすようなものだ。
異世界に来たがっていたり、現実世界に嫌気が差している人なら、この状況を喜んで受け入れるのだろう。が、生憎と俺はそういった類の人間ではない。
物語として読むのは好きだが、自分で体験するのは怖い。至って普通の感性だと思う。
自分が体験できないことを読んで、妄想したり空想したりする。その楽しさだけで俺としては満足だ。
……まあそうは言っても、実際に体験できないことを体験すると興奮してしまうのだが。
最早これは好奇心という名の「人間の性」だろう。
「そ、それで、食堂は、男女共同で、結構広くて……騎士学校は四年制なんだけど、学年が低いほど、早い時間に来ないといけなくて……」
思いつく限りの説明しなければという脅迫概念に迫られているかのように、次々と話してくれる。
彼女が着替えている間も色々と聞いていたのが、逆に彼女の不安を刺激してしまったのかもしれない。
まあ、実質「記憶喪失」と変わらないぐらい質問攻めしてしまったからな……この身体の持ち主を慕っている彼女としては、話すことで思い出してくれるかもと考えるのは当然だと言えた。
マリン・ジレット。
それがこのルームメイトの名前だった。
肩甲骨まで伸びた後ろ髪と、目元を隠すように伸びた長い前髪。
そこからチラチラと覗き見える目元から、とても可愛らしい丸い瞳をしていることが分かる。
黒い肌を長袖で隠し、手を体の前でモジモジとさせていることが多い、胸の大きな女の子。
……そう、巨乳だ。
この身体の持ち主のペタンとは真逆の、希望が詰まった大きな膨らみだ。
分かる? それで手を体の前にだよ? となると、腕が胸を挟むように強調されてそれはもう興奮…………しないんだよなぁ……。
なんせ俺は、この学校がどういったものかを聞いている間ずっと、マリンの着替えを見ていたのだ。
恥ずかしがって、焼けたように黒い肌付きをした頬を朱く染めながら服を脱ぎ、下着姿だけになり、その上から制服を着ていく彼女を、ずっと。
それなのに、興奮しなかった。
まるで心が動かされなかった。
巨乳も貧乳もおっぱいなら好きな俺が微塵も、だ。
おそらくコレは、付いていたはずの棒が無くなったから……ではない。
きっと、この身体の持ち主たるリフィアが、女性に興奮するような女性じゃなかったからだ。
だから俺の心も動かされなかった。
身体だけかと思いきや、心まで元の持ち主のままだった。
もし心まで俺の物になっていれば、棒が無くても興奮を覚えるぐらいはしていたはずなのだから。
……にしても、話を聞いて知ったのだが、この身体の持ち主もマリンも、俺と一年しか変わらない十四~十五歳ばかり。
それなのに背は俺の世界の女子よりも高いし、胸だって大きい。
俺の世界で、栄養あるものを食べるようになって胸が大きい子が増えてきた、なんて話を聞いたがことがあったが、果たしてそれは本当なのかどうかを疑いたくなる。
そんなレベルで成長率が良い。
「わたし達は、三年生だから、この時間だけど……一年生だと、もっと早くて……」
「もっと早いの!?」
俺が起きた鐘の音の時ですら、ひと目で朝だと分かるぐらいには早かったのに……。
「それってつまり、日の出前にはってこと?」
「そ、そう。というか、リフィアさんも、一昨年はやってたことだから」
「……思い出せないな~……」
誤魔化すための俺の言葉に、マリンが不安げな目を向けてくる。優しい子だ。
「ほ、本当に大丈夫なの? やっぱり学校を出て病院に連れて行ってもらったほうが……」
「大丈夫大丈夫。ま、今日は一応、授業を休ませてもらうつもりだけど――って、その場合はどうしたら良いの?」
「えと、自分の階の――わたし達の場合は三階の、寮長か先生に言えば良いから……」
なんて説明を受けている間にも、段々と近づいていた喧騒へと辿り着いた。