ゆうしゃ一行 冒険者ギルドにて……突然の戦闘の後、冒険者カードを更新しました
読んでくれると嬉しいです。
少し長いです。
誤字脱字等ありましたら、指摘お願いします。
ブックマークありがとうございます!
2017/5/4…『セツゲツカ』の説明に別名を付け足しました。
ブックマークをしてくれている方、お久しぶりです。
少し間が空いてしまいましたが、次回も間が空いてしまうかもしれません。ごめんなさい……。
次の日、大地たち三人は冒険者ギルドに来ていた。
ギルドに行く前に、空進は自分の武器を『ハナミザケ』に取りに行くと言っていたため、実際に冒険者ギルドに着いたのは、大地とフロリィだった。
二人が冒険者ギルドに入るのと同時に、ギルド内が静かになり、ロビーにいた冒険者たちの視線が二人に集まった。
「おいおい、なんか弱そうなやつが来たぜ……」
「ああ、あんな装備で冒険者になろうなんて思っているらしいが……」
「私のパーティには入れたくないわね……」
何やらコソコソと、内緒話が聞こえてくる。いや、わざと聞こえるように言っているのだと思うが……。
だが大地はその声に耳を傾けず、迷わず受付の所に……迷ったためフロリィに聞いてから受付に行った。
しかし、受付の前に着くというところで、二人の後ろから声がかかった。
「おい兄ちゃんたち、冒険者になりたいのか?」
いかにも何年間も冒険者をやっていますと言っているような巨大なハンマーを背負った男が、大地たちに話しかけてきた。
「はい。というか、一応は冒険者なのですが、ちゃんとした説明を受けていないので説明を受けに来たんです」
「ほほう……実は最近、魔国から鬼魔王が攻めてくるという噂を聞いたんだが、お前らはそれに立ち向かう覚悟があるか?」
「ありますよ。というか、僕が冒険者になったのも、そういう覚悟をしたからなんです。覚悟をしていなかったら、冒険者になんかなりませんよ」
大地のいた世界は、戦争という言葉には程遠い国があった。大地はその国に住んでいたため、覚悟がどのくらいかは分からない。
「なら、その覚悟を見せてみろ。俺はこのギルドで二番目に強い、カブラ・ダイモンドだ」
「ああ、カブンっていう人の親族ですか?」
「兄貴を知っているのか?なら話は早い。お前ら二人で、俺に覚悟を見せてみろ。大丈夫だ、殺しはしない。おい、受付のねーちゃん!ここの鍛練場、借りてもいいか!?」
「いいですよー。審判はどうしますか?」
「つけてくれ!」
「了解しましたー」
カブラが言った受付の人は、大地たちが先ほど行こうとしていた窓口の女性だった。
「見たところ、お前ら二人でパーティを組むつもりだったんだろうが、特別に組むつもりだったパーティで掛かって来てもいいぜ」
「あ、じゃあもう一人来るんで待っててくれませんか?今、武器屋に武器を取りに行っているんで――」
「ダイチ、待たせたな」
「――来ました」
冒険者ギルドに入ってきたのは、武器を取りに行っていた空進だった。
「いやー、参ったぜ。何せ、金が高くてな。持っていた金全部使っちまったぜ」
空進はいきなりとんでもないことを言い出した。
大地はこめかみに人差し指を当て、無駄だと思いながらも口を開いた。
「……ちなみに、どのくらい使ったんだ?」
大地は聞く。嫌な予感しかしなかったからである。
すると空進は、大地とフロリィにしか聞こえない声で打ち明けた。
「実はだな……金貨九九九枚分の……」
「なんという無駄遣いを……」
「いや、もともと白貨九九九枚分だったんだが……」
「テクナさん……なんというオマケをしてくれたんだ……珍しい物より経営を優先すればよかったのに……」
「と言うわけで、パーティを組むための資金が無いんだわ」
「この馬鹿…………!」
大地は空進を罵倒する。相手が自分より強かろうが何だろうが、罵倒する。というか、どう考えても得した顔をしているところ、お金の大事さが分かっていないように見える。
「じゃあ、僕たちはこの三人でパーティを組むつもりなので……」
「そうか。なら、鍛練場へ行くぞ!」
空進が戻ってきたため、大地はカブラに言った。
カブラは空進たち三人の顔を改めて確認すると、ついて来いと言って、鍛練場へ案内した。
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「ルールはこうだ。戦闘は俺一人対お前ら三人だ。手加減は無しだ。お前らの場合は俺を、俺の場合はお前らを倒すまで終わらない。あとはそうだな……殺す気で掛かってこい。どうだ?」
カブラはルールを審判と三人に提案する。
空進とフロリィは問題無いと言ったが、大地は不安そうだった。
「問題ない、俺が後ろで指示をするから、取りあえずその指示で動いてくれればなんとかなる」
「本当か?」
「ああ。だが、できる限り自分の判断で動いてくれ。フロリィは大地の援護を頼む」
「…………分かった」
空進たち三人は、円くなって作戦会議をしていた。
「カラスはどうするんだ?」
「基本的に俺は指示を出す側だが、危なくなったら援護する。まあ、頑張れ」
空進はそれだけ言うと、大地の背中を物凄く軽く叩いた。≪力封隠の髪留め≫によって力が抑えられているが、それでも全部の力は抑えられていないらしく、軽く叩くだけでも大人に叩かれた時と同じ力が出てしまうのだ。
大地は「痛!」と叫んだが、空進は聞く耳を持たなかった。
「話し合いは終わったか?さて、掛かってこい!」
「念のため、不殺不傷の結界を張っておきます。この結界の中で出来た傷は、結界を出れば完全に治ります。また、この中で殺されてしまっても、一時的な霊体状態になるだけで、完全に死にはしないので、結界を出れば復活することができます。この結界の中でも回復魔法は使えますが、戦っている最中に回復できる人はかなり上級の人だったので、マネしようとしないでください。では…………始め!!」
審判の掛け声とともに、カブラの姿が消えた。大地は右に走った。何か嫌な予感がしたからだ。
大地の予感通り、そこにカブラが現れ、大地がさっきまでいた場所が大きくえぐれた。
カブラはあの移動する時間の中で、自分の武器を抜いたようだ。あの巨大なハンマーはとても重いだろう。だが、カブラのスピードは速い。空進は軽く目で追えているが、大地は全く目で追えていない。フロリィは空進のように軽くではないが、追えているようだ。
大地は自分の剣を抜く暇もなく、自分の直感で動いている。
「(学校では足は速い方だったけど、こんなに速く動けたっけ?)」
大地はカブラの攻撃を避けながら思った。自分が明らかに普段の速さより動きが速いのだ。
実はこれは、大地のスキルの≪俊足≫の効果なのだが、大地は全く気付いていない。
「ちょこまかと!」
カブラは全く攻撃が当たらないことに苛ついていた。
「隙ありっ!!」
「あっ!?」
大地は考え事をしていたため、動きが鈍くなっていた。
「くっ!!」
ガキィッ!!
「なっ!?」
大地は無意識的に剣を抜いた。そして自分の前に構えると、カブラからの一撃を防いだ。
これにはカブラはもちろん、大地自身も驚いていた。
「おおー、やるじゃねえか……」
空進は戦う大地を見て、一人笑っていた。
「…………カラスはいつ援護するの?」
フロリィは空進に聞く。
フロリィは内心、大地の戦い方を見てハラハラしていた。
「フロリィが危なくなったらだ。大地の援護役はフロリィ、君だよ」
「…………え」
空進の言葉に、フロリィは嫌そうな顔をした。恐らく理由は、大地が人間だからだろう。
「…………やるんだったら、カラスの援護がいい……」
「はぁ……フロリィ、パーティ組んだらそういうことも言えなくなってくるぞ?大地のこと、少しは信用したんじゃなかったのか?」
「…………少しだけだよ…………まだボクは……ダイチの援護をできるほど、ダイチのことを信用してない」
空進はフロリィの言葉に再度溜め息をついた。
「ちょ!?カラスとフロリィ!何楽しそうに会話してるんだ!?援護してくれよ!!」
その時、大地から援護してくれコールがきた。
二人が見ると、大地は剣を振り回して、カブラからの攻撃を防いでいた。見ると、左腕が骨折しているのか、変な方向に曲がっていた。
「骨折してるのによく耐えたな!」
「痛いけど我慢しなきゃいけないでしょ!こういう時は!!」
「我慢できるほどの痛みじゃないと思うが、知らん!!」
「ひでえ!!」
大地は額どころか全身に汗をかいている。右手で握っている剣が滑って落ちそうだ。
「フロリィ、援護」
「…………後で頭撫でてくれる?」
「分かった分かった」
「…………約束だよ」
フロリィはそう言うと、大地に援護をするために呪文を唱え始めた。
「…………≪体を支えるモノ、それは鎧。頭を守るモノ、それは兜。足に宿るモノ、それは風の心。風のように軽く、風のように速く、風のように踊れ――風の宴≫」
「(風属性か……しかもこれは上級の魔法だな。風属性と闇属性が得意とは言っていたが、それは本当だったんだな…………あっ)」
空進はフロリィの様子を見ていてあることに気が付いた。
「(やっべ…………フロリィの防具を買ってない…………)」
すっかり忘れていた空進だった。
「うわ!?急に身体が軽くなった!?」
大地は大地で、風属性の付与魔法が掛かったことに気付いていないのか、自分の身に起こったことに驚いている。
「…………カラス、ダイチ全然気づいてない……」
フロリィは空進に不満そうに言う。
「まあ、こっそりする援護なんてそんなもんだ」
空進はそんなフロリィに、苦笑しながら言った。
フロリィは戦っている大地を見る。
大地はカブラと激しい攻防をしていた。
大地の動きは速い。折れた左腕の痛みに耐えながら動いているせいか、剣が上手く振れていない。それは大地が素人だからということもあるが、素人だったら振り下ろされたハンマーを剣で受け止めるなんて芸当は簡単にはできないだろう。
大地は走る。カブラの攻撃を走って躱す。
「それがお前の本気っか!?」
「……っ!!」
カブラは巨大なハンマーを振り下ろしながら、大地に問う。
対する大地は、ハンマーを避けるのに精一杯で返事をする余裕が無い。
「じゃあそろそろ……俺の本気を見せてやる!!」
カブラは足を止め、叫ぶとハンマーを大きく振り上げた。
空進はその時、カブラの言葉にピクリと反応した。
カブラはその体勢のまま、魔法の詠唱を始めた。
「≪風属性付与中級≫、≪これは重き者が天より落ちた時に生み出されたモノ。それは自らの敵に向かった。その者は知らなかった、自らが死んだことを、消えたことを。貴様も消滅するがいい――風の衝撃波!≫」
カブラは風属性をハンマーに付与し、詠唱が終了した直後にハンマーを振り下ろした。
大地は何が起こったのか分からなかった。だが、自分の勘が働きその場を離れた。
だが、大地はカブラが攻撃してから動いたため、自分の両足が消えた。いや、ひざから下が切断された。
「え……?」
大地は自分の足が無くなったことを見て、初めは何が起こったか分からなかった。しかし、痛みというものは後からやってくるものだ。
「あ、ぎ……ぎゃぁぁぁああああああ!!??」
大地は転げまわった。ひざから下が無いのだから、走ることも避けることもできない。
「お前の覚悟はそんなものか。正直がっかりしたぞ……だが、勝負はこれで終わりじゃあない。ルールは殺すつもりでやることだ。残念ながら、お前はここで終わりだ。楽に殺してやるよ」
大地は涙目でカブラを見た。自分の足からは血がドバドバと出ている。おかげで大地の意識は朦朧としていた。
「…………カラス、行かなくていいの?」
遠くから見ていたフロリィは、隣の空進に聞く。
「行くに決まってんだろ?大地も死の怖さというモノが分かっただろうし……あ、フロリィは分かってるかもしれないけど、俺には死の怖さは分からないからな?」
「…………分かってる…………でも行く前に、頭撫でて」
「……よしよし」
「…………えへへ」
フロリィは先ほどの約束を覚えていたようだ。空進がフロリィの黒髪の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。
「じゃ、行ってくる」
空進はそう言うと、自分が買った剣を抜く。
空進が『ハナミザケ』で造ってもらった剣は、白く輝いていた。
「この剣は『キリサキ』だ。フロリィ、この剣は面白いんだぜ?なんて言ったって、一つじゃなくて、一度に複数の属性が付与できるんだから……」
フロリィに自慢しながら、空進は無詠唱で『キリサキ』に≪無属性初級≫と≪火属性初級≫の付与を付けた。
「さてと、この剣の切れ味はどのくらいかな……?」
空進は笑いながら、大地に向かってハンマーを振りかぶるカブラの方へと走っていたのだった。
空進の走るスピードは、フロリィの目で辛うじて追えるほど。力を髪留めで抑えられていても速いのだ。
フロリィは、笑顔で走って行った空進の背中を心配そうな顔で見ていた。
「はい、とうちゃーくって危ねえ!?」
ガキィッ!!
「うおっ!?」
「ふう、危ない危ない」
今起こったことをありのままに話そう。
大地が倒れているところにカブラがハンマーを振り下ろしてきたのだが、そこに余裕そうな笑みを浮かべて入り込んできた空進が、振り下ろされてくるハンマーに気付いて持っていた剣を振り上げたところ、丁度ハンマーに当たったのだが、その時ハンマーを持っていたカブラがハンマーごと吹っ飛ばされたんだ。
「あ……カラス……?」
「よう、ダイチ。そんな痛そうな顔してどうしたんだ?」
「実際物凄え痛えよ!!」
大地は空進の言葉に、自分の痛みを忘れるような大きな声でつっこんだ。
「さてと、ほいっと。これで足も完全復活だな」
「……え?」
大地は空進の言葉に自分の足を見る。
足が戻っている。痛みも無い。
立ってみる。
「立った!ダイチが立「それ以上は言わせねえ!!」十分元気だな」
空進は大地の様子を確認すると、大地に交代だと伝えた。
「はあ!?なんで交代なんだよ?」
「死にたいのか?」
「…………」
大地は反抗したが、空進の言葉に黙った。先ほどの痛みは絶対に忘れることはできない。正直死ぬかもしれないと思っていたからだ。
「とにかく交代だ。君はフロリィのところで待ってろ。もし俺が負けたら、そん時は死を覚悟しておいた方がいいがな……」
「なあカラス、怖いこと言うなよ」
「怖いこと言うな?君は何か勘違いしているようだな」
空進は目を細めて大地を睨んだ。
「ダイチ、相手が人間であればこういう時は見逃してくれるとでも思っているのか?」
「え、だって――」
「勘違いするな。こういう戦闘において、見逃す場合なんてごく稀にしかない。俺は言ったはずだ。この世界じゃあ、いつも死と隣り合わせだと。君も分かっているはずだぞ?さっきの体験からな」
「――考えさせてくれ。これが終わったら三人でパーティを組もうと思ってたんだが、自分のよく考えてみたら自分の気持ちが整理できてないことに気付いた。だから考えさせてくれ」
大地は空進に背を向けると、フロリィがいるところに走って行った。
「審判さん。俺とダイチはちょっと交代だ。構わないよな?」
「はい、大丈夫ですよー」
空進は大地を見送ると、審判に向き直り聞いた。審判はルール表を確認しながら許可してくれた。
「なあカブラ」
「何だよ小僧」
空進はカブラに声をかけた。カブラはすでに体勢を整えていた。
空進は笑みを浮かべて彼に言った。
「君さ、本気出してなかったでしょ?」
「何のことだ?」
カブラは何のことか分からないという顔をしている。
「君は言ったよね?『そろそろ俺の本気を見せてやる』と」
空進の言葉に、カブラはピクリと眉を吊り上げた。
「聞こえていたのか?」
「残念だったな。俺は耳がいいんだ」
「なら、今度からは聞こえないようにしよう」
「そうかそうか。なら、再開しようか」
空進が言った瞬間、カブラが消えた。
少なくとも、大地にはそう見えた。
「遅いぞ」
空進の呟きとともに、ハンマーのはじかれる音がした。
「なっ……?」
「動きに乱れがありすぎだ」
空進には、カブラの動きが見えていたようだ。
「くっ!」
カブラはさらに、空進へ攻撃を仕掛ける。
「ハンマーを持ったまま、よくそんなに早く動けるね」
「これでもっ、この国でっ、二番目にっ、強いっ、からなっ!」
カブラは話しながらも空進に攻撃する。だが、一向にハンマーが当たらない。空進に少しもかすりもしない。
「ハンマーのせいなのか分からないけど、どこを狙ってるのか見えやすい。これが君の本気?」
空進はカブラを冷たい目で見る。
カブラは空進の言葉に腹が立ったのか、魔法を詠唱し始める。
「≪地属性付与超級≫、≪ある時地面が割れた。そこにいた者は皆、裂け目に落ちていった。ある者は叫び、ある者は泣き、ある者は怒り、ある者は狂った。貴様も落ちるがいい。恐怖の裂け目に――死の裂け目≫!」
カブラは詠唱が終わるのと同時に、ハンマーを地面に振り下ろした。
すると、振り下ろしたハンマーが地面に衝突するのと同時に、地面が大きく空進に向かって裂けていった。
「甘すぎ」
空進は呟くのと同時に、キリサキを地面に突き立てた。
≪無属性付与中級≫、≪風属性付与中級≫。カブラが詠唱している時に、空進はこの二つの属性をキリサキに付与していた。
そのため、地面の裂け目は突き立てた剣に到達するのと同時に、きれいさっぱり消滅した。
「はあっ!?」
この光景にはカブラは耐えられなかったようだ。
「確かこれは、相手を殺すまで終わらないんだよな?」
空進はカブラを見る。
「ひぃっ!」
カブラは空進の目を見てしまった。空進の目は、とても、とても冷たかった。
そして、口は三日月のような形に裂け、笑っているように見えた。
「じゃあ、これで終わりだな」
空進は言い終わると同時に、カブラの目と鼻の先に移動した。
走ってではない。≪移動≫を使ってだ。
「…………」
空進は無言で剣を振り上げた。
最大の嫌がらせとして、剣に≪無属性付与超級≫をしておくのも忘れない。
「やめてくれ!俺に勝つと、兄貴が来る!お前は兄貴に勝てるのかよ!?」
カブラは命乞いをしてきた。
「兄貴か……カブンは君のお兄さんだったんだな」
「兄貴を知っているのか!?なら話は速い!俺に勝たせてくれたら、兄貴と話をしてお前らを襲わないように言っておく!!兄貴は自分が国で一番強いからって、いろんな人に迷惑かけまくってんだ!いいだろ!?」
「何言っているのかさっぱりだが、そいつなら俺が殺気を向けたところ、走って逃げたぞ。あんな腰抜けが襲ってきても、怖くもなんともないな」
空進はカブラと話を取り合わなかった。
「君たち兄弟が俺に勝ちたいんだったら、九百年修行して来い!」
空進は剣を振り下ろした。
「ぎ……ぎゃぁぁぁあああああああ!!」
鍛練場に、カブラの悲鳴が木霊した。
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「終了でーす。四人とも、お疲れさまでしたー。冒険者カードの更新をしますか?」
カブンを倒したことにより、空進たち対カブラの戦闘は終了となった。
審判の受付の女性が結界と解いたところ、真っ二つになって倒れていたカブラが生き返った。
「あ、じゃあお願いします……と言いたいところだが、この子は実は冒険者カードを無くしたらしい。再発行はできるか?」
「できますよー。銀貨一枚になりますけど。ついでに、再発行すると元々持っていたカードは使えなくなりますよー。それでもいいですかー?」
「…………構わない」
「承ったよー」
受付の女性は、フロリィから銀貨を受け取り、さらに空進と大地とカブラのカードを受け取ると、受付の奥に戻って行った。
「さて、お前らの覚悟を見せてもらったぜ」
「恰好付けているところ悪いが、ひざが震えてるぞ?」
カブラは大地たちに称賛の言葉を贈るが、先ほどの空進との戦いを思い出しているのかひざが震えっぱなしだった。
気持ちは分からなくもない。雑魚だと思ってゆっくり遊びながら倒そうと思って恐怖を植え付けようとした相手に、逆にこっちが軽く倒された挙句恐怖を植え付けられたのだから。
「なあカラス、お前さっきの本気出してた?」
大地は空進に聞く。自分は空進の動きが全く見えなかったため、何が起こったのかは一番最後しか分からないのだ。
「……じゃあ聞くが、君には俺が本気を出しているように見えたのか?」
大地とカブラは揃って首を縦に振る。
「……まだ本気じゃねーからな」
「このガキ……本気出せって言っただろうが……」
「それを言うなら、君だって最初から本気出してなかったじゃん」
「…………」
カブラは空進に愚痴をこぼしたが、空進に簡単に返され押し黙った。
「はいはーい。更新が終了しましたよー」
受付の女性が、四人のカードを持って戻ってきた。
早速大地と空進とフロリィは、自分のステータスを確認してみる。
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ダイチ・カンナギ
年齢:18歳
Lv.1
<種族>人間
HP:50/50
MP:40/40
神名:『召喚されし勇者』
<取得魔法>
≪火属性≫
無し
≪水属性≫
無し
≪風属性≫
無し
≪地属性≫
無し
≪光属性≫
無し
≪闇属性≫
無し
≪無属性≫
無し
<スキル>
≪自動翻訳:ON≫
≪自動変換:ON≫
≪鑑定1≫
≪俊足2≫(UP)
≪????≫
<装備>
≪新人冒険者の防具(黒)≫(NEW)
≪セツゲツカ≫(NEW)
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大地は試しに、新しく増えたセツゲツカにヘルプをしてみる。
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『セツゲツカ』ハナミザケの、『武器職人(極)』の神名を持つ人間が造った剣。水属性を光属性と風属性の付与が可能。意思を持っており、気に入った者にしか言葉を伝えることをしない。中で何かが眠っているようだ。出てくるにはまだまだ時間がいりそうだ。別名『カラキリ』。
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「…………」
大地は無言になった。
続いてフロリィがステータスを確認してみる。
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フロリィ・レイーナ
年齢:100歳
Lv.30
<種族>妖精
HP:3000/3000
MP:5000/5000
神名:『王族の娘』
『黒の妖精』
『元奴隷』(NEW)
『この世界の神に会った者』(NEW)
『ローレのお気に入り』(NEW)
<取得魔法>
≪風属性≫
・風の宴(上級付与)
『隠蔽がかけられました』
≪闇属性≫
・闇世界(超級破壊)
『隠蔽がかけられました』
≪無属性≫(NEW)
無し
<スキル>
≪鑑定10≫
≪隠蔽9≫
≪妖精の歌(黒)≫
≪羽根隠し≫
<装備>
≪異世界の杖≫(NEW)
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「…………見た?」
フロリィは空進が自分の方を見ているのに気づいた。
自分のステータスを見終わった直後に≪隠蔽≫をしたが、空進はフロリィがステータスを確認している最中に見ていたらしく、わざとらしく目を逸らした。
「…………ダイチは?」
「何が?」
「…………」
幸い、大地は見ていなかったようだ。
しかし、空進に自分のステータスがばれてしまった。
「…………消しちゃった方が…………早い?」
フロリィは空進を見て言った。
すると空進はそんなフロリィを見て、ニヤリと笑った。そしてフロリィに近づくと耳元で囁いた。
「話相手がいなくなるぞ」
「…………」ビクッ
フロリィは少し反応を見せたが、動揺はしていないようだった。
「大地と二人っきりで旅したいのか?」
「…………」ガタガタ
フロリィは段々動揺してきたようだ。若干肩が震えてきている。もうひと押し。
「頭、撫でてあげれなくなるぞ」
「…………!」ブンブン!
フロリィは首を振った。それだけは我慢できなかったようだ。
空進はフロリィと目を合わせると言った。
「君はもう知ってるだろうと思ってたけど、忘れてるでしょ?」
フロリィは首を傾げた。どうやら本気で忘れているようだ。
「フロリィ、俺はな……不老不死。死ねないんだよ」
「…………あ」
フロリィはやっと思い出したようだ。
「どのみち、君が妖精だろうが人間だろうが、一緒にいれる時間は限られてるんだ。ずっと一緒に居れるなんて思わない方がいい。何か手段があったら言うけど、それまでは考えない方がいいよ」
空進はフロリィに笑顔で言うが、フロリィは笑顔になれなかった。
「(一緒に居れないんだ……)」
フロリィは悲しかった。
まだ初めて会ってから少ししか経ってないけど、フロリィは空進と一緒に居たいと思うようになっていた。それはいつからだろうか……奴隷売り場で初めて会った時?それとも自分の世界へ連れて行ってくれた時?それとも先ほどの戦いの最中?
「(それとも……今?)」
フロリィは空進を見た。
「ん、どうした?」
空進はフロリィの頭を撫でる。フロリィは空進に撫でられるという行為が気に入っている。自分ではなぜだか分からないが、それが好きなのだ。
「…………約束」
「何の?」
「…………方法が見つかったら……一緒に居てくれること」
「え……?」
「…………ん」
フロリィがしようとしてること、それは……。
「…………妖精国の本気の約束の仕方は…………女性からの場合、キスするの…………恥ずかしいから……早く……」
空進はとりあえず、フロリィの頬を軽く引っ張った。
「…………にゃ、にゃにふるの(何するの)?」
「場を考えろ。ここはまだギルドだ」
フロリィは周りを見る。
幸い、大地とカブラとその他ギルドにいる冒険者は見ていなかったようだ。
「……クスクス」
こっそりこちらを窺っていた受付の女性を除いて……。
フロリィはその後、こういう場所でこういうことをするのはやめたそうだ。
また、空進のステータスはこうなっていた。
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カラス・マワタリ
年齢:20(900)歳
Lv.2(UP)
<種族>不明
HP:1100/1100(???/???)
MP:0/200(0/???)
#?*(GP):???/???
神名:『召喚されし遊者』
(『空鬼』)
『二つの真名を持つ者』
(『偽る者』)
(『クロゼロの孫』(NEW))
(『ローレのライバル』(NEW))
<取得魔法>
(≪ローレの加護≫)
≪零以外全属性≫
全階級魔法
≪無炎属性≫(NEW)
初級付与
≪無風属性≫(NEW)
中級付与
(≪零属性≫)
(絶対索敵術)
(絶対隠蔽術)
<スキル>
≪自動翻訳:ON≫
≪自動変換:ON≫
≪鑑定1≫
≪魔法無詠唱≫
≪自己念再生≫
(≪不老不死≫)
(≪常識外し:異世界遊者≫)
<装備>
≪種族不明の服≫
≪大剣・キリサキ≫
≪小剣・ハクギン≫
(≪空剣・クウハ≫)
(≪力封隠の髪留め≫)
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空進は自分のスキルである、≪魔法無詠唱≫を力封隠から外した。先ほどの戦いで、普通に無詠唱で付与そしているからだ。ちなみに年齢のことは聞かない方がいい。空進は自分の背丈がどのくらいの年齢に値するのか、全く分からないからだ。
「お、カラス。レベル上がったんだな」
「へへーん、残念だったな。まあ、俺は君より強いからな」
「おいおい。僕は今は弱いけど、お前より強くなることは分かってんだぜ?」
「殺されかけてたくせによく言うぜ……」
ちなみに空進は大地の言葉に内心、君が俺より強くなることは今のところ無理だ、と考えていた。
だが空進は絶対にそれを口には出さない。人間じゃない空進でも、言っていいことと悪いことの判断はつくのだ…………経験上。『ローレのライバル』という神名がついている地点で。
余談だが、空進は自分の神名に『鈍感』が付いていないことにとても安堵していた。
「言い忘れましたが、自分に鑑定をすれば、一々冒険者カードでステータスを確認しようとしなくても、自分のステータスを確認できますよー」
「「…………」」
最後に、受付の女性から言われた言葉に、大地と空進は女王の説明不足に若干怒りを覚えたのはまた別の話である。
余談だが、フロリィはこのことを知らなかった。
空「後書きを乗っ取る会、始まるぜ!」
大「うん、そうだね」
空「どうしたダイチ?元気が無いようだが」
大「いや、レベルが上がってないから」
空「まあ実質、倒したのは俺だからな」
大「もし僕がもうちょっと頑張っていたら……もしあそこで僕の心が折れていなければ」
フ「…………人はそれを、『たられば』と呼ぶ」
空「なるほど、それは一つ勉強になったぜ」
フ「…………じー」
空「……仕方ないな」
フ「…………えへへー」
大「いちゃつくんならどこか別のところでやってくれない!?」
空「いちゃついてなんかないぜ?俺はただ、フロリィの頭を撫でているだけだ」
大「…………じゃあ僕も」
フ「…………」サッ
空「…………」
大「…………」
空「…………なんかスマン」
大「…………くっ」
空「さて、今回のゲストだが」
大「切り替え早っ!」
デ「わしが今回のゲスt「ぅおらあ!!(空)」わあああぁぁぁぁぁ…………」
大「おい!?なんか今、白髪の幼女が出てきたけど!?」
空「見間違いだ」
大「いやでm「見間違いだ!そんなヤツはここには呼んでない!!(空)」必死だな」
フ「…………今回はこの人」
カ「俺が今回のゲストとして呼ばれた、カブラだ」
空「前回ここに登場した、カブンの弟だ」
カ「なに?兄貴がここに来ただと?」
空「まあな……初対面は最悪だったぜ。なにせ、ハナミザケの会計の女性を襲うグループに邪魔が入らないように、店の前に立ってたんだから」
カ「兄貴……そんなことをしていたのか」
空「殺気を向けたら逃げたけど」
カ「兄貴……」
空「落ち着け、今度一緒に飲みに行こうぜ」
カ「奢ってくれるのか?」
大「どうせ僕が奢るんだろ?カラスは財布の紐が緩いから」
空「分かってんじゃん」
フ「…………カラスはお酒、大丈夫なの?」
空「…………秘密」
大「僕は飲まないけどな」
空「安心しろ、飲ませてやる」
大「どこに安心できる要素があるんだよ」
カ「安心しろ、俺がコイツを止めておいてやる」
大「…………分かった。行くぞ」
フ「…………ボクも飲めるよ?」
空「そうかそうか。じゃ、今回はここまでだな」
大「そうだな」
空「ところで、自然と酒飲みに行く雰囲気になってるけど、飲みに行くのは酒じゃないからな」
カ「なんだよ、酒じゃねぇのかよ」
フ「…………カラス、ひどい」
空「勘弁してくれ。俺は飲みたくない」
大「カラスの過去に何があったのか。それはまた次回分かるだろう……」
空「教えないから分かりません」
大・空「「ではまた次回!」」
フ「…………カラスの持ち物にお酒混ぜよう」
大「どうしたカラス?」
空「いや、何か嫌な予感が」