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第七話:赤瓜と黒煙。

 対向車線で真っ赤な液体が弾けて飛び散った。

 昼過ぎ、夕匕と一緒に珍しく街に繰り出した日。新しいゲームが置かれるってんで昼間っから時間を取ってゲーセンに行こうとした矢先のことだった。

 雨が降っていたがその日ぐらいしか動ける日がなくて、傘さしたところで何も変わらないからそんなに気にしてはいなかった。

 どんよりとした雲と影の中、信号待ちをしていると向かい側にクラスメートをみつけて、俺と夕匕は彼に手を振った。向こう側のクラスメートはぼうっとしているせいで、こっちには気が付いていないみたいだった。

 青信号が合図だった。

 酷い音がした。

 確かに近くは騒がしかった、五月蠅かった。でもいつも通りだと思っていたが違ったのだ。

 鉄がひしゃげるような音が目の前を通り過ぎて、そのまま向こう岸に立っていた何かを巻き込んで電柱にぶつかった。急な音で耳をふさいで、思わずなんだと周囲を見る。目線の先に引いたのは鉄塊……大型トラックだった。先端からかけて赤いなにかが付着しているが、それは雨でどんどん流されていって。

 流れた先にあった肉塊は、もうピクリとも動きはしなかった。

 

「──【西羅】!!」


 夕匕が一人先駆けてそれに駆け寄る。俺も一瞬おいて行かれながらも、それに近寄った。靄は見えなかった。それどころではなかった。

 人だった、と認識していいものだったのだろうか。

 そこにはただ真っ赤な液体にまみれ、ところどころから白い棒のようなものが割れて、袋を突き破ったかのような形で露出している。血の通っていた桃色と黄色い塊は文字通り塊のままで、うごめくことなんてなく。頭があったと思しき場所は目も当てられないぐらいにぐちゃぐちゃになっていた。


「なぁ、うそだろ、冗談だろ、なぁ、なぁ、なんで急に、なんでなんでなんで知らないこんな予定知らない、俺何も聞いてない!! 冗談だっていってくれよ! 目開けろよ動いてくれよ!! 西羅!! 西羅ぁ!! せいらぁっ!!」


 それの肉塊の肩のような場所を掴んで、夕匕が叫んでいる。夕匕がそこまで取り乱した姿は初めて見た。

 俺はただ、呆然とその光景を見ているだけだった。

 遠くから音が聞こえてくる、もう雨の音なのか、なんなのか、俺には何もわからなかった。


/


「お前らぁー! 起きろー! ほらチカも鋸鉈も起きる! 起きないなら踏むよ、ヒールで!」

「おはよう諸君、良い朝だな。藤咲、お前も起きろ。踏み抜かれる前に起きろ」


 物騒なモーニングコールで慌てて俺は飛び起きた。ヒールで踏まれるのは流石にいたいし、前にも踏まれた痛みはトラウマ級だ。

 まるで針金でも刺さったかのような勢いで身を起こせば、不機嫌気味なオルガと平然な顔を取り繕って冷や汗駄々流しにしている安藤の姿が目に入った。

 まだテントの先は薄暗いがこっちに来て、旅という形になってからはほぼ太陽が起きるよりも前に行動開始、というのが身に染みつき始めていた。

 あの腐椿の日から数日、旅は順調だった。

 中立国アプリカントを目指し、街道を辿って北上する。単純な道筋とうってかわって道中には魔物という化け物も襲い掛かってきたりする、最初は守ってばかりだったが旅が始まって二日辺りから俺も剣術を練習するようになった、どうにもありがたいことに普通に生きていたときよりも体力が増えているようで旅に支障は出ない程度に体は頑丈になっているらしかった。これが勇者としての力なのか、あの自称神様が仕組んだことなのかは分からないがありがたい話である。

 さて、朝のわたわたした時間も過ぎ去って太陽が姿を表す時間。

 今日も草原を行く。


「やっぱり、気が遠くなりそうなぐらい広いなぁ……」

 

 燃える緑と柔らかな風は滑らかな丘を優しくなでるように吹き抜けていく、地平すら見えるような錯覚に陥る風呼び草原というこの場所は魔物の姿こそ見えるがその魔物はどれもこれも羊だったり、鶏だったり、生物的な姿をしているおかげもあって危険とは程遠いのどかな光景に包まれていた。

 現実からあまりにもかけ離れた世界は歩くのにも本当に頭がくらっとくるぐらいには美しく、そして雄大だった。


「この世界、こういうところばかりなのか?」

「超常的という意味ならそうなるが、そのうち飽きるだろうさ、私はもう飽きた」

「鋸鉈は旅をしなさすぎなんだよ。チカは冒険心がわかりそうな素質があるし、これからもすごい光景が見えるだろうから楽しみにしてるといいよ!」

「うん、期待して歩くよ」

「いい心掛けだね、さぁ今日もキリキリあるくよ!」


 先行して歩くオルガの隣を歩く、いつの間にか名前呼びに変わっていたりしたが悪い気はしなかった。オルガから見える感情の靄はきれいなオレンジと桜色をしていたのだ、それだけではないだろうがきっとこの人はいい人なのだろう。

 一方安藤は一歩後ろからついてくる、背後から殴りかかってくる気の荒い魔物は安藤が殆ど蚊でも叩くように倒してしまうので、意識はしていなかったがやっぱり安藤はこちらの世界になじみきっている人だったんだと思う。

 草原に敷かれた道は道というよりも、人が歩いて行ったから草がはけきってしまったといったような道で、むき出しの地面をひとの足が踏み固めたものだった。

 それなりに大きな街道なこともあってたまに旅商人だったり、冒険者だったりがすれ違うこともある。通りすがりは大抵気さくな人で同じく通りすがりになる俺たちに声をかけて、世間話をしたり情報交換をしたりもした。知らない人と気楽に話すのが普通な場所らしかった。


「ところで気になってたんだけど」

「何かな」

「たまに倒れてる鉄塔みたいなやつ、あれは何なんだ?」


 草原の所々には崩れて倒れた白い鉄塔のようなものが転がっている、たまにその近くを通るが近くで見ると案外巨大で不気味でもあった。

 

「あぁ、あれね。えーと……なんだったっけ……」

「風力発電機の残骸だ。ここがアルファポリス……先端技術の実験場だった頃の名残だな」

「実験場?」

「試験場といったほうが正しいのかもしれないな。この大陸も昔は魔法じゃなくて、電気と油で動いていたからな。この近くにも鉄道が敷かれていたこともあったんだぞ」


 あれはいいものだったと少し得意げに安藤は語る。行動はともかくとして言動は控えめな彼にしては珍しいことだ、よほど好みだったのかもしれない。

 だが、それがなぜ草原になってしまったかは分からないらしい。世の中不思議がいっぱい、その一言に尽きる。


「そういえばちゃんと聞いてなかったんだけど、チカと鋸鉈ってどういう関係なの? チームメンバーって感じでもないよね」

「護衛とその依頼人、ぐらいじゃないか」

「いや、俺に聞かれても」

「ふーん……変な感じ……」


 クラスメートです、とはさすがに言っても説明を付けられないから仕方がない。

 そうこうしているうちに丘を一つ越えそうだ、まだまだ草原が広がっているのだろうか、それとも。


「何かが焼けてる……?」 


 オルガがそうつぶやいた瞬間。

 丘の向こうから、大きな爆発の音と黒煙が青空に立ち上った。

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