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ボス戦の後始末

 ボスを倒しても、天井の発光石が戻って来るとかはないらしい。

 真っ暗なままの部屋を見渡しながら、僕はホッと息を吐いて弓を下ろした。


 強張った肩を回しながら、首筋に浮かんだ汗を手の平で拭う。

 最後の援護射撃は、自分でも満足のいく一射だった。

 やり遂げた達成感に浸りながら、僕は灯を求めて背後の闇に振り返る。

 


「ミミ子、ちょっとこっち照らせるか?」

「なに捜すの~?」

「背負い袋。扉の近くに置いたはずなんだけど」



 部屋の奥の方はソニッドさんが犠牲にしてくれたランタンのおかげでそれなりに明るいが、僕とミミ子が居る入口辺りは鼻の先に振られた指が辛うじて判る程度の暗がりだ。

 手探りで歩き回る僕の言葉に、背中のミミ子が小さく動く。

 同時に小指の爪程の光の玉が背後から飛び出して、周囲をちょっとだけ照らし出した。


 ふわりと浮かび上がる光についていくと、鉄扉の脇に投げ捨てておいた袋まで連れて行ってくれた。

 ミミ子の狐火フォックスファイアは、使う場面は限定されるがかなり便利な技能だと思う。


 障害物を勝手に避けながら、ミミ子が狙った目標物まで自動で飛んでくれる。

 目標物にくっついた後もそれなりの時間、燃え続けるので精密射撃のマーカーにピッタリなのだ。


 同時に出せる数は今のところ、三個が限界らしい。

 それと熱量もほとんどないので、燃やしたり焦がしたりなんてのもまだ無理だとか。


 なんとなく、出会った頃に交わした会話を思い出す。

 今さら詮索する気も起きないが、誰に教わった訳でもなくこんな技能を使いこなせるミミ子は本当に不思議な存在だ。



「なあ、ミミ子」

「な~に?」

「お前もしかして、陽炎イリュージョンの数も増えてるんじゃないのか?」

「ひみつ~」

「やっぱり増えてたか」



 僕の肩に顎を置いて唐突に寝息を立て始めたミミ子を、そっと揺すって耳の後ろを軽く掻いてやる。

 まあ今日の戦いはミミ子の援護なしでは、こんな綺麗に勝てなかっただろうし今はゆっくりさせてやるか。

 

 背負い袋からランタンを取り出した僕は、部屋の奥へ足を向けた。


 半ば崩れた骨の山の前では、ニニさんが未だうずくまったままだった。

 少女が身に付けていた白いケープを固く抱きしめて、俯いたまま何も語ろうとはしない。


 その丸めた背中には、メイハさんの白い手が添えられていた。

 僕の視線に気付いたのか、メイハさんは憂いを含んだ瞳を上げると静かに首を横に振る。

 まだ少し時間が必要なようだ。


 とは言っても、直ぐには来ないとは思うがボスが再召喚されるのは確実だろうし、あまりのんびりもしていられない。

 もっともさっきの様子だと、サリドールはもう出てこないかもしれない。

 理由は何となくでしかないが、正直あのレベルのモンスターが待ち構えていたら、五層突破者の数はもっと少ない筈だし。


 今のうちに何か出来ることはないかと見渡していたら、奥の祭壇でごそごそしていたソニッドさんが声を掛けてきた。


「おーい坊主、見つけたぞ」

「何かありましたか?」

「何かって……これが目的だろ?」

  

 差し出されたソニッドさんの手には、奇妙な青緑色をした鍵が乗っていた。


「あ、六層への鍵ですか……すっかり忘れてました」

「まあ、あの化け物みたいな奴を倒せたんだ。気が緩むのは仕方ねえか」

「でもこれで、やっとこの層の探求も終わりですね」

「…………あ、ああ」

「最初は地図作りだけのはずだったのに、気が付けばボスまで倒しちゃうなんてびっくりですね」

「…………その、それなんだが」


 僕とソニッドさんは、じっと見つめ合う。 


「やっぱり一個だけでしたか、鍵」

「ああ、一個だけだった」


 僕とソニッドさんは、深い溜め息をついた。

 今日の小隊パーティは、あくまでも臨時であり固定ではない。

 

 こういった場合の戦利品の所有権は誰に行くのかは知らないが、少なくともこの鍵は複製はおろか貸し借りも許可されないと思う。

 判ってはいたことだが、また残ったメンバーとここまで来る必要があるのは確実だった。

 

 この先、何度も暗闇空間ダークゾーンを往復しなければならない事実に、僕とソニッドさんはどんよりとした気持ちのまま目を合わせて、力の抜けた笑みを浮かべた。



 

   ▲▽▲▽▲




 歩けるようになったニニさんを連れて大伽藍から抜け出した僕たちは、発光石の太陽が再び戻るまでの三時間を中庭でぼんやり過ごす。

 その後は特に大きなトラブルもなく、さくさくと骸骨を塵に戻しながらもと来た道を引き返す。


 ニニさんも何かを考え込んでいたようだが、流石にその動きに乱れはなくモンスターたちを瞬殺していた。

 無事、回廊を抜け出せた僕たちだが、地上へ上がる前に鍵の確認をしておこうという話になる。


「これで開かなかったら、笑えてくるな」 

「いや、笑えませんよ」


 真面目な顔のまま軽口を叩くソニッドさんが鍵を差し込むと、六層への扉はあっさりと軋んだ音を立てながら開く。 

 真っ暗な階段を覗き込むと、下の階層への出口がぽっかりと白く開けていた。

 どうやら六層も、ここと同じような仕組みになっているのかもしれない。


「見張りの職員さんとか、居ないんですね」

「居なくても六層へ行けば、戦利品でバレるからな」

「それもそうですね」


 買取窓口が組合しかない上、探求許可申請書で行き先も明記してるので不正は出来そうにない。

 六層への扉を開けられる事実を確認した僕たちは、それ以上先へは進まず地上へと足を向けた。 


「それでどうしましょうか?」

「何をだ?」

「その、今日の分配です」

「ああ、それがあったな」


 一層の階段下まで辿り着いた僕たちは、松明台の下で相談を始める。


「戦利品は六層への鍵と、そっちの――」


 僕の言葉に顔を上げたニニさんは、メイハさんへと視線を移す。

 彼女の肩には白いケープが掛けられていた。

 鑑定前なので断言はできないが、少なくとも二種類の呪紋が描かれた魔法具アーティファクトだ。

 金貨単位での取引になることは間違いない。


 だがこれはサリドールの遺品でもある。

 売り払って金に換えて良いものだろうか。



「――それ何かいわく有り気だな。俺は結構だから、お前らで好きにしてくれ」



 どうやって売らない方向に持って行こうと考えていた僕は、その言葉に驚いて顔を上げた。

 小さく片目を閉じてみせるソニッドさんを見たまま、何も言えず黙りこむ僕の代わりにメイハさんが口を開く。


「よろしいのですか?」


 その問いには暗にソニッドさんの壊れたランタンや、ボロボロになった短剣のことが含まれている。

 ソニッドさんの黒骨の短剣ブラックボーンダガーは、サリドールの結界に抗って彼女の手首を切り落とした時に酷い刃こぼれが生じていた。


「いいんですよ。俺は今日の戦いに混じれただけで、かなり満足できましたし」

「でも、ソニッドさん。修繕費とかは……」

「金のことは気にすんなって。それよりもさ、また良かったらちょいちょい、うちの小隊パーティに参加してくれねえか?」

「はい、喜んで参加させてもらいます」

「よし、この件はこれでお仕舞いってことで」

「それなら、せめて今日の鍵はソニッドさんが持っていて下さい」

「良いのか?」

「はい。また一緒に取りに行きましょう」


 僕の言葉に、ソニッドさんは楽しそうに笑ってみせた。

 そんなソニッドさんに対し、ニニさんは無言で頭を下げていた。



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