十四歳の一日目
第一話です。
戦闘はしばらく入らないので、ご注意下さい。
特にコレといった面白いことなんて起きない、平凡な人生を歩むものだと思っていた。
それは、十四歳の誕生日を迎えた今でも変わらない。
勉強は出来る方だが、成績は学年平均より少し上。
運動神経も特別悪くは無いが、エース級の活躍が出来る訳ではない。
人並み外れた知識も無いし、異世界を妄想できる程の空想力だって無い。
人前に出ても流暢に喋れるはずもなく普通に緊張するし、好きになった人への告白すらもウジウジと考えて二の足を踏み続けてしまう。
そんな普通の、どこにでもいる中学生だった。
周りと違うところと言えば、物語ばかりを追いかけていることだろうか。
マンガやラノベなどオタク文化から、ドラマやバラエティなどテレビ文化、果ては落語や漫才など舞台上の文化。そういった、物語が絡むもの全てが大好きなことだろう。
……とは言っても、それすらもまた高校生になれば、もっとすごい人がいるだろうと思えるレベルでしか無い。
だからこんな、誕生日が明けた次の日の朝、いきなり見知らぬ天井があるなんて出来事、俺には一生、訪れないものだと思っていた。
「……知らない天井だ」
なんて、一度しか元ネタを見たことがない言葉を呟き、動揺したまま上体を起こす。
知らない天井……だからと言って、真っ白な、病室のような天井ですら無い。だからきっと、ここでさっきのような言葉を呟くこと自体が誤りだった。
そもそも、コンクリートとかよく分からない素材で出来た部屋じゃない。小学校や中学校の床みたいな、長方形の木を規則的に並べたようなもので囲まれている。
なんというか……古臭い。
おそらくは電気の類が見当たらないからだろう。
そのせいなのか、ちょっと部屋全体が薄暗い。
小さな窓から入ってくる陽の光だけでこの部屋の明かりを全て賄っているのだから当然だ。……あんな小さな小窓みたいなのでここまで部屋を明るくしているのだから、それなりの光量はあるのだろうけど。
……なんか、燭台のようなものが部屋の隅にあるが、蝋燭は見当たらない。支給されたりするのだろうか? それともこの部屋のどこかにそういったものが……。
……まあ、今は必要ないから良いか。
入ってくる日光の明るさからして早朝……だろうか。あくまで“夕陽”という概念があるのなら、だけど。時計も何も無いから分からない。鐘のようなものが鳴ってる訳でもないし……今自分がどういった状況に置かれているのか全く分からない。
ただまあ、牢屋の類ではないだろう。
目が覚めたら犯罪者、ではないだけで、少しだけ安堵した。
というか……どことなく、学校の寮のような印象を受ける。実物は見たことがないが、物語の中で見たり空想したりするものは、正にこんな感じだった。
二つのベッドに二つの机。二つのクローゼットに一つのトビラ。
部屋自体が少し手狭なのにこれだけの荷物があるせいで余計に狭い印象を受けるが、あくまで「勉強に不要なものは排除した」結果こうなっているように思う。
勉強がそれなりに好きなだけに、この辺のことだけは敏感だ。
……というか、二つ……?
「俺以外にも、この部屋に住んでる人がいる……?」
ルームメイト……かな……?
……ふむ……。
「とりあえず、色々と漁ってみるか」
と決めたところで立ち上がり、近くにあるクローゼットを開ける。
「………………………………ほほ~……」
俺の肩幅ぐらいしかない持ち運び式のクローゼット。タンスの方が収納率があるのに勿体無いなぁ、とか思っていたが、中を開けてみれば服らしい服なんて全く無く、シャツのようなものがキレイに畳まれ下に置かれているのがほとんどだ。
これなら収納力があっても宝の持ち腐れになるだろう。
そんな中で唯一、ハンガーと思われるものに掛けられた一式の服装が、真っ先に目に留まった。
それを見て本能的に、ここはやっぱり寮で、おそらく自分は学生なのだろうと言うことが分かる。
それ程までにその掛けられていた服が、制服制服しているのだ。
「というか、マンガとかで見る感じ過ぎるんだけど……」
もしかしてこれは自分の夢で、マンガで見た様々な制服を組み合わせ、それっぽいのがここにあるだけなのかもしれない。
部屋の造りやこのクローゼットの感じからして、どうも中世時代っぽい。
それなのにこの制服や下に畳まれている服だけは、どうも物語の中で見てきたものと同じなのだ。……いや、それを言い出したら部屋の造りとかも結局は資料で見たことがあるだけで、実際の中世時代をこの目で直接なんて見たこと無いんだし。
だから俺の頭の中にインプットされた情報からそれっぽいのを夢として形にしている可能性は大いにある。
若草色の二重ボタンのブレザー、中に着るシャツやスカートなど、沢山揃った場合の統一感を想定しているデザインをして――
「……………………………………………………………………………………スカート?」
はて……?
……数秒、じっくりと、その制服を見た後……。
「……ふむ……」
と、意味のない呟きが口から漏れ出る。
……言うまでもなく、俺は男だ。
しかし……しかしだ。
鏡がないこの部屋で、自分の容姿は確認できないものの……今更ながら、自分の身体を見るために下を向いてみると……。
「……う~ん……」
胸のあたりに、僅かながらも確かに膨らみがあった。
「…………はは~……」
いつも朝元気になっている場所を触ってみると、あるべきものがなかった。
というか今更ながら、自分の服装がいつものパジャマじゃないことに気付いた。
ワンピースのような上下一体の肌触りが良い服。記憶の中での俺の服は、外に着ていけない襟元がくたびれた半袖にジャージの長ズボンだったはずだ。
「……………………うん、女だね、こりゃ」
さっきから続いている独り言はもしかしたら、コレに気付いていた俺の本能が違和感を告げてくれていた結果だったのかもしれないと、今更ながらに頭の片隅で思った。