二人のゆうしゃは旅に出る準備をする 奴隷編その2
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奴隷編その2です。
長いですね。
カラスの誤解が解けたところで、武器を買いに行こう、という話になった。
その前に、フロリィの目が覚めるのを待たなければいけない。
暴走した彼女の様子からして、過去に何かあったのは間違いない。
「フロリィを冒険者登録しなきゃ武器を買いに行けないんじゃない?」
カラスは彼女を様子を見ながら、そう呟いた。
「確かに、冒険者じゃない者が武器を持っていても、最悪盗賊と勘違いされるかもしれないのぉ」
と、カラスの呟きにヘリムは答えた。さすが元冒険者と言うべきか、経験者は語ると言うべきか、どちらにせよ先輩の言うことは聞いておこうと思ったカラスであった。
ちなみに、ヘリムの先祖である、ハイドル・カラレスは冒険者登録をしていなかったため一度だけ盗賊と勘違いされたことがあるらしい。武器を持つのであれば冒険者登録をする、という決まりは昔からあったようだ。
「ん…………」
どうやらフロリィの目が覚めたようだ。
「フロリィ、目が覚めたみたいだな。体調はどうだ?」
「…………」
「ありゃ?」
ダイチはフロリィに話しかけてみたが、返事は返ってこなかった。
「初めまして、わたしはインジュ・シルベリーワイトよ。これでも元は奴隷だったの。できればあなたのことを教えてもらえないかな?」
今度はインジュが話しかけてみる。すると……。
「は……初めまして……フロリィです……種族は妖精です…………得意な魔法の属性は、風と闇です…………」
小さい声ながらも答えてくれた。
「…………なあカラス」
「なんだよ」
「僕とインジュのこの差はなんだ……?」
「……目つきの問題じゃね?」
「……人の顔面の問題でとはいい度胸じゃん」
フロリィに引きつった笑顔で近づいていくダイチ。高校生時代にボッチでも、相手に目つきが理由で無視されるのは彼にとって悲しいことなのだ。たとえ相手が人間ではなくても……。
フロリィは、近づいてくるダイチを見ると、怯え始めた。
「ダイチ、フロリィが怯え始めているぞ。そこで止まって自己紹介しようぜっておい、聞いてるか?」
「うっ……」
怯え始めたフロリィを確認したダイチは、自然と自分の足が止まるのが分かった。
「あー、俺は「そこでキャラ作ってどうする」……僕はダイチ・カンナギだ。今日からお前の新しいご主人だ。ちなみに、僕は人国を支配しようとしている鬼魔王を倒すために召喚された勇者だ。別にお前を取って喰おうとしている訳じゃない。安心してくれ」
「はい、アウトー」
「どこがだよ!?」
ダイチの自己紹介が終わると、カラスからアウトコールがきた。ダイチはカラスの方に向き直ると叫んだ。
カラスは指を折り曲げ数えながら、ダイチの自己紹介のどこが駄目だったのか問題点を挙げ始めた。
「まず1つ目、いきなり一人称俺とか大丈夫か?恰好つけんな。2つ目、新しいご主人とか普通言うか?3つ目、勇者ってのは先に言え。4つ目、取って喰おうとしている訳じゃないっていう台詞を怯えてる者に言ってどうする?余計に変な想像させるだけだ。5つ目、長い」
「全部じゃん!」
「ということでフロリィ。俺が勇者のおまけ、カラス・マワタリだ」
「スルーされただと……!?」
フロリィはカラスを見た。上から下までまんべんなく。
「あの……あなたは……?」
フロリィは再度聞く。
「えーっと、今名前言わなかったか?」
「いえ……今鑑定させてもらったところ、あなたは、『2つの真名を持つ者』という神名を持っていることが分かったので…………」
「……なあ、フロリィ。その会話力をもう少しダイチ側に分けてくれないか?」
フロリィはちらっとダイチを見る。
「…………」
カラスに向き直る。
「もう1つの真名を「そんなに嫌か!」……だって…………」
「だって?」
フロリィはもう一度ダイチを見る。そしてカルシュを見る。
「え、なぜ私?」
フロリィは再度カラスに向き直る。
「だって…………人間じゃないですか…………」
「ああー、そういう問題か」
フロリィがダイチと話さない理由と、カルシュが治癒を施す時の事件の理由。
ただの人間嫌いだった。
「なあダイチ、奴隷の絶対命令を使って無理やり話すっていう手もあるんだけど?」
カラスはダイチに提案してみる。これを聞いたフロリィは、再び怯え始めた。
「カラス、お前は僕をどんな目で見ているんだ?そしてフロリィ、僕はそんなことをしないから安心してくれ」
「…………」
彼はできるだけ優しくフロリィに言うが、信用されていないのかフロリィは再び目を逸らした。
「はあ……」
広間にダイチの溜め息が木霊する。
これから武器を買いに行こうとしていたのだが、ダイチがフロリィに少しだけ信用されて、ほんのちょっとだけ口を利いてもらうのに膨大な時間を必要とした。気付くと夜になっていたため、武器を買いに行くのは次の日となった。
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夜、ダイチたちは3人に割り振られた客人用の部屋にいた。
3人とも別々の部屋である。と言っても、フロリィは人間が好きではないため、インジュと同じ部屋になったが。
――コンコンッ
カラスが部屋のベッドで寝転んでいると、ドアが控えめにノックされた。
扉を開けてみると、そこにはインジュとフロリィがいた。
「こんな時間になんだよ?」
「ちょっと話があるんだって。フロリィ、ここから先はどうする?」
「…………ここから先はボクだけで行くよ……インジュ、ありがとう…………」
「んー、じゃあねー」
インジュはそれだけ言うと去って行った。彼女はフロリィを、カラスの部屋に送り届けるだけだったらしい。
カラスはインジュが去るのを確認してからフロリィに聞いた。
「で、話ってなんだよ?」
「中……入っていい……?」
「あ、ああ……」
空進はフロリィを部屋の中に入れた。
「実は……カラスにいくつか聞きたいことがあって、ここに来たの……」
「なんで今なんだ?」
「ボクに、今なら教えてくれるかなー……って思って……ダメ、だよね」
初めてフロリィを見たとき、彼女の背中には黒色の透明な羽根があった気がするが、今は生えていないように見える。
カラスは彼女の小さくなる声に、一言返した。
「いや、誰にも言わないなら教えてやってもいいぞ」
「ホント!?……あ…………本当ですか?」
「いや、今更敬語に直さなくてもいいし、敬語分からないし。敬語じゃなくてもいいぞ?俺はそっちの方が楽なんだが」
「あ、じゃあ……そうする……」
「そういえば君、羽根は?」
カラスはフロリィの後ろを見ながら聞く。
「羽根は……隠してあるの……こうすれば、人間と同じような外見になれる……から…………」
自信がないのか、何かをされると思い込んでいるのか、言葉は弱々しくなっていく。だが彼は気にせず続けた。
「ふうん……で、知りたいの?」
「知りたい。カラスのステータスを見た時から、不思議に思ってたの…………隠蔽が使われている訳でもないのに…………文字化けしてるところがあるし……種族不明なんて召喚されたヒトが普通持つ種族じゃないし…………」
「……意外と頭は良いんだな」
「意外とは余計…………」
フロリィは空進の言葉に、頬を膨らませる。
「それに…………奴隷商で感じた気配も、普通じゃなかったし…………」
「そこに気付かれちゃったか…………」
カラスは項垂れた。まさかこんなに簡単に自分が言葉で負けるとは……。
「仕方ないな……ついてきなよ」
「…………?」
空進は部屋の壁に触れた。
すると、部屋の壁が青く光出し、人が一人通れるほどの丸い形になった。
その青い入口の前で振り返り、フロリィに手を差し伸べて言った。
「俺のことが知りたいのなら、ついて来い」
フロリィは無言で、空進の手を握った。その瞬間一気に引っ張られた。
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フロリィが目を開けると、ログハウスのような建物の中だった。
床には何か細長い紙のようなものが散らばっている。
「……ちょっとくらいは片付けようよ!!」
とりあえず空進は、目の前の光景に突っ込んでおいた。
――ドォォォオオオオンッ!!
何の前触れもなく、立っている床が揺れるほど大きな揺れと音が聞こえた。
「…………っ!?」
フロリィは今の音に声を上げそうになったが、寸でのところでこらえた。
「今の音は……ってーと、外か」
カラスは額に手を当てながらそう言った。そして、フロリィを連れて外に出た。
「……あれ?お城じゃ、まだ夜なのに…………」
「ようこそ、ゼロノクロセカイへ。ここは他の世界より、時間の流れがおかしいんだ。どの辺がおかしいかってよく聞かれるけど、説明が長くなるからやめとく」
フロリィは目の前を見た。正確には目の前で対峙している二人の人物を見た。
一人は白髪のショートカットで背の小さい少女。もう一人は銀髪のポニーテールで背の小さい少女だった。どちらかというと銀髪の少女の方が、背が高いように見える。
「あの……二人は誰……?」
「……白髪の方は俺の母親で、銀髪の方は……友達、かな?」
「なんで疑問形で返されなきゃいけないの……?」
目の前の少女二人は、瞬きした一瞬で距離を詰め、殴り合ったり蹴り合ったりしていた。
「フロリィ、あそこでどんな攻防がされてるか見えるか?」
「…………見えるわけない」
「よかった。これで見えるとか言われたら、どうしようかと思ったぜ」
「……見えるの?」
「……伊達に長く生きてないぜ」
実際、少女二人の攻防は普通に見える速度ではなかった。
白髪の少女が拳を突き出すと、銀髪の少女がそれを受け流し蹴りを繰り出す。ぎりぎりまで屈んで避け、白髪は足払いを仕掛ける。だがそれが来るのを予想していたのか、銀髪は小さくジャンプしてそれを避けその足を踏み抜こうとする。白髪は勢いよく足を引っ込めてその勢いを使ってもう片方の足を振り上げる。それは銀髪の顎を狙っていたのだが、銀髪は頭を後ろに反らすだけで避け、その勢いでバック転をして顎を蹴り上げようとする。白髪はその足を掴むが何かと特殊な付与が掛かっていたのか白髪の少女の両手が吹き飛ぶ。しかしすぐに再生する……というのが空進に見えていた。
「ちょっと待て!格闘の試合なのに付与魔法使っていいのか!?」
見えたところで、空進は思わず待ったをかけた。
だが、銀髪は戦いながら言い出した。
「これは付与魔法じゃないのです!足に爆発の付与を付けただけの、ただの≪爆転≫なのです!」
「すでに付与を付けたって自分で暴露しておるのじゃが!?」
明らかに言い訳なのだが、自分で暴露したことに気付いていない銀髪に、白髪はそのことを指摘した。
「二人とも、そこまで!!」
するとカラス達のの背後、正確には後ろ斜め上から少女の声がした。
カラスとフロリィが声のした方を見ると、小屋の屋根の上には銀髪の少女がいた。背丈は先ほど戦っていた銀髪の少女より少し低く、白髪と同じくらいのようだ。目は、右目が緑で左目が深緑のオッドアイらしいが、屋根の上にいるのでよく見えない。
「お姉ちゃん、これは格闘戦でしょ?不利になったからって魔法は使っちゃ駄目だよ」
「つ、使ってないのですよ?爆発の付与魔法なんて使ってないのです……」
「今回はディクスの勝ち。お姉ちゃんは罰として、おやつはわたしがもらうよー」
「えぇー!?ちょっと、ローレ!私そんなの聞いてないのですよ!!」
二人の銀髪の少女は言い合いを始めた。
そんな二人を空進は呆れ顔で見ていたが、フロリィは唖然とした顔で見ていた。
「クー、久しぶりだね」
「久しぶりなのです」
「ん、久しぶりーって程でもないだろ。昨日召喚されたばっかりなのに……」
「からかってみただけだよー」
「…………」
「で、そっちの子は誰?」
ローレは空進の姿を確認すると、屋根から降りてきた。もう一人の銀髪、ルリラも近寄ってきた。
フロリィはローレの姿を確認すると、聞いてきた。
「フロリィだ。種族は妖精だって」
「フェアリスって言ったよね?だとすると、その子はハリルから連れてきたんだね」
「さすがローレ、ご明察」
ローレは種族の呼び方から、世界の名前を言い当てた。
「……あの、初めまして……フロリィ……です…………」
「あー、そんなに硬くならなくていいよ?それでクー、よく生きてたね」
「俺が死なないのは知ってるだろうに」
フロリィはローレのことを知っているのだろうか。神様でも見るような眼でローレを見ている……実際神様なのだが。
「あの……あなたは、あのローレ様……なのですか……?」
「あなたたちが言う、そのローレ様は確かにわたしのことだよ」
なんかとんでもないことが聞こえた気がする。
「え!?ローレ、ハリルで崇められていたのですか!?」
ルリラは初めて聞いたかの如く、ローレに聞いた。
「そうよ、知らなかったの?あの世界でわたしを祀っている教会は人間国以外、一つの国に最低一つはあるわ」
「へー、それは初めて知った」
「あんた、今どこにいるのよ?」
「まだ人間国の城だ。明日は武器を買いに行く」
「あんたの武器は?」
「俺のは非常事態以外は使わないつもりだ。新しいのを買うに決まっているだろう?」
空進は当たり前のように言った。
「あんたには魔法があるでしょうに……」
「君の加護があるからねー」
「≪ローレの加護≫持ち…………!?」
空進の言葉に、フロリィは驚き震え始めた。
「いや、なんでだよ」
空進の言葉に、ローレはやれやれという風に答えた。
「あのね、ハリルの人間以外の住人にとって、わたしの加護っていうのは神に近い力がある者にしか与えられないって考えられているの。するとどう思われるか分かる?加護を受けた人はハリルの住人にとって、神であるわたしと同等の力を持っているのと同じなの。それは怯えられてもおかしくはないわ」
空進はフロリィを見る。
「ひっ」
さらに怖がられた。
「ちょっと母さんのとこに行ってくるから、ローレはフロリィの誤解を解いておいて」
「はあ!?なんでわたしがそんなことしなきゃいけないわけ!?喧嘩売ってるの!?」
「あー、何も聞こえなーい」
空進は耳に手を当てながら、疲れ果てて倒れているディクスの方へ行ってしまった。
「まったく、クーは一年経っても変わらないんだから…………ん?フロリィだっけ?そんな怯えなくても大丈夫だよ」
「え……で、でも……」
ローレはフロリィに近づくと、フロリィの頭を撫でながら語り始めた。
「あのね、クーは元々自分の身体を持っていなかったの」
「え……?じゃあ、その前はどこに……?」
「あそこで寝転んでる、ディクスの中……一つの人格として生きていたの」
「…………はい?」
フロリィはローレの言葉に首を傾げた。
「何言ってるか分からないでしょう?わたしも最初は驚いたよ。元々ディクスは多重人格だったの……今もそうだけど。だけど、今から11年前に重大な事件が起きたの」
「……重大な、事件……?」
「人格の一つが抜け出ちゃって、独立して生み出された理由を探すとか言い出して旅に出てしまう、という事件が起きたの」
「…………」
ディクスの人格は主に『鬼型』と呼ばれている(ルリラ命名)。
「その鬼型が殺鬼っていう人格なんだけど、全ての人格の中で一番最後に産まれたらしいの。まあそれが抜け出たからだと思うんだけど、今から一年前に今度は空鬼が抜け出ちゃってね…………」
「それが、今の……カラスなのですね…………」
ローレは苦笑して、さらに言った。
「実は昨日、クーが召喚された後、また人格が抜け出ちゃってね……生まれが不明な『歌鬼』が抜け出ちゃって……」
「あの…………クーって誰ですか……?」
フロリィはずっと気になっていた。この世界で空進は、『クー』と呼ばれていることに。
「ああ、クーはこの世界だけの名前。ここ以外の世界では、『間渡空進』とか『カラス・マワタリ』って呼ばれているはずだよ。だけど、ここでの名前は『クロス・エスペイチューム・クー・オーガ』なの」
「…………どちらが真名なのですか?」
「どっちもよ。ハリルの冒険者は≪鑑定≫のスキルを持っているはず。だから、あなたも見たんじゃない?クーのステータスを」
フロリィは思い出した。奴隷商で2人のステータスを見た時、空進のステータスに『2つの真名を持つ者』と書かれていたのを。
「思い出しました……」
「混乱すると思うけど、慣れてね。もしかしたら、あなたはもう1度この世界に来るかもしれないから」
「はい…………え?」
「クーは優しいから……」
ローレが最後に何を言ったのか、フロリィは聞き取れなかった。見ると、カラスはすでに戻って来ていた。白髪の少女を連れて。
フロリィはカラスを見た。彼の空色の目を見た。フロリィには、そのの目が澄んでいるように見えた。
「で、オマエがハリルから来た……まあ、連れてこられたが正解かの?フロリィという妖精か」
「は、はい…………」
「オマエはインジュという小娘を知っておるか?」
「は、はい……あの、あなたに奴隷の呪いを解いてもらったと……教えてもらいました…………自慢げに」
ディクスは紫色の虹彩を持っていた。喋ると口の中が見えてしまうのは仕方ないのだが、なぜかその口をフロリィはじっと見ている。
「何を見ているのじゃ?」
「舌に……何か書いて…………あります?」
「ああ、これかの?」
ディクスはそういうと、舌を出した。
彼女の舌には、黒い模様が描かれていた。
そして、舌をしまうと言った。
「ゼロデビルスには1人1つはこうした模様があるのじゃ。もちろん、クーにもある」
そういうとディクスは唐突に、カラスの服をまくった。
フロリィは顔を赤く染めながら、興味深々に見ていた。
「いや、そこは恥じらうところだろう……」
カラスは言うが、フロリィには聞こえていない。
ディクスの言う通り、カラスの右の脇腹に逆さまの黒い三日月模様が描かれていた。
「そんなことより母さん。例の頼み、聞いてくれるんでしょ?早く早くー」
「分かった分かった。フロリィといったか?右肩を見せよ」
フロリィはディクスに言われ、服をずらして右肩を見せた。
「ふむ、久しぶりに見るの。この奴隷紋は……さて、始めるとするかの」
ディクスは、フロリィの右肩に手をかざした。
すると、手が光りだした。
「ぁう…………っ」
フロリィの右肩に、焼けるような痛みが走った。だがそれはすぐに収まった。
「終わったぞ。これでもう大丈夫じゃ」
「え……?」
フロリィが自分の右肩を確認すると、奴隷紋が少しだけ薄くなっていた。
「オマエの奴隷の呪いを解除した」
「俺、母さんの≪常識外し:呪解≫を初めて見た気がする」
「そうだったかの?」
「え……と、ありがとうございます……?」
「まだ現実が呑み込めていないような顔をしているの。これで、オマエも奴隷から解放されたわけじゃ」
「え……嘘……」
フロリィは呆然とした。一般的に、奴隷の呪いは解除することができない。どんな魔法を使っても無理だと言われている。
「奴隷の呪いは解除することができないというのが常識じゃな。じゃが、わしらのような種族は≪常識外し≫というモノが生まれつき備わっている。わしが今使ったモノも、それの一つじゃ」
「≪呪解≫っつって、どんな呪いも必ず解くことができる力なんだぜ。常識的に解呪できないものも解呪できる。それが≪常識外し:呪解≫だ」
フロリィは2人に説明されたが、まだ分からないようだ。
「まあ、おいおい分かっていけばいいさ」
空進はそう言ったが、フロリィは分からなくてもいいと思った。
奴隷から解放された嬉しさが勝っていたからである。
「あー、ところで母さん」
「なんじゃ?」
「ばあちゃんは?」
「ここにいるわよ」
どこから声がしたのか、カラスが後ろを見るとすぐ後ろにいた。
「……お願いがあるんだけど、この服の右の脇腹あたり切れ目を入れてほしいんだけど。クウハが取り出しにくい」
「あら、ごめんなさい。じゃあ貸して」
「ん」
空進はその場で脱ぐと、空進のおばあちゃんであるゼロに渡した。
空進は下に何も着ていなかった
「一般に、あの服はジャージと呼ばれる物らしいのじゃが、同じなのは形だけじゃな。性質も原材料も違う」
「じゃあ……何で造られているんですか……?」
ディクスは言わなかった。
カラスもこれには答えなかった。
ローレも目を逸らした。
ルリラはいつの間にかいなかった。
「フロリィ、世の中には知ってはいけないものもあるんだよ」
カラスは上半身裸のままフロリィの肩に手を置き、諭すように言った。
「クー、帰ってたんだな」
「む、父上。気配を隠すのが母上より下手っぴじゃの。驚かすならもう少し修行した方が良いのでは?」
「悪かったな」
「クロはやっぱり、魔法特化型だねー」
ディクスに父上と呼ばれたクロは、ディクスの背後にいた。しかし上手く気配を消すことができないらしく、すぐにディクスに看破されていた。
「じいちゃん……この髪留め、鑑定してみたら≪力封隠の髪留め≫とか出てきたんだけど、どういうこと?」
「それはだな、お前が暴走しないようにだな「生まれてこのかた暴走なんてしたことないけど?」……」
カラスの言葉にクロは黙り込む。そして咳払いをすると言い直した。
「……それで髪を縛ったら、可愛いかと思ってな」
「それが本音か」
「どちらかというと、クーはディクス似だからな」
「もともと母さんの中にいたからな」
「とまあ、それが理由だ」
この髪留めに深い理由は無かったようだ。恐らく、そんな理由で造ったためこんな効果がついてしまったのだろう。
「できたわよ」
「ばあちゃん、早いな」
「これでも、こういうのは得意なのよ。そうそう、ハリルに戻るなら、これを持って行った方が良いわよ」
そう言ってゼロが懐から取り出したのは、白い輝く石、先端に深緑と灰色の宝石がはめられた杖だった。
「この石がクー宛てで、こっちの杖がフロリィちゃん宛てよ」
「ボクが……こんな高価な杖もらっても……いいんですか……?」
「いいのよ。お近づきの印に、ね?」
「……ありがたくもらっておきます…………」
フロリィの声は驚いていたが、顔はとても嬉しそうだった。
「ばあちゃん、この石はなんだ?」
「それはどんな属性も付与できる鉱石よ。これで剣を造ってもらいなさい」
「俺は剣の接近戦なんてやったことねーぞ?」
「あっちで教えてもらいなさい」
「厳しいなあ」
空進はそう笑いながら言うと、フロリィの手を引いて、建物の中に入っていった。
ハリルに戻るのだろう。
途中で振り返り、クロゼロとローレといつの間に戻って来ていたルリラに言った。
「ちょっと世界を救ってくるぜ」
「わたしは少ししたらそっちに行くから、その時にまた会いましょう?」
「おう。じゃあ、行ってきます」
そう言って、空進とフロリィはハリルへと戻って行った。
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空進たちがハリルに戻ると、驚きの光景が!!
「…………なんでここにインジュがいるの?」
「…………そんなの、俺が聞きたい」
カラスの部屋にインジュがいた。
間違えてインジュの部屋に出入り口がつながったとかそういうことではない。
カラスの≪常識外し:異世界遊者≫の欠点は、行ったことがある世界しか行けないというものだけではなく、出入口が動かないというものもある。要するに、もしダンジョンのモンスターハウスに出入り口を創って移動しようとしても、出入口自体はそこから動かないので、自力で脱出するしか手はないのである。
「ん…………あ、2人とも戻ってきたんだ……2時間経っても帰ってこないから、見に来ちゃった。入っても誰もいないから寝ちゃったよ。えへへ」
「えへへじゃねーよ」
「あ、フロリィ。その杖なーに?」
「…………神様の友達に……もらった……」
「神様ってローレ様のこと?」
「……うん」
インジュの言葉にフロリィは小さく頷いた。
ローレの言葉は本当だったんだなーと、カラスは密かに思った。
「その友達に会ったんだ……どこで?」
「え……っと、夢の中で……?」
「なぜそこでカラスを見ながら疑問形で答えるのか謎だけど、とりあえずフロリィがそう言うのならそういうことにしておくよ」
「うん……」
インジュはフロリィの手を掴むとカラスに向き直って言った。
「フロリィに何もしてないよね?」
「俺をどんな目で見ているのか分からないが、何もしちゃいない。俺じゃないが、フロリィの言う友達が何かしたぞ」
「何かって?」
「奴隷紋を見てみろ」
「フロリィ、ちょっとごめんね」
インジュはフロリィの服をずらして右肩を見た。
「あ!?」
インジュは驚きの声を上げた。
それもそうだろう。昔自分の身に起きたことが目の前で起こっているのだから。
「フロリィ、その奴隷紋……」
「……うん。その友達に……解呪してもらった…………」
「ついにフロリィも奴隷じゃなくなったのかーって、いやいや。どこで会ったの!?」
「…………」
フロリィは助けを求めるようにカラスの方を見た。
「なんでそこでカラスの方を見るの?」
インジュも彼の方を見る。
カラスは二人の元奴隷に視線を向けられ、溜め息をついた。
「実はだな、インジュが来る前、俺たちは外にいたんだ。どこから出たかと聞かれると、まあ窓しかないんだが。まあ散歩をしていたわけだ。そしたら偶然そのローレ様(笑)の友達に会ってだな、俺はこの鉱石を、フロリィにはその杖をもらい、フロリィは偶然その友達と一緒にいた少女に奴隷の呪いを解除してもらったわけだ。まあ、偶然だけど」
「なんかローレ様を馬鹿にされた気がするし、説明の中に偶然っていう言葉が三回も出てきたところが怪しいけど、とりあえずそういうことにしておくよ」
ぶっちゃけカラスの説明は真っ赤な嘘である。これを聞いたフロリィも、驚きを通り越して呆れた顔をしている。
「じゃあまた明日ね、じゃあねー」
「おう。フロリィもしっかり寝るんだぞー」
「う……うん……おやすみ」
フロリィはインジュに連れられて、カラスの部屋を後にした。
フロリィはインジュの部屋に着くまで考えていた。
「(ゼロトクロノセカイに何時間も行っていた気がするけど、こっちじゃ全然時間が経ってない……これがカラスの言っていた、『時間の流れがおかしい』ところなんだ。あっちの世界の方が、時間の流れが速いのかな……それとも遅いのかな……?)」
「フロリィどうしたの?難しい顔しちゃって」
インジュの声でフロリィの思考は現実に戻された。
「えっと…………明日は武器と防具を買いに行くから……どんなのにしようか……考えてたの…………」
「そっか…………まあ、お店で相談してみなよ。旅っていうのは楽しいけど、その分厳しい時も怖い時もあるからね。毎日が死と隣り合わせだから、油断しちゃだめだよ。ところでフロリィはレベルいくつ?」
フロリィは自分のステータスを≪隠蔽≫し隠しているので、≪鑑定9≫までの冒険者は見えないのだ。
「覚えてません。奴隷になるときに、冒険者カードは紛失してしまったので……」
「そっか。わかったら教えてねー。レベルによって、わたしがついていくか否かが決まるから」
インジュはフロリィに楽しそうに言った。
インジュは冒険者の中でも強い方だったので、一緒について行こうと考えていたのだ。
「え……じゃあ……その時は、お願いします…………」
「よし、お願いされたよー」
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ここは妖精国、妖精の城。
「陛下、フロリィ様と見られる者が人間国で見つけられました」
「どうやら奴隷として買われたようです」
王室の王様の前で、2人の少女が跪いている。片方は赤い色の髪と透き通った羽根を持っており、もう片方は青い色の髪と透き通った羽根を持っている。
「うむ」
陛下と呼ばれた男は、茶色の髪と透き通った羽根を持っていた。
彼は2人の少女を見て、厳かに言った。
「フロリィを買った者を見つけ次第、捕らえよ。必要であれば殺してしまってもかまわん」
「「了」」
2人の少女は無表情で答えると、その場から煙のように消えた。
「フロリィ……わしの可愛い娘よ……」
誰もいなくなった王室には、男の声がむなしく響き渡った。
この声を聞く者は、誰もいない。
空「後書きを乗っ取る会、始まるよー」
イ「わーい!!」
フ「…………ぱちぱち」
大「うん、今回のゲストは言わなくていいよね。前回勝手に最後に出たからな」
フ「カラス……お願い」
空「ん。今回のゲストは、元奴隷コンビ、インジュ・シルベリーワイトとフロリィです!」
イ「いえーい!!」
フ「…………ひゅーひゅー」
大「フロリィ、吹けてないからな」
フ「…………ひどい」
空「ダイチがフロリィを泣かしたー」
イ「いけないんだー」
大「うっ」
フ「…………てへっ」
空「なーんだ。嘘泣きだったのか……せっかく撫でてあげようかと思ったのに……」
フ「………………ん」
イ「フロリィがカラスに撫でてほしいってー。あの夜の間に何があったんだろうね」
大「カラス、お前……?」
空「よしよーし」
フ「…………えへへ」
大「カラス、ちょっと尋常に勝負しようか。種目はかけっこだ」
空「50m走0.7秒の俺に勝負を挑むとか……無謀」
大「嘘だ!!」
空「嘘だよ」
大「いつまでフロリィの頭を撫でているつもりだよ?」
空「フロリィがいいって言うまでだ」
フ「…………もっと」
イ「わたしもわたしもー」
大「…………なんで僕だけ?」
空・イ「「人間だから」」
フ「………………そういうこと」
大「ちくしょぉぉぉおおおおお!!」
空「ダイチが泣きながら走って行っちゃったので、今回はここまでにしておきますー」
イ「また次回、お楽しみに!」
フ「…………なんでやめるの?」
空「いつまでやってほしいんだ?」
フ「ん…………死ぬまで」
空「それ明らかにフロリィが先だから」
イ「また次回!!」
空「じゃあねー」
フ「…………じゃあね」