異性に変わったならば、まずやるべきこと
文章量が予定の原稿用紙三枚分より多いのは、まだ始まったばかりだからです。
戦闘シーンに入る頃には予定通りの枚数になるかと思います。
ただの異世界召喚ものかと思ったら、異世界人との入れ替わりものだったでござる。
要はそういうことだろう。
……とはいえさすがに、まさか女の人と入れ替わるだなんて……思いもしなかった。
「……ふむ……」
制服に着替えた自分を見下ろして、何となくスカートの裾を片手で持って広げてみる。
動きやすくするためなのかかなり短く、太ももが顕になっていて心許ない。
この身体の持ち主も同じ気持ちで恥ずかしかったのか、一緒にスパッツが掛かっていたのでソレを履かせてもらった。太もも半ばまで長さがあるせいで少しだけスカートの外に出てしまっているが、こればかりは仕方がない。
それにしても……制服を着ると本当に胸が目立たないな……。
いや、もちろん着替えたのだから正確な大きさは知っているし、普通に触りもしたのだけれど……。
いやだって!
こちとら思春期な中学二年生だし!
興味あるんだから触って当たり前じゃん!
……って、誰に言い訳してるんだ、俺は……。
ただこの後に言っても説得力なんて皆無だろうが、全く興奮しなかった。
……いやホント言い訳にしか聞こえないけどね! 照れ隠ししやがってマセガキがとか思われるんだろうけどねっ!
でもマジで! 今は自分の身体なせいなのか、揉んでも「ああ、胸ってこんな柔らかさなんだ……」っていう感想しか抱かなかったんだって!
そこから勃つこと無かった――って今は実物が無いんだけど……って、あ! そのせいで興奮しなかったのか……!?
「…………」
そういえば……下はイジらなかったな……あるものが無くなって身体に穴が開いてるっていうのに……。
なんというか、胸を触った感動もなく、それがとっくに当たり前だと思っていた自分がいたことが怖いんだけど……。
…………。
……今、改めてイジってみる……?
「…………」
いやいやそれはさすがに……。
……いやでも……。
――と
カランカランカラン……!
「っ!!」
遠くから響いてきた乾いた鐘の音でビクリと身体が震え、その考えが一気に吹き飛んだ。
……いや、惜しいとか微塵も思ってないよ? そもそも元の身体ですら同じ箇所をイジったことがない奴がいきなり異性のなんて――
「ってバカっ!」
とか、そんな感じで一人ツッコミを終えたタイミングを見計らったかのように、ドアがノックされた。
「はい」
着替えている途中から誰かがいる気がしていたが、どうやら当たりだったのだろう。
「し、失礼します……」
オドオドビクビクとしながら入ってきた女の子のその態度を見ると、さっきの一人ツッコミを聞かれてしまったようだ。
いや、牽制する意味も込めて聞かせたから良いんだけどね? ……何に対しての牽制なのか、自分でも分からないけど。
「リ、リフィアさん……その、そろそろ食堂に行かないといけないから、わたしも制服に着替えて良いかな……?」
「誰?」
「ぐふっ……!」
俺の言葉に何故かダメージを受けていた。
……………………ってああ、そうか! この身体の持ち主の友達か誰かか!
「ご、ごめんなさい……」
「良い! 良いのっ!」
まさか「中身が入れ替わっている」なんて説明しても分かってもらえないだろうからと、どう言ったら良いのか戸惑っている間に、目の前の女性が両手を前に突き出して私の言葉を止める。
「リフィアさん、その……昨日は、色々と大変だったみたいだから……わたしみたいにうろちょろしてるだけのルームメイトのことなんて気にしてもいられないし、むしろこうして話してもらっただけ良かったって思わないといけないよね、うん!」
なるほど……この子がルームメイトか。
というか、制服に着替えに部屋を訪れた段階で察するべきだった。
……にしても、いやにネガティブな子だな……。
「っていうか、昨日?」
「あの、リフィアさんが、魔物を倒したって……それで昨日、ここに運び込まれたから……」
「魔物……」
これは……使えるぞ。
「実はその、そのせいでちょっと、記憶が混乱してて……」
「えっ? その、大丈夫、なん……ですか?」
「あんまり周りに広めてほしくないんだけど……自分の名前以外、記憶があやふやで……」
「えぇっ!?」
「そこで、友達のあなたに色々と――」
「友達っ!?!?!?」
俺の言葉に再び声を荒げる。
しかし今度は、喜びで、だ。
「わ、わたしと、リフィアさんが、友達っ!?」
「う、うん……ルームメイトだから……違った?」
「ち、違わな――ぁぁああ! 違うんですっ!」
一度肯定しかけ、けれども正直者な性分が出たのか、否定を返してきた。
「わたしはただ、リフィアさんと仲良くなりたがってるだけの、その辺にいる一般人というか……!」
「それって……何か理由でもあるの?」
「り、理由……?」
「友達にならない理由とか?」
「さ、さすがにわたしじゃあ……その、リフィアさん自身が、話してくれたこともないし……」
ふむ……ということは、何か制度的なものが障害になってるって訳じゃないのか……。
「ただいつもは、その……わたしが話しかけても無視するか一瞥して立ち去るとか、そんな会話らしい会話もしたこと無いから……こうして話せてるだけでも、ちょっとうれしい」
……リフィア(この身体の持ち主)は無愛想な子だったのか、それともこの子に対してだけ酷い子だったのか……。
う~ん……その辺のことは分からないけど、やっぱりここは――
「――だったらさ、今だけでも友達にならない?」
「えっ……?」
「いや、ムシの良い話をしてるのは確かなんだけど、やっぱり今何も思い出せない状況で友達じゃないってのはさ……」
明日にはリフィアにこの身体が戻る可能性がある以上、俺自身が新たに広げる人間関係は極力少ないほうが良い。
その上なんの情報も無しに今日一日を過ごすには無理がある。
記憶が混乱しているということにしたのも、明日元に戻っても言い訳としては成り立つからというのもある。
元の持ち主が今どう生活しているのかは分からないが――物語なら俺の身体に入っていることになるが確認の取りようもないし――それでも、この身体にちゃんと本人が戻ったなら、何とかしてくれるだろう。
というか、元の戻った段階で俺の取れる責任なんて皆無に等しい。
とはいえ、好き勝手に振る舞うのは違う気もする。
だから元の交友関係に固執するよりかは、数人新しく作ってそれでおしまいの方が、色々と対処できるだろう。……きっと。
「い、良いの……ですか?」
「うん。と言う訳で、その無理矢理な敬語っぽいのも禁止で」
そんな打算的な考えもありながら、とりあえず俺は戸惑うルームメイトに向けて、笑顔を浮かべそう答えた。