狐っ子とお風呂
ゲーム内で結婚したら、式の最中に中の人はじつは男だとカミングアウトされたでござる
「その、ゴー様、まずお風呂入らない?」
抱きしめたまま少女の髪の香りを楽しんでいたら、ちょっと焦った声と共にミミ子の両手が僕の胸を押し返した。
少し性急過ぎてしまったようだ。
ミミ子が怖がってしまうと元も子もなくなってしまうし、ちょっと深呼吸しよう。
少女特有の甘酸っぱいミルクのような匂いを、肺の奥深く吸い込みながら反省する。
「だからお風呂で綺麗にしようって! 寝汗かいてるのに匂い嗅がないで」
「ああ、そうか。お風呂だったな。よし入ろうか」
「だから先にお風呂の準備しないと。おかしいな、言葉が通じてないよ」
「それもそうだった。よし急いで水汲んでくる」
この家には備え付きの大きな湯船がある。
もちろん水道なんて便利なモノはなく井戸を往復して水を貯める必要があるので、公衆浴場に行くのが面倒な日だけ利用していた。
僕は階段を駆け下り、井戸へ走る。
干してあったタライを脇において、釣瓶をひたすら上下させ井戸水を注ぎ込む。
タライが一杯になったら、湯船まで運んで水を移す。
数回の往復で、湯船は溢れんばかりの水に満たされた。
なみなみと溜まった水に魔法具の『沸水の小晶石』を投げ込む。
これは水に入れるとお湯に変えてくれる超便利なアイテムだ。
どんな場所でも温かいスープが飲めたりするので需要が非常に高く、迷宮組合にも売却してくれとかなり粘られたっけ。
五分足らずで程良い温度に湧き上がる。
ただしミミ子はさらに五分かけた熱いのが好きなので、もう少し我慢する。
湯船から湯気がもうもうと上がり始めたので、『沸水の小晶石』を取り出し水を張ったタライに移す。
こっちは体を洗う用だ。
準備ができたので寝室に戻ってみると、ミミ子はまだベッドの上に座り込んでいた。
「お風呂湧いたよ、ミミ子」
「う、うん、入ってくるね」
寝起きで殆ど汚れてないとは思うが、替えの下着とタオルを持って後に続く。
「えっ? ゴー様も一緒に入るの?」
さっきからミミ子の様子がちょっと変だ。
顔は熱っぽそうだし、挙動もなんか怪しい。
「うん、ミミ子が心配だしね」
「さっきから言ってることが、よくわかんないんだけど……」
これ以上の議論は不要だろう。
僕はさっと服を脱ぎ捨て、先に風呂の戸を開けた。
冷たい床を嫌うミミ子の為に、熱いお湯をタイルに流して温めておく。
そのまま風呂椅子に座り、濡らした海綿に石鹸を塗りつけて体を擦る。
湯につかる前に綺麗にしないとな。
体を洗い終わって泡を流していると、ガラリと戸が開く音がした。
振り向くと体にぴったりとタオルを巻きつけたミミ子が、頬を赤く染めて俯きながら入ってくる。
そのまま僕の隣りの椅子に座り、タライから手桶でお湯をすくいその体に掛ける。
「ミミ子」
「なっなに?」
「タオルの上から、お湯掛けても綺麗にならないよ」
「そっそれもそうだね」
「よし、僕が洗ってあげるよ」
「えっ?」
ミミ子のタオルをスピーディに剥ぎ取り、泡立てた海綿でその背中、特に美しい肩甲骨を優しく擦る。
日焼け知らずの真っ白な少女の皮膚は、撫でると血の巡りが良くなるのか少し赤みが増す。肌が透き通るような少女のうなじに泡を擦りつけながら、僕は恐ろしい事実に気が付いた。
海綿だと、ミミ子の皮膚が剥けてしまうかもしれない!
「傷がつくといけないから、手で洗うね」
「もう、さっぱりわかんない――ヒャッ!」
泡にまみれた手を、少女の可憐な肋骨になぞるように這わす。
「ちょっ! 待って、そこダメ!」
「くすぐったいと思うけど我慢しろよ」
ほとんどない膨らみとその可愛い突起も、痛みを与えないように丁寧に揉み洗う。
さらに滑らかなお腹のラインをゆっくりと撫で上げ、太腿も緩くマッサージしてやる。
ちょっと息遣いが荒くなってきたが、のぼせたのだろうか?
ふくろはぎを丹念に揉み解し、可愛らしい足の指に僕の手の指を差し込んで洗ってやると、ミミ子は大袈裟に仰け反った。くすぐったかったかな。
そのまま踵を指先で擦り上げ、スリムな少女の足を隅々まで手の平で泡立てる。
足が終わったので次は腕だ。
白魚の形容詞が相応しいミミ子の指を優しく揉み洗う。手首から肘を通って二の腕までに、じっくり泡を擦りこむ。
ミミ子は瞳を閉じて、何かをずっと我慢しているようだった。
最後にミミ子の真っ白な尻尾にとりかかる。
ふわふわのもふもふを、泡立てた手で丹念にしごき上げる。
ミミ子は尻尾を擦る度に、小さくその身を震わせていた。ちょっと冷えたっぽいな。
少女の身体はどこを触っても、柔らかくすべすべでそれでいて弾力があった。
ミミ子の全身を隈なく泡まみれにして満足した僕は、少しぬる目の湯で洗い流してやる。
つるつるピカピカになった狐っ子は、僕にぐったりともたれてきた。
「ミミ子、こっち向いて」
僕の言葉にあごを持ち上げ振り向く少女に、そっと唇を重ねる。
ミミ子の金色の瞳孔が少し大きく開いた後、静かにその目蓋が閉じられ僕の唇を受け入れる。
少女の唇は薄いくせに、とても柔らかだった。
「お風呂つかろうか」
力が抜けてしまった少女を、お姫様抱っこで抱え上げ二人で湯船に入る。
お湯が盛大にこぼれるが、ピッタリとミミ子がくっついくるのでとても温かい。
しばらく無言のまま、僕たちはお湯の中でお互いの体温を感じていた。
まだ午前中なので灯り取りの窓からは、さんさんと陽の光が差し込んでくる。
湯船から眺めるその光景は、なんだか非日常的で不思議に思えた。
「ゴー様、お尻になんか固いの当たってるよ」
僕の上に座っていたミミ子が、その白桃のようなお尻をお湯の中で可愛く左右に動かす。
桃の付け根から伸びる尻尾が、ソレに合わせてお湯の中でゆらゆらと揺れる。
体のすべてを僕に預けたミミ子は、いつものペースを取り戻したようだった。
小悪魔のような笑みを浮かべ、その魅惑的な体を僕に擦り付けてくる。
「私の体、そんなに気に入ったの~?」
しばしの間、僕らは湯船の中で互いの唇の感触を楽しんだ。
先に風呂から出た僕は、寝室へそそくさと向かう。
シーツをピンと伸ばし、ミミ子のベッドから持ってきた枕を僕の枕の横に並べる。
掛け布団代わりのタオルケットを丁寧に折りたたみ、邪魔にならないようにベッドの足の方に置く。
準備が整ったと安堵した瞬間、ドアが緩やかにノックされ僕の返事をまたずに開けられた。
そこに立っていたのは、透き通る黒絹製の湯浴み着を着たミミ子であった。
さらさらと音がしそうな光沢の放つ布地は、ミミ子の太腿を僅かに隠すくらいの丈しかなく、細い肩紐は逆に胸元に届くほど長い。
白々とした肌と黒い肌着の組み合わせは、素晴らしいコントラストを描いていた。
「…………なんか言ってよ~」
「その、ソレどうしたの?」
「ミリカさんにもたせて貰ったの。こういう時に使いなさいって」
ミリカさんというのは、ミミ子を買った奴隷商で働いていた眼鏡のメイドさんだ。
僕にはよくわからない女の子の下着や服やその他の買い物を、たまに手伝ってもらっている。
アフターサービスのようなモノらしい。
「で、どうかな~?」
「……………………」
言葉にしようとしたが、無理だった。
そっと少女に近付いた僕は、何も言えずその唇に覆いかぶさる。
ミミ子は目を閉じて、僕の全てを受け入れてくれた。
その後、ミミ子が余りにも可愛すぎて我慢出来なかった僕は思わず戻れとつぶやき、巻き戻されたベッドの上で愕然とした顔のミミ子にグーパンで殴られた。
それでも結局その日、残った巻き戻しを全て使い切ってしまった。
流石に四回目あたりは慣れたのか、最後はぎゅっと抱きついてきていつもの冷えた体もぽっかぽかだった。
それでもしばらくは、ミミ子のご機嫌取りが大変だったけどね。
それとこの日からしばらくしてだが、ミミ子は自分の見た目を隠すのを止めた。
なぜ止めたのかは、僕には教えてくれなかった。
『上下水道』―街の中心部は完備されている。端の方は井戸を使う
『沸水の小晶石』―火精の精霊印が刻印された石。中と大もある。