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3  夢の始まり

 ちょっと力みすぎた、少し燃やすだけでここまでやるつもりは、などと言い訳をいう放火犯をしばらく俺は無視していた。無視というよりは呆然としていたのほうが正しいが・・・



 真っ白になっていた頭に目の前の情報が入り込んでくる



 あの女がしたのはなんだ?!少女が襲いかかるゴブリンの大群を丸腰で撃退する方法など、存在しない!どうやって炎を生み出した?!

 様々な疑問があふれ出る。そして、あふれ出る疑問の中からふとあることを思いついた。丸腰の少女がゴブリンたちを打ち倒す唯一の方法を、俺自身がそうであるのに。

 



「お前もしかして、<祝福>をうけているのか?」



 俺は女に問いかけた。意識しないようにしているが声が震える。なぜ震えるのかはわからない。さっき力を見せつけられたからだろうか、それとも自分と同じ状態の人間に初めてあえた嬉しさからだろうか。



「しゅくふく・・?なにそれ?」



 求めていた答えではなかったが、予想の範囲内だった。俺の住んでいた国で女の服のデザインはみたこともないものだったし、近隣諸国でこのような服が好まれていることも聞いたことがなかった。つまり女は俺の住んでいた国とは全く交流のない国の旅人で、祝福という言葉の意味がわかっていない可能性が高い。




「祝福というのは、鍛錬などで習得できるものでなく、生まれつき備わっている超常の力だ。ごく限られた人間しかもっていなくて、一つしか持てない」

「あっ、そうなんだ、じゃあ違うかな」




 ・・・なにを言っているんだこいつは?冗談で言ってるのだろうが、こっちは真剣に教えてやったのだ、ちゃんと答えるのが筋というものだ。

 だが悲惨な状況を救ってくれた借りがある、ここで怒るのも筋が違うというものだろう。



「冗談はよせ、じゃあ何か?お前が今ゴブリンどもを燃やしたそれは魔法ってことか?」



 怒りをおさえ、軽く諫める、話しやすいように冗談もつけってやった。我ながら自分の人のよさに驚く。



「そうよ、当たり前でしょ?それに今も使っているじゃない、翻訳の魔法」



 衝撃が全身をおそった、全身がこわばる。

 なぜ今まで俺は気づかなかったんだ?さっき俺はこいつが俺の住んでいた国と交流のない遠く国からきた旅人だと仮定した、その仮定は今も揺るがないことだろう、だがここで気づくことがある。



 どうして俺はこいつと話せるんだ?



 交流がないほど遠く離れた国どうしの人間が同じ言語を使っている可能性は限りなくゼロに近いだろう。つまり、この女は炎を操る能力のほかに、言語を操る能力も持っているのだ。

 祝福の可能性はもうない。なぜなら、祝福は一人一つしかもてないからだ、炎を操る能力と言語を翻訳する能力を両方もつことなど不可能である。

 ということは、この女が言う通り・・・



「本当に魔法なのか・・・」

「だからそういってるじゃない、それにこのくらいならあんたも使えるでしょ?」

「なるほど、お前の国では魔法は当然のものなのか・・・ここら一帯の国は魔法なんてつかわれていないし魔法なんて物語だけだと考えられてる」

「はぁ?!じゃあ、もしかして?あんた魔法が使えないの?」

「あぁそうだ、使ったことなどないし初めて見る」

 


 女は驚いた表情をしたが、すぐに喜びの表情に変わる



「やった!それじゃあ異世界転移魔法は成功したんだ!」



「異世界転移?」



 女のさらなる予想外の発言に思わず声がでる。



「そうよ!私はあんたの住んでいるこの世界の住民じゃないの!私は」



荒れている息を整え、女は目一杯息を吸い込みこう叫んだ



「魔法の存在する世界からやってきた!」



 もうわけがわからない。目の前の女は存在しない魔法をつかえる。そのことは十分俺の頭を混乱させる

なのにこいつは、この世界の住人でなく異世界からきた異世界人だという。

 嘘だと思いたい自分がいるが、もはや魔法が存在するという時点で疑うことができない事実である、もはや魔法だけでなく異世界転移してきたことも認めた方が楽になるだろう。



 では、存在を認めたのなら次にすることはなんだ?いつまでも頭を悩ませるのは愚の骨頂である。物事は早く適切にこなすのが成功への近道なのだから。



 答えは簡単である。利用するのだ。



「その翻訳の魔法は人間以外・・・そこにいるゴブリンどもにも使えるのか?」


「もちろん、つかえるわ!知能が一定以上ある生きた動物なら可能よ!」



 女が俺の体に手を付け何かを唱え始める。詠唱中は何も感じなかったが。唱え終わるとある変化に気づいた。



「オイ、ソロソロ、逃ゲナイトヤバクナイカ?」「バカヤロウ!逃ゲタッテ、殺サレルダケダ!」



 ゴブリンたちの声が聞こえるのだ!長年ゴブリンとのコミュニケーションは不可能といわれていた。しかし今この瞬間にその常識は覆されたのである!


「どう?声聞こえる?」


「あぁ!すごいぞこれは!素晴らしすぎる!」


「そうでしょ!これが私のちからよ」



 自慢気に女が語るが、一切俺の耳には入ってこなかった。

 本来奇跡というのは偶然起こるものなのだ。だが魔法は奇跡そのものだ。魔法を使う人間にとって奇跡は起こるのをまつものではなくなった。奇跡は起こすものへと変わったのだ。



「なぁ、すまないが、縄を解いてくれないか?」



 次の奇跡を起こすのには、今の状態では少し窮屈だ。



「そういえばそうね、悪いことして縛られたわけじゃなさそうだし」

 そうしてやっと俺は自由になれた。長く縛られていた体をほぐし、前へと進む。

 積まれた薪の上にたち、ゴブリンどもを見下ろす。滑稽だった。宴のころの俺を食物として侮る強者の目は、もうそこにはなく、あるのは恐怖と生への渇望しかない弱者の目だけだった。

 そして、今からあることをすることで強者と弱者から支配するものから支配されるものへと変わる。



<ゴブリンどもよ、こうべを垂らせ!>

 俺が号令をかけると一斉にゴブリンたちは頭を地につけ、平伏した。

ゴブリンたち自身なにが起こっているのかわからないようだった。


「どういうこと?!あんた魔法が使えないんじゃなかったの?!」

 横にいる女も驚き騒ぎ立てる。何が起こっているのかわかっていない様子だった。

 

「あぁ、これか、これは魔法ではない

 さっき言っていた祝福というものだ、俺は話しかけた人間を操ることができる」


「へぇ、これが・・・でもそんな能力があるなら私の力なんかいらなかったんじゃないの?」


「俺の能力―――――俺は王の威光と呼んでいるが

 俺の言葉を理解できない奴には使えないんだ、大抵のゴブリンは人間の言葉を理解できない、だから王の威光が使えずどうしようもなかったからお前に助けを求めた、だが魔法が俺の能力の壁を取り払い、今こうしてこいつらを操ることができたのさ」


 そう俺の能力には壁があった。それは取り払うことのできない絶対的な壁だと思っていたが、魔法という奇跡の力が壁を取り払い、新たな可能性をうみだした。


 つまり魔法という力を使えば、今までの人間の限界を取り払うことが可能ではないのだろうか?


 

 そうすれば俺の夢、かつて読んでいた物語の英雄たちのような華々しい一生を、俺もおくれるという夢を叶えることが可能ではないだろうか?

 いや、叶えることは絶対にできる。



 男の笑い声が巣内に響き渡った。


 レイン=ゴドンの夢を叶える旅が今ここで始まったのだった。

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